第19話 魔力の器

 「うわーっ‼ここが糸の家なの?」

 こちらの世界に来ても、ミウはイオを『糸』と呼ぶ。

 まあ、いいけど……

 糸でも、イオでも。

 けれど……

 何故だろう?出来ればイオと呼んで欲しい。

 前世の名前よりも、今世の名前のほうがしっくりき始めている事実に。

 イオ自身も初めて気付く。

 「うん。なんか荒れ地をうろついている頃でっかい魔物を倒して、その報奨金で買ったんだ。」

 「ほえーっ?」

 同じ6歳児が?

 報奨金が出るような魔物を倒す事実に、ミウの方は考えることを放棄した。

 河合糸は親友だった。小学校は別だったが、中学からは同じ学校。勉強が出来た美雨は私立の進学校を目指し、そこに陸上部の推薦枠で糸が入った。

 だから、高校まで一緒だった。

 口は悪いけどよく笑った親友が、少し遠くに行ってしまった気がした。

 しかし、前世で何回か行ったことがある河合家の間取りそのままの住宅に納得する。

 イオは糸だ。

 「ま、部屋はいっぱいあるし、一緒に住もうぜ、ミウ。」

 「うん。」

 イオも捨てられたと言っていたし、帰れる場所もないミウは家を得てホッとする。

 「んじゃ、たぶん丸1年、体も拭けていないだろ?風呂入るか、ミウ?」

 「えっ?」

 風呂?

 この世界、水を浴びたり拭くくらいで、入浴の習慣はない。

 「へへ。全属性のイオ様をなめるなよ。」

 笑いながら連れて行かれたのは、確かに風呂場だ。バスタブから土魔法を駆使して自作したらしい。

 そこに水魔法で水を出し、火魔法で適温にする。

 一瞬でお風呂が用意された。

 「ま、洗い場とかなくて、湯船でこする感じだけどな。」

 「えっ、でも、すごいよ、これ。」

 「へへ。手伝ってやろうか、洗うの。」

 女子高ノリの冗談だ。

 6歳の、今はまだ膨らんでもない胸を揉むしぐさの少年に、

 「馬鹿糸‼自分で洗える‼」と、怒鳴る。

 「ちぇーっ、そんなムキにならなくても。」

 退散していく後ろ姿に、分かっているのか心配になる。

 糸、今絶世の美少年だよ。

 どう考えても危ない匂いしかしないよ。

 追い出しておきながら、あまりにお湯が汚れたので焦る。

 1年間身綺麗にする努力をしていない。

 仕方ない、半泣きで助けを求めた。

 「糸ぉ……」

 「そうなると思った。」

 笑いながらお湯を張りなおしてくれた。


 風呂上り、まだ替えの服はない、イオの服でダイニングの椅子でくつろいでいると、

 「うん、マジ美人だよな、ミウ」と、顔を覗き込んでくる。

 近い‼近い‼

 あからさまに目を逸らしつつ、

 「糸もキレイじゃんか」と、唇を尖らせた。

 「オレは今は男だし関係ないよ。うん。マジキレイだ。」

 「も、もう‼」

 友人と異性との狭間に入って反応しにくい。

 口説かれてるの、これ?

 モジモジしていると、イオが両手を差し出してくる。

 「ミウ、試したいんだけど。」

 「えっ……」

 感じまくっていたサチの事を思い出した。

 あれはキツい。絶対キツい。

 「でも‼普通魔力なしなら分からないはずなんだよ、オレのオーラも‼アランは何も気づかなかったけど、お前は気づいていたろ?魔力に反応してるんだよ‼」

 研究者みたいな真顔で言われ、断れなくなったミウが手を差し出すと、

 「いくよ。」

 「ん!」

 体中を何か得体のしれないものが嘗め回していく。

 気持ちよくて、気持ち悪くて、くすぐったくて、熱いような、寒気のような。

 「もう、ダメ、糸……」

 抗議しても止めてくれない。

 やっぱSっ気あるよ、この子。

 「あれ?これ、凄くない?えっ、これって?」

 たっぷり数分、堪能したイオは、

 「すっげえ、ミウ‼」と、興奮し切りで抱き着いてくる。

 「お前、魔力の器だ‼」

 器って……?

 「お前、王太子の嫁になれ‼」

 ……

 はい?

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