第18話 ユースフ(教皇)にクレーム入れてやる‼
「糸‼」
懐かしい名前で呼んで、美雨がオレに飛びついてきた。
東スラムで王妃様候補を探して4日、まさかの親友に会いました。
同じ事故で転生したせいか、年はほぼ同じで6歳だ。
美雨は……
こちらの世界でもミウらしいが、驚くほどキレイな顔立ちだった。
短く刈られた髪が、工夫をし身を守ったと伝えている。
黒髪で金目。
日本ではかわいい系だったのに、幼いながらも怯むほど美人だ。
そんなのにポロポロ涙を流されながら縋りつかれた日には!
『可愛いな』と、思ってしまった。
イオの中に、こみ上げるような奇妙な感覚がある。
『おい、待て‼』と、セルフ突っ込み。
こいつは親友、そういうのじゃない。
でも、もしかして?
黒髪、超絶美人ではあるが派手ではない。
え?理想?
理想の王妃様候補?
ただ、残念ながらミウからは魔力を感じなかった。
魔力なしでは候補になれない。
でも?
なんだろう、奇妙な予感が離れない。
「やっぱ、女の子だったんだね。」
一連のやり取りを見ていた、サチが言った。
「ごめん‼姉さん‼言えなかった‼」
「ううん、いいよいいよ。よく頑張ったよね。」
今度がサチに縋り付いて泣くミウと、それを優しく受け止める保護者役だった少女。
うん、いいね、女の友情(百合百合しい)。
落ち着くのを待ってイオが、
「ゴメン、サチさん。こいつ、オレの昔馴染み。連れてくよ」と言うと、
「うん」と彼女も頷いて。
「で、さぁ。」
イオは気になったことを訊いてみる。
「3人は、『祝福の儀』受けてないの?」
糸が……
こちらではイオらしい親友が、私にとってもトラウマである『祝福の儀』を持ち出した。
思わずしかめっ面になるミウに、
「受けたよ……って言うか、受けたから捨てられたって言うか……」
モゴモゴと答えるサチ。
「やっぱりか‼」
イオは、苛立ったように頭をかいた。
「やっぱり?」
「って言うか、王都の東地区の司祭、相応の目に遭わせてやる。今度ユースフに文句言っとく。オレじゃ殺したくなる。」
「はい?」
「ユースフ?」
何を言っているのかわからなかった。
ただ、説明するより実践とばかり、
「サチさん、オレの手を握って。」
「え?うん。」
「いくよ。」
「あん‼」
イオが何かをしたことは、魔力なしの私にもわかった。
でも、今のは、ちょっと……
声のトーンが……
夜聞いた、あの声に近い。
え?これ、感じてる?
元女の子でしょ、君。
何してる?わかってる?
「ごめん、ちょっと辛いだろうけど。そのままあいつを、オルトだっけ、あいつを見てみて。」
うん、この言い方はわかっていない。
イオに促されるまま、腰が落ちそうな感覚のままオルトを見たサチが、驚きで目を見張った。
「えっ‼」
そこには情報が……『見える』ではおかしい、伝わったから。
オルト(32歳)。東スラムのチンピラ。土の魔力適正あり(極小)。
「普段見えないこと、伝わった?」
イオに訊かれ、体を貫く快感も忘れた、サチは大きく頷いて見せる。
「それ、鑑定魔法。見逃されたんだよ、『祝福の儀』で。」
「えっ?」
「マジ許さねえ。」
どうやら、王都東地区の司祭は『鑑定魔法』が見えないらしい。
中途半端だ。他人の人生をゆがめる事実に全く気付いていないクズだ。
「鑑定できれば冒険者ギルドや商業ギルドで働ける。普通以上の生活ができるよ。」
「嘘……」
「あと、あっちの2人も鑑定の魔力がある。ただ、あの年で使えるのがわかるとどんな目に合うかわからないから、ギルドに登録できる12歳を超えてから、サチさんが伝えてくれ。」
「うん。」
取り急いで伝えてから、イオは空間収納から大銀貨を3枚取り出した。
急に目の前に出てきた大銀貨に驚き顔の少女達に、
「オレも全属性を、『悪魔の子』って追放された口だ」と、苦笑い。
「取り合えずスラムを出て、これで身なりを整えて。そのあとで冒険者ギルドへ。話は通しとく。」
イオは首から下げたギルドカードを見せた。
「ありがとう。」
崩れ落ちるようにむせび泣く少女を背に、イオはミウを連れてスラムを出たのだ。
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