第34話 こうなると思った⤵
イオが出した侯爵家への2択だ。
結果返り討ちだったものの、私欲のために他家を襲わせた。
選択肢は2つだけで……
1つ目は、私財没収の上家名も没収の平民落ち。
侯爵の妻とまだ8歳らしいマリアンの弟は、離婚して彼女の出自である伯爵家に戻れば辛うじて貴族ではあれるだろう。
が、侯爵自身とマリアンは無理だ。
1年ほどは暮らせる金子と共に放逐となる。
顔の傷も治さない。
2つ目は、侯爵の地位も私財も残す代わりに、王都のスラムを健全化すること。領地への過度な税負担は厳禁、私財を使うことが原則である。
「ま、東はほとんどオレが立て直したし、北と南西だけでいいけどな」と、イオがサラリと言ってのけた。
何も考えていないようで……
一応イオも内政をしている。
教会の立て直し……無能力な偏見丸出しの司祭の追放や処罰などは、イオの、その彼が助け出した仲間たちの一件で心より反省した、教皇ユースフがすべて請け負っている。
ただ、間違いによる子捨ては防げても、無能力者を捨てる馬鹿親はいなくならない。
ならば捨てる場所をなくせばいいと、まずは縁のあった東スラムの改革を始めた。
荒くれ者達を叩きのめし、虐げられていた人々を自領に来るよう説得する。
イオの引き継いだ旧侯爵領は、魔物のティムで有名だった。つまり魔物が多く、開発可能な地域も多い。
王都の冒険者ギルドから、受付のイリヤ女史を引き抜いてギルマスにした。
荒いながらも統制の取れた、正当な評価と正当な報酬を払う、イオに言わせれば当たり前のギルドを開設。評判を聞き冒険者が流れ込んだことで、魔物から土地を奪還、開墾に充てる。人手はスラムから補充できるとなり、今はもう、『東スラム』は過去のものだ。
市民街との境にあった商店はイオの出資で立て直し、その背後にあった魔窟のような、迷路のようなさびれた町はいったん更地にした。
今はもう、どこがスラムだったかわからない、広大な市民街が広がっている。
「私財で北と南西のスラムを健全化できたら、顔の傷は治してやるよ。」
白銀の言葉に、侯爵も覚悟を決めた。
他人を傷つけることを躊躇わない男だが、やはり自分の子はかわいい。
この仕事を1、2年で終われたら、娘を適齢期のうちに嫁に出してやれる。その後は息子の成人を待って引退する。それしかない。
話がついたイオの前に現れた王太子が、
「まずいことになった」と、ため息をつく。
「何が?」
「このレッドローズビル家もそうだけど、貴族でも上位の方は常に他家の動向を注視して監視しているものなんだ。」
「?」
「……今回のレッドローズビル家の騒動は、いち早く他の侯爵家に、マーベリックとグランに伝わった。」
「???」
「……2人とも、婚約者候補、辞退してきたよ。」
ここまで言われてなお、頭に『?』がついた状態のイオ。
代わりに、近くで話を聞いていたミウとサチが息をのんだ。
「えっ‼」
「嘘‼」
声のトーンは衝撃が主で、喜んではいない、わかっていた。
「僕の婚約者候補、1人きりになっちゃうよ。」
頭を抱えミウを指さすハルトに、考えて、考えて、たっぷり3秒固まってから、やっとイオが気が付いた。
少し遠くに置いておいた、直視したくない未来が、今目の前に迫っている。
ミウを手放す?
あり得ない。
あり得ないけど、そうするしかない。
誰が望んだ?
オレだ。
なんで?
頭が千々に乱れたから、パッとミウを振り返るイオは、自分でも思ってもみないことを言っていた。
「すげえじゃんか、ミウ‼王太子妃だぞ‼」
誰が見たって無理している。顔だって泣き出しそうに引きつっていて、それでもついた大嘘に。
バチーン‼と大きな音が響く。
ミウがイオを引っ叩いた。
「もうヤダ‼イオなんて大嫌い‼」
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