第14話 お義姉さん

「木本君、起きてるか?」


「え? アスカさん!?」


 廊下からはアスカさんの声。真夜中の来客は魔王の刺客ではなかった。

 僕は飛び起き、急いでドアを開ける。


「すまない、こんな遅くに」


「い、いえ……!」

 ドアを開けると、湯上り姿であろうアスカさんが立っていた。美しい……。


「あのチビスケは?」

 部屋を見渡すアスカさん。


「チビスケ? ああ、ガイドなら寝ちゃいました」


「ふふ、しょうもない精霊だな」

 笑うアスカさん。さっきまで追いかけまわしていたが嫌いではないようで安心した。



「今日はお疲れ様。無事にダンジョンクリアできてよかった」


「そ、そんな、大したことしてませんよ……」

 レベル0のスライムを一撃で倒したことを思い出す。

 うん、ホントに大したことしてないな……


「慌ただしい一日だったな……」


「はい……信じられないことばかりで……」

 人間界に魔王がいる事、ダンジョン出現の理由……驚くことばかりだった。

 僕たちは今日の新情報を整理してみた。


 ・人間界のダンジョンやモンスターは、精霊界でやられた傷の治療のために魔王が作った


 ・その時に人間にも魔力が宿るようになった


 ・魔王の傷はほぼ治っている。近いうちにこの世界を滅ぼして精霊界も再び滅ぼしに行くだろう


 ・精霊は魔力の無い、レベル0の人間とだけ契約できる。契約しないと消滅してしまう


 ・ガイドは契約した人間にだけ(キモオタ)、レベルアップする方法を教えることができる


 ・僕が魔王を倒せるレベルまで成長して、魔王を滅ぼす!


 うーん、あらためて見ると、この世界の重大な秘密を知ってしまったな。


「そんなわけで、ガイドは木本君を成長させて、魔王を倒すように考えているようだが……本当にいいのか? 危険な目にもあうだろう」

 心配してくれるアスカさん。


「はい! ビックリはしましたけど……冒険者は僕の夢だったんです! 望むところです!」


「……そうか! なら全力でサポートさせてもらうからな!」


「はい!」

 勇者パーティーには美人剣士は必須だ。アスカさんの美貌なら文句なしだ。



「それでな……木本君……」

 アスカさんの表情が曇る。


「はい?」


「今回のダンジョンの報酬の件なんだが……」


「あっ!」

 バタバタしてすっかり忘れていた! 


「そうだ! アイドルの白野サクラちゃんとデートさせてくれるって!」

 僕は満面の笑みになる。


「……覚えていたか……」

 残念そうなアスカさん。忘れるものか!


「もちろん! そのために死闘を繰り広げたんですから!」


「死闘……?」


「くぅーッ! 楽しみだなぁ! サクラちゃん、可愛いんだろうなぁ」

 テンション最高潮の僕に対して、どこか暗いアスカさん。


「実は……その件で謝らないといけないことがあってな……」


「え!?」

 嫌な予感しかしないセリフだ。


「じつは……サクラには今は会えないんだ……すまない!」

 アスカさんは僕に頭を下げる。


「はぁ……そんな気がしてましたけど……ん? サクラ?」

 大人気アイドルの白野サクラちゃんをサクラ呼びなんて……


「もしや? アスカさんもサクラちゃんのファンですか?」


「……妹なんだ」


「……え?」

 僕は耳を疑った。


「アイドルの白野サクラは私の妹なんだ……」

 アスカさんはどこか恥ずかしそうに驚くべきことを言う。


「えぇぇ!? 姉妹? ってことは……白野アスカさん!?」


「ま、まあそうなるが……そこ気にするか?」


「に、似てる……言われてみれば……サクラちゃんに似た美しいフェイスライン! キリっとした目元!」


「黙っていてすまなかった」


「いえ、気にしないでくださいよ……お義姉さん!」


「……お義姉さんはやめてくれ……」

 本気で嫌な顔をするアスカさんであった。


 衝撃的なカミングアウトに驚く僕。

 確かにソックリだ。どうして今まで気づかなかったのだろうか……

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