第3話 囚われた宇宙人
気づけば政府の黒スーツの男たちに連れられ高級そうな黒塗りの車で走っていた。
車に詳しくはない僕でも、家の軽自動車と乗り心地が違うことは分かった。
これが高級車ってやつか。流石は政府、金はあるようだ。
しかし、一体なにが起こっているのだろうか?
ついさっきまで部活に勤しんでいた高校生の僕がどうしてこんな事になっているんだ!?
先生も理由は知らないみたいだ。
いつもは生徒には偉そうな先生も、より強い権力の前では何もできることはない。
先生も政府の前ではだたの公務員であった。
連れていかれる僕に手を合わせることしかできなかったようだ。
「あの、どういうことか説明してもらえませんか……?」
僕は恐る恐る黒スーツに聞く。
「すまないが私たちから説明することはできないんだ」
黒スーツからはテンプレのような回答が返ってきた。
この黒の組織の連中と遊園地にでも行くのだろうか? 僕のコードネームは何になるのかな?
「もうそろそろ本部に着く。そこで説明があるはずだ」
気づけば横浜を離れ、東京についていた。
都会だ。たしか霞が関というあたりだ。
黒スーツがどこかに電話をかける
「お疲れ様です。そろそろ本部に到着します。ええ、例の少年も快くついてきてくれました」
……快く?? 拉致の間違えでは!?
「では後程、アスカさんにもお伝えください」
……アスカ? かつての憧れ女剣士アスカを思い出す。……まあアスカなんて良くいる名前か。
そうこうしているうちに車は巨大なビルに到着した。
今までの人生では縁がなかったような立派なビルだ。
ロビーでは美人な受付、ピシッとしたビジネスマン。
まあ僕も学校の制服なので正装といえば正装だが場違い感は否めない。
屈強な黒スーツに挟まれロビーを歩く姿は異質だろう。
囚われた宇宙人のようにエレベーターで最上階へ上る。どうやら彼らの本部というのはこのビルの最上階らしい。
「少しここで待っててくれ。アスカという人がすぐに来るから」
そう言い残し、黒スーツは去っていく。
あの黒スーツが前座か。アスカとはどんな奴なのだろうか……まさか本当に……
僕一人、広い部屋で待つ。
霞が関のど真ん中。桜田門、国会議事堂、皇居だって見下ろせるビルの最上階。
一体、僕は何に巻き込まれてしまったのだろうか?
『ガチャ』
部屋の扉が開く。
……アスカさん……!?
僕は微かな期待を胸に扉に目をやる。
「あー、お待たせ」
そこには『あれ? コイツは未来の僕かな?』と一瞬勘違いするような、小汚い肥満の中年男性が立っていた。
「どうも、鑑定士の
「……どうも」
現実は甘くないってことだね蛸沼アスカさん……
◇
「待たせしてごめんね」
涼しい部屋のはずなのにすでに汗だくの蛸沼さん。
いい名前ですねぇ。大分パンチ効いてますけど、しっかり名は体を表してますよ?
どこか親近感を覚えた。
「いえ、あのどうして僕がここに連れてこられたんですか?」
いい加減理由くらい教えてくれよ!
「あれ、まだ聞かされてないの?」
汗をぬぐいながら蛸沼酸が言う。
「はい……担当のアスカさんから聞いてくれと」
まったく、報連相の出来ていない組織だな!
「あーそういうことか。そりゃそうだね。とりあえず先にレベルの鑑定からさせてもらうよ」
「レベルの……?」
どうしてよりによって僕のレベルを? レベル0だぞ?
蛸沼さんは僕の手のひらを見る。
鑑定士のスキルを持っている人はこうするとレベルが浮かび上がって見えるらしい。
傍から見たら巨漢のオッサン占い師に見てもらうキモオタ、とういう気持ちの悪い構図になっている。
「おぉ……本当にレベル0だ……こりゃすごい……」
どこか嬉しそうな蛸沼さん。
「すごいって……」
「いや、私も長く鑑定士をしているけどレベル0は初めてだよ! レア! 激レアだね! SSR!」
蛸沼さんじゃ興奮している。鑑定士から見ると歴史的発見なのだろう。
「そんなに珍しいですか……」
こんなに嬉しくないレアはなかなかないだろうが……
「なるほどね、確かにこれなら大丈夫だろう。よしよし……」
蛸沼さんは一人うなずき納得している。
「あの……だからなんで僕が連れてこられたのかそろそろ教えてくれよ!」
流石に僕もイライラしてきた。
「ちょ、ちょっと! そんなに怒らないで!」
蛸沼さんは怒る僕に慌てる。
「政府の権力で無理やり連れてこられて何の説明も無く! 早く理由を教えてくれよ!」
オタクだってキレる時はキレるんだぞ!
「え? 君はアスカさんから聞けって言われたんでしょ?」
「だから! アンタがアスカさんだろ?」
何を言ってるんだこのオッサンは!?
「えぇ!? わ、私は蛸沼ゴンゾウだよ?」
「え?」
蛸沼……ゴンゾウ? アスカっていうのはコイツじゃないのか?
「き、君はあんまりダンジョン冒険者とか興味ない子かな?」
「いや……」
興味はもちろんあるが……
「今の子はアスカさん知らないのかな? 結構有名なんだけどなぁ」
……どういうことだ? 理解が追い付かない。
『カッカッ』
その時、廊下から聞こえるピンヒールの音。
『ガチャ』
肥満中年とキモオタが言い争いをする醜い部屋に誰かが入ってきた。
「すまない、待たせたね」
美しい声で彼女は僕に話しかけた。
「あ……ぁ……」
震える僕、あまりの興奮にチビっていたのは言うまでもない。
スラっとしたスタイルの良い、圧倒的オーラを持つ美女。
「ギルド竜の牙のアスカだ。初めまして木本君」
彼女は僕の憧れの最強女剣士アスカさんだった。
「あ、あの……ファンです……好きです……」
アイドル白野サクラから推し変は一瞬だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます