第62話 魔人化

「さあ! 次は光の壁を作ってください!」


「うおおおお!」


 それからも、ひたすら魔法を使う僕。




「キモオタ君、まだまだぁ!」


「はぁはぁ……」


「アンタね! へばってるんじゃないわよ!」


 サクラちゃんも檄を飛ばす。




「うぅ、も、もう無理……」


 僕は魔力が底を尽き、倒れこむ。




「よし! 私の出番だな! スイッチオンッ!」


『ビリビリビリビリ』


「ギャー――!」


 魔力回復装置……何度これを使っただろうか……




「お、元気になったな!」


 得意げなアスカさん。




「さあ! また魔法を使ってください!」


 魔法のことになると元気なガイド。




「アンタ! いつまで寝てんのよ!」


 いつでも厳しいサクラちゃん。




「……こ、殺される」


 魔法を使う。倒れる。回復する の繰り返し。


 完全に僕の人権を無視されたとんでもない訓練だ……




「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! こんなの続けてたら死んじゃいますよ!」


「大丈夫! 木本君にはこれがあるんだ!」


 アスカさんは魔力回復装置を見せつける。




「いつまでこの地獄が続くんだ……」


「それはもちろん魔王を倒せるくらい強くなるまでだ!」


「うぅ……勇者は辛いな……」






「キモオタ君! そろそろ次のステップに移りましょう!」


「ほんとか? ガイド!」


 よかった! さすがにそろそろ同じことの繰り返しで嫌気が差していたところだ。




「次の訓練はなにをするんだ!?」


「おほん…キモオタ君は魔王を倒すためにこの訓練をしていますね?」


 やけにかしこまった話し方のガイド。




「も、もちろんだ!」


「では、これから教える魔法は魔王を倒す奥義になるはずです」


「お、奥義!?」


 カッコイイ響きだ。




「はい。今までのキモオタ君は魔力が低かったので使えないと思って教えていませんでしたけど、今のキモオタ君になら使えるかもしれません」


「なるほど、魔力をたくさん使うんだね……」


 魔力の消費が多い魔法か……なんだろう? 元〇玉的な巨大な弾丸かなんかかな?




「じゃあキモオタ君、さっそくやってみましょう」


「よし!」


「まずは魔法剣を思い出してください。手に持っている剣に魔法を流して、剣を強化する魔法です。」


「ああ、魔法剣はバッチリだよ」


「やってもらう奥義、それは光魔法を剣ではなく、体中に纏わせるものです」


「体に……光魔法を纏わせる?」


「そうです。よく炎魔法を使う人なんかは拳に炎を纏って殴ったりしますが、それを拳だけではなく、全身に纏わせます」


「なるほど……やってみよう!」




 光魔法を全身にか……やったことは無いけど。


 僕は魔法剣の時のように体に光魔法を流し込む。


 体が少しずつ発光していく。


「おお……いいんじゃないか?」


「いえ、全身に均等に纏わせるイメージです!」


「均等に……うーん、コントロールが難しいな……」


 魔法を上手く操る技術力が必要なようだ。たしかにこれは以前の僕では使うことは出来なかっただろうな……




 しばらく苦戦する僕。


「よし! どうだろう? ガイド」


 全身が均等に光り輝いている。


「はい! 良い感じです! じゃあキモオタ君、そのまま全身の光の魔力を高めていってください!」


「このまま魔力を?」


 僕は全身の光を保ちつつ、魔力を上げる。




「もっとです! もっともっと魔力を高めてください!」


「うおおおお! くっ、魔力の消費が激しいな……」


 僕の体は強烈な光を放つ。




 その時、僕は体に奇妙な感覚を覚える。


「……ん!?」


「キモオタ君、どうですか? なにか変わりましたか?」


「な、なんだろう……? さっきまで魔力を使い過ぎて体が重かったんだけど……今はすごく軽く感じる……どういうことだ?」


「よし! 成功したみたいですね! そのまま、あの壁まで走ってみてください!」


「あの壁まで?」


 ガイドは部屋の離れた壁を指さす。


 どういうことだろうか? 確かに全身に力がみなぎるような感覚だけど……




 僕は壁に向かい、地面を蹴る。


『ビュッ!』




「き、消えた!? どこだ!?」


 驚くアスカさん。


 僕も驚いた。走り出した瞬間、壁が目の前に現れたのだ。


 いや、違う。僕が一瞬で壁まで移動したのだ。




「こ、ここです……」


「え? あんなところに……?」


 一瞬で100メーターほどの距離を移動した。




 どういうことか分からないが、光り輝く今の僕はとんでもないスピードで動けるようだ。




「す、すごい! ガイド! これが奥義な……うぅッ!」


 僕はめまいを起こし、その場で倒れた。体の発光も消えた。




「うぅ……」


「大丈夫ですか!?」


 心配そうにガイド達が駆け寄る。


「う、うん……魔力を使い過ぎただけだよ。それより、今のは一体!?」


「はい、今のは魔人化という技です!」


「ま、魔人化!?」




 僕はとうとう魔人になったようだ……

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