第24話 勇者の剣
「いやぁ、デート日和ですね!」
その日の僕はウキウキであった。
「……そうかな? 普通の天気だが……?」
今日はアスカさんと武器を買いに行く日だ。
「ちょっとキモオタ君? 私もいるんですからね?」
契約で僕から離れられないガイドももちろん一緒だ。
「今日はどこの武器屋に行くんですか?」
「私たちギルドの行きつけの武器屋だよ。質の良い武器が揃っている良い店だ」
「おーアスカさん行きつけ……きっとすごい武器屋なんでしょうね……」
武器屋に到着する。
冒険者の多いこの世界では武器屋はたくさんある。
庶民向けの安い店から、プロ御用達の高級店まで様々だ。
「こ、ここは……」
トップ冒険者のアスカさん行きつけという武器屋は、外観からして明らかに高級店だ。
まるで高級外車のディーラーのような豪華な店に僕は緊張した。
「いらっしゃいませ。アスカ様」
高そうなスーツを着た店員が話しかけてくる。どこか胡散臭い男だな……
「今日は何をお求めでしょうか?」
「今日は私ではなく、この子の武器を探しに来たんだ」
「この子……?」
店員が僕を見る。
「この子……この方の武器ですか……?」
「……どうも」
店員は明らかに高級店に場違いな僕を怪しげな目で見てくる。当然だ。
「えーっと……『初めてのダンジョンセット』のような武器でしょうか……?」
「そんなわけないだろ! 失礼だな!」
アスカさんが声を荒げる。
「し、失礼いたしました! どのようなモンスターと戦うご予定でしょうか?」
「魔王だ」
アスカさんは言った。
「ま、魔王……!?」
聞き返す店員。当然、僕ら以外は魔王のことなど知らない。
「とにかく、この店で1番いい剣を持ってきてくれ!」
カッコイイ注文の仕方をするアスカさん、お金は大丈夫なのだろうか……?
「はい……」
アスカさんでなければ冷やかしだと思われても仕方ないだろう。
店員は店の奥から剣を持ってきた。
ギラギラに装飾された箱。箱だけでも高級そうだ。
「こちらが当店で一番いい剣です」
店員が箱を開ける。
「こ、これはすごい剣だ……」
アスカさんも驚くほどの剣のようだ。
光り輝く刃、シンプルながら美しい柄の装飾。素人目に見ても良い剣だ。
「どうだろう? 木本君」
アスカさんが僕に聞く。気に入るに決まっているじゃないか!
「は、はい……よくわかりませんが、カッコイイ剣ですね……」
僕は剣を持ってみる。
「いいじゃないか。ピッタリ合っているよ」
アスカさんが言う。
「キモオタ君! 素敵ですよ!」
ガイドも褒めてくれる。
「へへへ、お似合いですよ、お客様! かっこいい! イケメン!」
店員も思ってもないようなことを言っている。
「いい剣ですね……しっくりきますよ」
しかし、本当に良い剣に間違いなかった。
「よし! じゃあこれをもらうよ」
アスカさんが即決する。
「お買い上げ、ありがとうございます!」
頭を深々と下げる店員。
「アスカさん! 本当にこんな剣を買ってもらっていいんですか……?」
「ああ、この剣でますます頑張ってくれよ!」
ありがたい、大切にしよう。
「アスカさん、剣のことで相談があるんですが」
「お、どうした? 剣のメンテナンスか?」
「この剣には『勇者の剣』という名前を付けようと思うのですが良いですかね?」
「……ああ……(どうでも)いいじゃないか……」
「キモオタ君……ネーミングセンスも激キモなんですね……」
どうしてガイドが馬鹿にするのか分からないが、僕は勇者の剣手に入れた。
「勇者の剣(けん)じゃなくて、勇者の剣(つるぎ)ってところがポイントなんですよ!」
「……それはよかったな」
なぜか冷たい目のアスカさんであった。
「ではアスカ様、お会計はこちらになります」
店員が伝票を持ってくる。
「クレジットカードで頼むよ、一括で」
この剣……いくらするんだろうか……?
僕はチラッと伝票を見る。
「えっ!? ア、アスカさん! こんな高い剣、受け取れませんよ!」
目玉が飛び出るかと思った。木本家の一軒家より高い金額だろう。
「気にするな! いい武器は高くなるんだよ」
アスカさんはそう言ってくれた。
「で、でも……」
「いいんだ! 私はそこそこ稼いでいるからな!」
アスカさんは金ピカのクレジットカードを見せてくる。
「……大事にします! ガンガンレベル上げますね!」
「ああ、でも学校もちゃんと行くんだぞ?」
一瞬、怖い目つきになるアスカさん。
「はい……」
僕はこうして最高の剣を手に入れた。
あとはレベルを上げるだけだ!
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