第10話 精霊

 「木本君、お疲れ様……い、良い戦いだったぞ……」

 戦いを終え、僕にねぎらいの言葉をくれるアスカさん。


 しかし、さすがに手裏剣一撃は予想していなかったようで苦笑いでアスカさん。

 当然だ。ここまで用意してもらってあの終わり方は予想外だろう。


「……ハハ、圧勝でしたね」

 さすがにあの弱さには驚いた。


 レベル0のモンスター、おそらく自然界にはいないレベルの弱さだったのだろう……

 わざわざついて来てくれたサポートメンバーにも申し訳ない。


 ダンジョン冒険者という幼い頃からの夢が叶ったが何とも複雑な心境だ。 

 初めてのダンジョンクリアだっていうのにこの虚しさ。ほんとにこれでクリアになるんだろうか?





 《ダンジョンクリアおめでとうございます》


 あのアナウンスが流れだす。

 よかった。無事にクリアできたようだ。



 ボスステージの中央に光が集まる。



「気をつけろ!」

 アスカさんが剣を構える。


「はい!」

 俺も剣を構える。


「調子に乗るなぁ! 木本君は引っ込んでろ!」


「ぐわぁああ」

 アスカさんは俺をステージの外に蹴り飛ばす。


「モンスターが飛び出してくるかもしれないんだぞ! 危険だ、離れていろ!」


「……はい……」

 ダンジョンをクリアしたとはいえレベル0の俺にアスカさんは厳しかった。ボスを倒したんだから少しくらい優しくしてくれてもよくないか?

 トボトボと離れ、遠目に光を見る。



 小さな何かがフラフラと光から出てきた。


「むっ!? モンスターか? くらえ!」

 アスカさんがそれに斬りかかる。その時――


「キャーーーッ! 斬らないでぇぇえ!」


「!?」

 部屋中に女の子の叫び声が響き渡る。


「き……斬らないでください! わ、私は精霊です!」


「せ、精霊!?」

 驚く一同。


「はい……精霊です……この剣をどけてください……」

 宙に浮く、ハムスターほどの大きさの羽の生えた女の子。

 アスカさんに剣を突きつけられ怯えている。



「……どうやらモンスターではないようだな……紛らわしいな」

 アスカさんは剣を下げる。


「やめて……死にたくない! 逝きたくない!」


「ん!? どっちだ!?」


「アスカさん……とりあえず謝りましょうよ……」


 精霊と名乗る女の子は泣きながら青ざめる。

 きっと人間界は凶暴な人間ばかりだと誤解されただろう……



 ◇



「……とんでもない人ですね……いきなり斬るなんて! この世界の人はイカれてますね!」

 いきなり斬られかけた精霊はやっと落ち着きを取り戻し、アスカさんを睨んでいる。


「ごめんね……アスカさんも悪気があったわけじゃないんだよ」

 僕は精霊をなだめる。

「ふんっ! ダンジョンで急にこんなチビスケが現れたら、誰だってモンスターだと思うだろ!」

 アスカさんは反省していないようだ……


「チビスケって……! 失礼ですね……わざわざこの世界に来た精霊に対してそんな態度は!」

 精霊はアスカさんと言い争いをしている。似たもの同士なのだろうか?


「そもそも精霊とはなんだ? お前は何者だ?」


「精霊も知らないなんて……本当にこの世界は遅れてるますね!」

 アスカさんに質問に馬鹿にしたように答える精霊。


「……この世界って? お前はどこから来たんだ?」


「……異世界からですよ」


「異世界!?」


 精霊はフワッと宙に浮き俺の目の前に飛んでくる。……近い。

 絵本やアニメで見た精霊そのままの見た目だ。



「感謝してます。えっと……木本君? キモオタ君?」


「え、いやぁ……どちらでも……」

 手のひらサイズだが至近距離の可愛い女の子に照れる。


「このダンジョンをクリアする人が現れるのをずっと待っていました。

 キモオタ君、あなたに世界を救って欲しいんです!」


「世界を救う!?」

 僕が世界を救う? 最近よく聞くなそれ……


「ええ、あなたにしか魔王は倒せないんです!」


「ま、魔王!?」

 精霊の言葉に驚く僕。精霊の次は魔王と来たか……


「……なるほど、やはり……俺は運命の勇者……ってことな――」


『ガッ!』


「ぐわああ!」

 僕を蹴り飛ばすアスカさん。


「ウロチョロするなチビスケ!」

 なんで俺を蹴るんですか……アスカさん……


「ダンジョンのことを知っているんだろ!? 早く教えろ! あのダンジョンせいで……妹は……!」

 アスカさんは泣きそうだ。前に言っていた寝たきりの家族のことだろうか?



 精霊は真剣な表情になる。


「そうですね。ちゃんとお話ししないといけませんね……でも、その前に――」

 ダンジョンの秘密を知っている精霊。重大な話に違いない……


「……その、お腹ペコペコで……なにか食べ物ありませんか?」

 恥ずかしそうにお腹を抑える精霊。


「……」

 アスカさんは鬼の形相で剣を手をやる。


「アスカさん!! 斬っちゃダメだ!」

 僕はアスカさんを止めるが止まるわけはない。


「離せ! 木本君! こいつは人を馬鹿にしている!」


「キャーーーッ! 斬らないでぇぇえ!」

 逃げ回る精霊。


「待てぇぇえ! チビスケ!」


 異世界から来た精霊。彼女の出現でこの世界は大きく変わった。

 とりあえずこの二人は犬猿の仲のようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る