第11話 契約

 「待って! こんなことしてる場合じゃないんです!」

 アスカさんから逃げ回る精霊は必死に叫ぶ。


「急がないと。キモオタ君、私と契約してください!」

 精霊が僕に言う。


「け、契約!?」

 契約だって? 僕に魔法少女にでもなれというのか!?


「異世界の精霊である私は、この世界の人間と契約しないとすぐに消滅してしまいます」


「それは大変だ! でもそれなら僕よりアスカさんみたいな強い人と契約したほうがいいんじゃ……?」

 コンビを組むなら当然、世界最強レベルのアスカさんの方がいいに決まっている。


「いえ! キモオタ君ではないとダメなんです!!」

 精霊は僕を指名する。


「僕じゃないと……!?」

 なんだと!? モテ期か!?


「はい! 急いでください!」

 精霊に急かされる僕。


「わ、わかったよ……」

 契約……何をするんだろうか? よくあるパターンだと契約者と口づけが条件だったり……


「ありがとうございます。じゃあさっそく……」

 精霊がフワッと僕の顔の前に……これは……キッスか!!


 『ペラッ』


「この契約書に目を通してサインしてください!」


「あぁ……意外と事務的なのね……」

 精霊界もお役所的なんだな……


「早くしてください! 契約しないと私はあと数分で死んでします!!」


「えぇっ!? でもまだ全然読めてない……」

 大丈夫か? 昔、美人のお姉さんに騙されサインをして、家に謎の英語教材が届いた暗い過去を思い出す。

 あーっ、しょうがない!

  僕は急いで契約書にサインをする。


 サインを終えると紙は光り出した。


「なんだなんだ!?」

 この紙はこの世界にはないものらしい。


「これは魔法紙です。ありがとうございます。契約完了しました。これからよろしくお願いします」

 精霊は僕にぺこりと頭を下げる。


「どういうこと?」


「さっきも言いましたけど、私たち精霊は異世界では誰かと契約しないとその世界に対応できずにすぐ死んでしまうんです」


「うん、とりあえず死ななくてよかったよ……」

 色々と急展開すぎてついていけない。


 精霊はヒラっと飛び、僕の肩に座る。うん、悪い気はしないな……


「おい、チビスケ! 契約とやらが終わったんなら早く説明をしてくれよ」

 速くダンジョン出現の話を聞きたいアスカさんは急かす。


「もう、せっかちな人ですね。とりあえずこのダンジョンから出ましょう。早く消さないと……」


「消さないと……?」

 精霊はダンジョンを消すことができるのか?


 僕たちがダンジョンの外へ出ると精霊はなにやら呪文を唱えだす。

 するとダンジョンを跡形もなく消え去った。


「よし、これで大丈夫です」

 すごい。精霊はこんなこともできるのか!


「お前たち精霊はダンジョンを消すことができるのか……?」

 アスカさんは精霊に聞く。


「んー……。消せるのは自分が作ったダンジョンだけです。」


「自分が作ったダンジョン……? ダンジョンを作ったの?」


「あらためてありがとうございます。じゃあ、ちょっと長くなりますけど私たちのことと、ダンジョンの話をさせてもらいますね」


 精霊は僕の肩に座ったまま話し出した。

 その話は世界中に現れたダンジョンの意味、そしてこの世界がひっくり返るような話だった。

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