第32話 キモオタの戦い

僕は外の川で水を浴びる。


夏ということもあり清々しい気分だ。




「大自然で全裸……悪くないな!」



一日戦い抜いた体を清める……うん、冒険者っぽいぞ。








体を洗い、山小屋に戻る。




すると山小屋の前に見知らぬ大きいドラム缶が。




「なんだこのドラム缶は……?」




「お、木本君。ちょうどよかった」


「アスカさん、どうしましたか?」


「私も風呂に入ろうと思ってな」


「ふ、風呂!?!?」




「べ、べつに私は臭いわけじゃないぞ? 汗をかいたからな」


「は、はい……」


「このドラム缶を使って五右衛門風呂のようにしようと思ってな」


「はあ……」


「それで君にはドラム缶の下のたき火をうちわで扇いでおいて欲しいんだ」


「!! 喜んで!!」




そんなラッキーなことが人生で起こるとは……!






「ほんとはガイドにお願いしたいんだがな、ガイドの小さい体じゃうちわで扇げないだろ?」


「そうですね! 僕にお任せを!!」


「……木本君、やけに張り切ってるな……?」






僕は一旦山小屋へ戻る。アスカさんの準備ができたら呼ばれるようだ。




「ガイド!!」


「な、なんですか……?」


僕はガイドに詰め寄る。




「ガイド、なんとかドラム缶を透視する魔法を使うことはできないだろうか!?」


「……最低ですね……」




「木本君! たのむよ」


アスカさんが僕を呼ぶ。



残念ながらまだ透視魔法は使えないが外へ飛び出す。




薄暗くてよく見えないがドラム缶に入ったアスカさんの姿。


「さあ扇いでくれ!」


「は、はい」




『バサバサッ』


僕は必死にたき火をうちわで扇ぐ。




「うむ、いい湯加減だよ。最高だ」


憧れのアスカさんが目の前で入浴……僕も最高です……!


なにかラッキースケベが起きないかと期待し扇ぎ続ける僕。




「はぁはぁはぁ……」


「木本君、そろそろ扇ぐのは大丈夫だぞ。熱くなってきたよ。」


「あ、熱く……!?」


「ああ……のぼせてしまうよ」


その時、僕の悪魔的閃きが⁻――




「うおおぉぉぉお!」


僕はフルパワーでたき火を扇ぐ。




「き、木本君!? やめるんだ!!」


僕はもう止まらない! 止められないのだ!!




「はぁはぁ! アスカさん!! 早く出ないとのぼせてしまいますよ!!」


「くっ! 木本君……卑劣な……!」


何かを察するアスカさん。


さあ! アスカさん! 飛び出してこい! 裸のまま……!!




「うぅ……限界だ……!」


アスカさんがドラム缶から飛び出す。




暗闇の中、一糸まとわぬ姿のアスカさん。


「キ、キサマ!!」


怒りの形相のアスカさん。




もういい……殺されたっていい!




「いまだ! 光魔法!」


「なに!?」


辺りがパッと明るくなる。スキルが開眼してほんとによかった……そう思った。






憧れのアスカさんの……裸が……ん?


「……キサマ……そういう事か……」


「ア、アスカさん……?」




そこにはエ〇ァ初号機パイロットのようなぴっちりとした服を着たアスカさんが……


これはこれでいい感じだが……




「……男のキミがいるんだ。水着くらい着てるに決まっているだろ……」


「そ……そんな……」


「木本君……キサマには失望したよ……」


「……僕は最低だ……」




「キモオタ君……あんたバカぁ……!?」


山小屋から状況を見ていたガイドも呆れている。




その後、アスカさんにボコボコにされたのは言うまでもない。

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