第24話:S級冒険者認定

バレンシア王国暦243年10月1日:冒険者ギルド・エディン支部


「リアム殿、この度の事はどれだけ感謝しても感謝したりない。

 先に受けた御恩を含めれば、返しようもないほどの大きな恩だ」


「気にしないでください、マスターグレイソン。

 これは俺の望み通りS級冒険者認定してくれた感謝の印です。

 しかも不要な伯爵を辞退できるように交渉してくれました。

 随分大変な想いをしてくれたのは分かっていますよ」


「えええええ、リアムにお兄ちゃん伯爵にしてもらわなかったの?

 私、お姫様になりたかったな」


「こら、ソフィア!

 リアム殿が伯爵になったからと言って、ソフィアはお姫様に成れないぞ」


「えええええ、でも、お兄ちゃんが伯爵なら妹はお姫様に成れるよね?」


「ソフィアが望むのなら、爵位を受けてお姫様にしてあげるが、それは信じられる王様のいる国を見つけるまで待ってくれ。

 この国でお姫様になってもソフィアが不幸になるだけだよ」


「そうですよ、ソフィア。

 リアム様の言う通り、もっといい王様が見つかってから、お姫様にしてもらえるように、今約束しておけばいいのですよ」


「はい、お母さん。

 リアムお兄ちゃん、約束してくれる?」


「ああ、約束するよ」


「申し訳ない、リアム殿。

 このご恩は必ず返させてもらう」


 俺のS級冒険者認定は非常識極まりない速さで認められた。

 マスターグレイソンとベッドフォード支部の有能な職員が、とても頑張ってくれたのもあるが、俺を怒らせたくないというのが一番の理由だろう。


 それでなくても国王相談役のサンティアゴは俺に憎まれている事を自覚している。

 ささいな事が理由でも、国が俺の怒らせるような事があれば、最初に狙われるのは自分だと自覚しているのだろう。


 俺は単にS級冒険者認定されたのではなかった。

 S級冒険者に相応しい待遇が与えられかけた。

 何と伯爵位を与えるというのだ。


 爵位を得ると国王に仕えなければいけない。

 嫌でも国王に忠誠を誓わなければいけない。


 あのホセの父親、サンティアゴを相談役にしているような国王に仕える気はない。

 はっきりと断っておいた。

 俺が直接断ったのではなく、間に入ったマスターグレイソンが断ってくれた。


 間に入ったマスターグレイソンは、戻ってきた時は腹を押さえて青い顔をしていたが、俺の願いを優先して必死の交渉をしてくれたのだろう。


 だからマスターグレイソンの地位もちゃんと確保した。

 俺はタダ働きさせるような恥知らずではない。

 なによりソフィアに哀しい想いをさせる訳にはいかない。


 自分の安全を優先するあまり、父親が名誉ある冒険者ギルドの支部長職を辞めたとなれば、ソフィアの小さな胸が痛む事になる。


 だから、サクラの分身体しかいない新しい支部を大魔境に作った。

 クインシーと名付けたスライムしかいない支部の新任支部長がグレイソンだ。


 狩りをするスライムしかいないクインシー支部では、仲介手数料も解体手数料も入らないが、エディン支部の副支部長を兼任しているから、収入は十分ある。

 基本給は冒険者ギルドの規定額だが、副支部長職の分配金が莫大なのだ。


 空席となったクリントン支部の支部長職は、有能だと分かったベッドフォード支部の職員を引き抜いて就任させた。


「それでマスターグレイソン。

 エマと俺の支配域はどう分けるのです?

 エマはエディン支部では地域長で、実権は何もないですよ」


「その辺は、エマ殿とリアム殿で話し合って欲しいという事です。

 20支部の仲介手数料と解体手数料の10%はエマ殿に入るようになっています」


「支部長の報酬は40%でしたね」


「はい、リアム殿とエマ殿が狩られる魔獣は桁外れに高価ですし、数も不眠不休で計算解体しなければいけないくらいあります。

 20%を人数割しなければいけない幹部職員でも、冒険者ギルドの支部長がもらう手取り額の何倍もの歩合がもらえます。

 人数が多い一般職員でも利益の30%を分配してもらえるので、冒険者ギルド支部の幹部職員並みの分配金があります。

 いえ、残業代を考えれば、これまでの四倍以上の収入になっています」


 助け出した元奴隷達は、職員や冒険者としてここに匿っているが、彼らだけでは俺とサクラが持ち帰る魔獣を処理しきれない。


 仕方なく俺の事を心から恐れているロアノーク支部とクリントン支部から有能な連中を引き抜き、鑑定と解体、輸送の役目をさせている。


 有能な職員を引き抜かれたロアノーク支部とクリントン支部は、近隣の支部から職員を引き抜いたり、新人を一から教育したりしている。


「人材を引き抜いたロアノーク支部とクリントン支部は大丈夫だよな?」


「はい、こちらでさばき切れない雑魚魔獣や雑魚半獣族の鑑定と解体を大量に依頼していますので、他の支部に比べればすごく活気に満ち溢れています。

 ここほど効率は良くありませんが、数をこなす分、倍以上の収入になっています」


「ここの処理能力ではエマと俺が狩る魔獣を全部処理できていないのだよな?」


「はい、残念ながら」


「ロアノーク支部とクリントン支部の能力が上がってきたら、少しレベルの高い魔獣や半獣族の鑑定と解体を依頼しよう。

 その分他の支部に最下級の鑑定と解体を回そう」


「特に問題はないと思います」


「だが俺があまりに金儲けや地位に淡白だと、国や教会が図に乗るかもしれない。

 まだA級冒険者に過ぎないエマよりも、S級冒険者である俺の支配下支部数が少ないのは納得できないと言ってくれ。

 できる事ならロアノーク支部とクリントン支部を俺の支配下に置いてくれ」


「分かりました、こちらから申請するだけでなく、ロアノーク支部のマスターキャサリンとクリントン支部のマスターグレイシーに、支部長連名でエマ殿支配下からリアム殿支配下に移りたいと申請させます」


「ああ、頼む」

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