第22話:属性竜

バレンシア王国暦243年8月17日:冒険者ギルド・エディン支部


「リアム殿、強制討伐依頼があります」


「すごい、すごい、すごい、リアムお兄ちゃんすごい!

 きょうせいとうばつは、すごい冒険者にしか来ないんだよね?!」


「ありがとう、ソフィア」


 ソフィアは無邪気に喜んでくれている。

 だがこの強制依頼を持ち込んだマスターグレイソンは青い顔をしている。


 俺が拒否すると思っているのだろう。

 俺、国、冒険者連合の板挟みになると苦しんでいるのだ。

 その通りだ、普通なら絶対に受けていない。


「依頼内容はどうなっているのです、マスターグレイソン」


 偉そうな言葉遣いをしてもいいのだが、父親が俺に偉そうに言われる姿をソフィアに見せる訳にはいかないから、最初の出会いは忘れてやる。


「ベッドフォード支部北東のリーズ魔山に噴火の兆しがある。

 属性竜の姿を見たという冒険者の報告も数多く寄せられている。

 噴火が起きる前に属性竜を討伐してもらいたいというのが、今回の依頼だ」


「すごい、すごい、すごい、リアムお兄ちゃんすごい!

 だれもたおした事のない、竜のとうばつをたのまれたの?!」


「そんな大した事ではないんだよ、ソフィア。

 属性竜くらい、アレイナスライムでも斃せるんだよ。

 お父さんと大切な話があるから、少しアレイナスライムと遊んでいるといい。

 マスターグレイソン、俺の理解が足りないのかもしれませんが、俺はB級冒険者ですよね?

 竜の討伐を一人でできる訳がないですよね?

 それに、あまりにも実力とかけ離れた依頼は、国や連合の強制依頼でも断ることができたはずですよね?!」


「ああ、あまりにも実力からかけ離れた依頼は、強制であろうと断れる。

 だが今回の依頼は、実力からかけ離れているという理由では断れない」


 先ほどから喜び騒いでいたソフィアも、俺が父親が真剣な話しをしているし、やんわりと注意もされたので、ようやく大人しくなった。


 俺の注意やお願いなど関係なく、アレイナスライムが優しく髪を撫でてくれるからかもしれないが……


「それはどういう理屈で断れないのですか?」


「リアム殿は国と連合に承認されてA級冒険者に認定されている」


「A級冒険者は竜種以外の魔境ボスを討伐しなければ認定されないはずですが?」


「あれだけの数の魔蛇や魔熊、魔猪や魔鹿を斃しているのだ。

 他の小さな魔境ならボスであってもおかしくない魔獣を百頭以上斃している。

 A級冒険者に認定されてもおかしくはない」


「知らないうちにA級冒険者に認定されていたと言われたばかりか、いきなり一人で火属性竜を討伐しろと言われても、俺の実力では無理ですよ」


「何時もスライムだけでも純血種竜を斃せると言っているではないか。

 今更そのような事を言っても、俺やマスターキャサリンは信じないぞ。

 それに……一人ではない……二人だ」


「連中も考えましたね、四カ国でA級冒険者認定されているエマと一緒の強制討伐依頼だと、断れないと考えたのですか」


「ああ、そう言う事だ」


「エマと俺がベッドフォード支部に行くとなると、ここの防衛が手薄になり過ぎるが、その点はどう考えているのです?」


「リアム殿に二頭もの強力な従魔を貸し与えられている私が、支部長代理として留守を預かる事になっている」


「はあぁあ、マスターグレイソンが代理を務めてくれるとなると、ここを乗っ取る心算なのかと文句も言えないですね」


「そういう事です、リアム殿。

 それに、連合からエマ殿とリアム殿への昇格届を預かっている」


「まさか……」


「リアム殿が思っている通りだ。

 エマ殿はこの辺りの冒険者ギルド支部を支配下に置く、地域長に昇格だ。

 リアム殿は空席となったエディン支部の支部長になる。

 B級冒険者以上を逃がさないための常套手段を、今回は属性竜討伐を拒否させない為に使ってきた」


「どうやら受けるしかないようですね」


「ああ、受けてもらうしかない」


「ですが、受けるのならエマとの共同討伐ではなく、俺独りの討伐にさせてもらう」


「おい、それはいくら何でも……

 本気か、本気でできると思っているのか?!

 さっきは信じているような事を口にしたが、実際には半信半疑だったのだぞ」


「何を今さら、以前から何度も言っているでしょう。

 ソフィアとマスターグレイソンに預けているスライムなら純血種竜でも斃せると。

 属性竜ごとき指先一つでぶち殺してやりますよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る