第23話:火属性竜討伐

バレンシア王国暦243年8月19日:冒険者ギルド・エディン支部


 どうせやらなければいけない嫌な仕事なら、サッサと片付けた方が良い。

 俺はベッドフォード支部に急いだ。

 俺が本気で駆ければ、普通の大人が5日かかる距離も二時間で到着する。


「レイチェル支部長はいるか?

 俺はA級冒険者のリアムだ。

 国と連合から属性竜を討伐しろと強制依頼を受けた。

 エマと共同で討伐しろと言われたが、俺独りで十分だ。

 レイチェル支部長には、俺が独りで討伐したと国と連合に証言してもらう。

 グズグズするな、さっさとリーズ魔山に行くぞ」


 俺はそう言って無理矢理レイチェル支部長を攫うように連れ出した。


「なんですか、何を言っているのですか?!

 この子は何者ですか?!

 スライムがどうして強大なナメクジに変化するのですか?!」


 呑気に歩いてリーズ魔山を登っている時間などない。

 俺独りなら瞬く間に山頂まで行けるが、レイチェル支部長と一緒では、あまりにも時間かかってしまう。


 だからソフィアの時と同じように、最も乗り手が楽な姿にサクラを変化させ、急いで山頂に行ったのだ。


「なんなのですか、貴男は!

 なんなのですか、この子は!

 何故貴男は出会う魔獣を全て一刀で殺してしまえるのです?!

 何故この子は出会う魔獣を全て飲み込んでしまえるのですか?!

 魔蛇も魔熊も魔猪も魔狼も、家のC冒険者でも命からがら逃げる相手ですよ!」


 ただ泣きわめくだけの置物に成り果てたレイチェル支部長は無視である。

 高山病にならないように、周囲に地上と同じ空気を張り巡らせてやる。

 無理矢理連行するのだから、安全だけは完璧に確保してやる。


 山頂に近づいてさえしまえば、縄張り意識の強い属性竜は向こうからやってくる。

 その為に魔境に入った直後から気配を垂れ流しにしてきたのだ。

 まあ、火属性竜が逃げださないようにかなり抑えた気配だけどね。


「ギャアアアアアオ!」


 一声だけ威嚇の雄叫びを出させてやった。

 声一つ出す事もできずに殺されるのでは無念すぎるだろう。


 手に持っていたハルバードですっぱりを首を刎ねてやった。

 それが一番素材を傷つける事もなく、俺独りで斃した証明にもなる。


「なんなのですか、貴男は!

 皆が恐れる火属性竜を独りで討伐するなんて、非常識過ぎます!」


 レイチェル支部長はそう叫ぶと気を失ってしまった。

 こんな事なら他のギルド職員も全員連れてくればよかった。

 これではもう一度ベッドフォード支部に戻って見せつけなければいけない。


 俺は登ってきた時と同じように急いでリーズ魔山を駆け下りた。

 そのまま足を緩めることなくベッドフォード支部に飛び込んだ。

 気を失っているレイチェル支部長はサクラが優しく確保している。


「先ほど国と連合から火属性竜の討伐を強制依頼させられたと言ったリアムだ。

 火属性竜を討伐したから確認しろ!

 レイチェル支部長は竜の威圧に当てられて気を失ってしまった。

 このままでは詳しい報告書を書けないだろう。

 お前達が代わって詳細を記録しろ、いいな!

 全員解体場について来い、職員だけでなく冒険者もだ!」


 俺に厳しく言われた職員と冒険者は唯々諾々とついてきた。

 俺の威圧に逆らえなかったのもあるが、国内のB級冒険者が束になっても叶わない、火属性竜を本当に斃したのか自分の目で確かめたかったのだろう。


「そらよ、これが俺独りで狩った火属性竜だ」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」


「すげえ、すげえ、すげえ、本当に火属性竜だぞ!

 この国に火属性竜を斃せる冒険者がいるなんて知らなかった!」


「ばかやろう、この国だけでなく大陸中探しても、属性竜を斃せる冒険者なんて一人もいないぞ!

 人間が独りで属性竜を斃した話なんて、先史文明時代のおとぎ話だけだ!」


「……この火属性竜、いくらになるんだ……」


「そりゃあめえ……すごい額だよ」


「凄い額って、具体的にいくらだよ!」


「エマという大陸から渡って来られたA級冒険者が狩る、魔蛇や魔熊でも一匹で王都に大豪邸が建てられるんだよな。

 それが、先史文明以来斃された事のない火属性竜だぞ……」


「たまたま魔境で拾った属性竜の鱗一枚が大金貨数枚で売れると聞いているし……」


 驚かしたり自慢したりしたいから、多くの職員と冒険者に斃した火属性竜を見せたわけではなく、俺が独りで討伐したと証言してもらうためだった。

 これほど強く反応してくれれば大丈夫と判断した。


「確認してくれたか?

 俺が独りで火属性竜を斃したと理解してくれたな?

 俺はリアムだ。

 魔蛇や魔熊を狩っているのはエマだけじゃない。

 ほら、このように魔蛇や魔熊、魔猪や魔狼も狩っているぞ」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」


「すげえ、すげえ、すげえ、本当に魔熊や魔蛇がいるぞ!」


「本当だ、魔猪や魔狼もいるぞ」


「こいつらはここで狩った魔獣だ。

 俺は国や連合からA級冒険者に認められている。

 だからこそ火属性竜を討伐する強制依頼を命じられたのだ。

 いずれベッドフォード支部にも俺の似顔絵と特徴が送られてくる。

 だが、今はまだ知らせが間に合っていない。

 だから、この獲物を預けておくから、ベッドフォード支部でD級冒険者認定しておいてくれ。

 そうしてくれれば定期的にリーズ魔境でも狩りをしてやる。

 そうすれば莫大な仲介手数料と解体手数料が支部に落ちるぞ」


「ありがとうございます、リアム殿。

 D級冒険者認定だけでなく、C級とB級の認定申請もさせていただきます。

 これだけの魔獣があれば、時間差をつけて申請すれば不可能ではありません」


 ベッドフォード支部には有能な職員がいるようで、俺が遠回しに賄賂を贈るから色々と融通しろ、と言っているのに気が付いてくれた。


 こういう職員がいるのなら、レイチェル支部長がポンコツでも大丈夫と判断して、新たにヒュージコボルトやビッグオークを含む1000匹を預けた。

 大量の仕事と仲介手数料、解体手数料を落としておいた。


 ★★★★★★


「マスターグレイソン、火属性竜を狩ってきたぞ、確認してくれ」


「すごい、すごい、すごい、リアムお兄ちゃん本当にすごい!

 だれもたおした事のない竜をとうばつしたの?!」


「……まだ俺が話に来てから半日しか経っていないぞ。

 どんだけ人間離れしているんだ、リアム殿!」


「失礼な事を言わないでくれ、マスターグレイソン。

 俺は、国や連合が、先史文明時代のおとぎ話でしか聞いた事のない、属性竜を斃せると判断した冒険者だぞ。

 これくらいの事ができなくてどうする?

 エマがこの支部に居続けていた事は証明してくれるな?

 俺が独りで火属性竜を狩った事を証明してくれるな?

 ベッドフォード支部でも俺が独りでこいつを狩った事は見せつけてきたぞ。

 有能な職員がいたから、そいつなら直ぐに証明書を送ってくれるだろう」


「分かった、リアム殿がどういう理由でS級冒険者認定を受けようとしているのかは分からないが、できる限り協力させてもらう。

 リアム殿には命を差し出しても返せないほどの大きな恩と借りがあるからな」


「命などいらないよ、マスターグレイソン。

 マスターグレイソンを死なせるような事があると、ソフィアに恨まれてしまう。

 臨時のエディン支部長代理だと言っていたが、そのまま副支部長にならないか?

 クリントン支部の支部長を続けるよりも多くの給料を支払うぞ。

 それとも、大魔境に新たな支部を作ってみるか?」


「……金や地位、名誉よりもソフィアの安全を優先したい。

 クリントンはリアム殿が貸してくれているスライム達のお陰で平和になった。

 だがまだクリントン一族が根絶やしになった訳じゃない。

 俺がクリントン一族に恨まれているのは重々承知している。

 スライムたちが護ってくれているから大丈夫だと分かっているのだが、それでも不安に思ってしまうのだ。

 このままここに居させてもらえるのなら、副支部長でなくてもいい。

 末端の平職員でも構わないから、ここに居させてもらえないだろうか?

 俺がダメなら、せめてソフィアをここに住ませてもらえないだろうか?」


「ちょっと待て、ちゃんと俺の話を聞け。

 だからずっと言っているではないか、ここで一緒に住めと。

 そんなにソフィアが心配なら、新しい支部を作るよりもここの副支部長に成った方が安心できるだろう。

 これから国と連合と交渉しなければいけないが、ソフィアの安全を最優先にするから心配するな。

 その代わり、俺が独りで火属性竜を斃した証明は頼んだぞ」


「ありがとうございます、リアム殿。

 リアム殿のS級冒険者認定は必ず勝ち取ってきます!」

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