第43話:水属性竜
バレンシア王国暦243年12月7日:首都沖の魔海
「リアム、水属性竜は私が抑え込みます。
その間に首を刎ねてしまいなさい」
「分かっているよ」
俺とサクラは一切の手加減をせずに水属性竜を狩った。
二人だけで大魔境で暮らしていた時のように、生き残る事を最優先した。
話し方も、その時と同じようになっていた。
サクラと二人きりというのは、それだけで俺の心を楽にしてくれる。
ゴッドクラスでも高レベルに成長したサクラに勝てる属性竜などいない。
ゴッドドラゴンクラスでなければ対等に戦えない。
それくらいサクラは強くなっている。
サクラをそこまで育てた俺も同じくらい強くなっている。
人間を相手にする時には物凄く手を抜いているが、それでも規格外だと驚かれる強さになっている。
そんな強さの俺を、まだ強くさせたいと思っているのがサクラだ。
七年間母親のように接していた影響が、良くも悪くも出てしまっている。
ソフィアを可愛がっているのもその影響だろう。
全身をサクラに覆われた水属性竜は身動きする事ができない。
その状態で俺が圧縮した水を、一点狙いでドリルのように高速回転させて当てる。
心臓の拍動を司るところ、延髄から心臓に伝わる神経を断つ。
素材として利用価値のある延髄は破壊しないで確保する。
血液の一滴さえも無駄にはしない。
そのためにサクラが水属性竜の全身を覆ってくれていたのだ。
僅かな一点とはいえ、サクラは俺の攻撃を受ける覚悟をしてくれていたのだ。
タイミングよく俺の攻撃部分だけ穴をあけてくれたが、一瞬のタイミングのずれが、サクラを傷つける事になっていた。
「キュルルルルル」
陸の方から速度に特化した小型で細身のワイバーンが飛んできた。
属性竜ではなく亜竜に類別されるのがワイバーンだ。
その中でも最弱に分類されるのが速度特化型だ。
「……リアム、私達の所に逃げて来ていた難民を、教会が皆殺しにしました」
だが今回飛来したのは本物の速度特化型ワイバーンではない。
俺達が海上遠くにいるので、大魔境と連絡を取るためにサクラの分身体に変化させているのだ。
「教会の独走なのか?
それとも、国王や王国政府が加担しているのか?
教都大神殿や王城に潜り込ませている分身体は何と言っているのだ?
事前にこの計画を知ることはできなかったのか?」
「王都大神殿を支配している、マイルズ枢機卿と言う腐れ外道が、国王相談役のサンティアゴと組んでやったようです。
国王が知っていたかどうかは分かりません。
目や合図されては、話題に出ていても指示したとは言い切れません。
その相談が行われたのは、襲撃の直前でした。
私達はここにいたので、連絡網が繋がっていなかったのです。
最悪のタイミングだったと言うべきです」
「俺達の行動を見張る力のある者がいるという事か?
あるいは予知夢のような能力がある者がいるのか?
俺が否定している、神に思えるような力を持つ者がいるかだな」
それで、肝心の国王はその話し合いの場にいたのだな?」
「サンティアゴは、枢機卿から教会の領地から逃げ出した民を殺していいかと相談されたが拒否した、と国王には報告していました。
ですがその時に表情や目の動きが、両者の間でどのような意味を持つのか、分身体には分からないです」
「そうだな、言葉にできない事を目で知らせる事はある。
それで、口では国王に拒否したと言いながら、枢機卿には襲撃しても構わないと言ったのだな?」
「はい、王城の外で、密談に使われる後宮レストランの隠し部屋で話し合った時に、王家直轄領の民も同時に殺す事を条件に、許可を与えていました」
「……先ほど言っていた、国民の命と生活を背負うのは無理だという話し、なかった事にしなければいけないようだな」
「教会と王家を滅ぼして、王に立つ覚悟を決めたのかい」
「ああ、国民の命と性格を背負う重圧も苦しいが、助けられる人々を助けず、見下ろしにした時の罪悪感も苦しい。
同じ苦しいのなら助ける方を選ぶしかない」
「わかった、全力で手伝いましょう」
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