第40話:養女
バレンシア王国暦243年11月19日:地下拠点
「ノワール、ブロンシュ、どこにいるんだい?」
俺は地下の拠点にいるウサギ獣人のノワールとブロンシュを訪ねた。
これからの事を考えて重大な決断をしたからだ。
「ノワール、ブロンシュ、返事をしてくれ」
どこにいるかなんて手に取るように分かっている。
だが、そんな事を言ったら余計な警戒をされてしまう。
それでなくてもノワールには凄く警戒されているのだ。
「おねえちゃん、リアムだよ。
リアムならだいじょうぶだよ」
「シッ、人間を信用するんじゃありません!」
「そんなことないよ、おねえちゃん。
ソフィアもリアムに助けられたって言っていたよ。
ねぇ、おかあさん、おとうさん」
「そうですよ、ノワール。
リアム様は信じても大丈夫ですよ」
「そうだぞ、ノワール。
私達が誰も彼も信じていいと言っていないのは知っているだろう?
私達が信じていいと言ったのは、リアム様とエマ様、ソフィアだけだ。
ソフィアの父親であるグレイソンさえ信じるなと言っているだろう?」
「おかあさんとおとうさんがこう言っているからだ大丈夫だよ」
「……分かったわ、でも、お母さんとお父さんが一緒に居てくれるときだけよ。
お父さんとお母さんがいてくれない時には、信じちゃダメよ」
本当の両親ではない事を知っているノワールが妥協してくれた。
この短い期間で、凄く信用してくれるようになった。
ソフィアの屋敷で一緒に遊んだことと、サクラの分身体が変化した両親と一緒に、砦の中を自由にできたことが大きいのだろう。
「なんだ、こんな所にいたのか。
今日は二人にとても大切な話しをしなければいけないのだ」
「何を企んでいる?!」
とたんにノワールが嚙みついてきた。
まだ完全には両親に化けているサクラの分身体を信じていないのだろう。
なんとしても自分が妹を護らなければいけないと思っていようだ。
「俺が企んでいるのは、二人の安全だよ」
「私達の安全だと?!」
「二人には地上の砦でも自由に生活してもらいたいと思っている。
その練習として、ソフィアの屋敷にお泊りしてもらったし、両親と一緒にお散歩や買い物もしてもらった。
だけどちょっと困った事が起き始めているんだよ。
このままだと、砦の中に乱暴な人間が入ってくるかもしれないんだ」
「だったら別に地上になんて出なくていい。
ブロンシュと一緒にここにいれば安全だ。
……両親もいるし、さみしくもない」
「ええええええ、お外に出たいよ。
おひ様の下で飛び跳ねるのはとても気持ちいいよ。
おねえちゃんも気持ち良いって言っていたよね?」
「気持ちが良くても、危ないのはダメなの。
この前、人間の襲われて殺されかけたでしょ!」
「でも、リアムが助けてくれたよ?
今はおかあさんもおとうさんもいるよ?
悪い人間におそわれてもだいじょうぶだよ」
ブロンシュの話し方も考え方も随分としっかりしてきた。
サクラの分身体が親代わりとなって、しっかりと教育してくれている。
ノワールの方は、少しずつ心を開いてくれればいい。
「大丈夫だと油断していると、お父さんとお母さんが殺されてしまうかもしれない。
また離れ離れになるかもしれない。
ブロンシュはそれでもいいの?」
「いやだ、ぜったいにいやだ!
もうおかあさんとおとうさんとはなれるのはいや!」
「だったら、四人一緒に安全な地下に居よう」
「……どうしてもここにいた方が良いいの、おねえちゃん?」
「ああ、ごめん、ちょっと話させてくれ」
「邪魔するな、リアム」
「どうだろうか、二人とも俺の養女にならないか?
年齢的にはおかしな話だが、実力的には何の問題もない。
俺の養女なら、誰も襲わなくなる。
もし襲うような馬鹿がいたとしても、俺の養女なら堂々と返り討ちにできる。
ウサギ獣人でも人としての権利を主張できる。
砦の地上に出ても、何の危険もなくなる」
「ようじょになったら、あんぜんになるの?」
「騙されるな、ブロンシュ。
そいつの養女になったら、お父さんとお母さんは他人になる。
私達はリアムの好き勝手にされてしまうぞ」
「大丈夫ですよ、ノワール、ブロンシュ。
私達が本当の両親である事に違いありませんよ。
地上に出る時だけ、養女だと名乗るだけです。
人間と人間用の契約で養女にするだけです。
私達とリアム様の契約では、猶子にするのですよ」
母親役のハチスライムが説明してくれているが、人間社会の知識がないウサギ獣人の子供では意味が分からないだろう。
「ノワール、ブロンシュ、二人にも分かるようにしっかりと説明させてくれ。
何故地上が危険になるのかも話させてもらう。
二人が納得できないと言うのなら、猶子や養子の話しはなかった事にする。
無理に砦に出て行かなくてもいい。
その代わり、別の地下拠点に移ってもらわなければいけなくなる。
その理由を話させてくれないか?」
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