第41話:住民受け入れ

バレンシア王国暦243年11月26日:冒険者ギルド・エディン支部


「リアム地域長、多くの難民が移住の許可を求めて来ていますが、全員の許可を与えても大丈夫なのですか?」


「大丈夫ですよ、グレイソン副支部長。

 砦の周囲の木々は全て伐採しています。

 火魔術の応用で、既に乾燥させて建築材として使えるようにしてあります。

 土を深く掘り、少々の魔獣では渡れないようにしてあります。

 百万とは言いませんが、十万や二十万の難民くらい移住させられます」


「毎日信じられないような出来事をこの目に見せつけられていますが、リアム地域長やエマ地域長なら出来て当然なのでしょうね。

 リアム地域長に救われた砦の民達も、驚きながらも受け入れています、

 ですが問題は元の民たちと新たに来る民達の争いです。

 哀しい事ですが、一度奴隷とされた者達を、新たに来る民達は低く見ます。

 元奴隷達も、土地を捨て家を捨てて逃げて来る者達を、新参者だと下に見ます。

 特に冒険者ギルドの職員として働いている者や、冒険者として周囲の魔境で狩りをしている者達は、新参者達を下に見る事でしょう」


「その辺はスライム達に仕切らせます」


「スライム達ですか?」


「はい、人間が愚かで身勝手な事はよく理解しています。

 救いを求め恩を受けながら、平気で裏切り恩人から奪い殺すのが人間です。

 そのような者達を野放しにして自由にさせたりはしません。

 百人ごとにスライムの管理者を置きます」


「私に貸してくださったようなスライムに監視させるという事ですか?

 奴隷のように働かせるという事でしょうか?」


「いえ、そんな無駄な事はしません。

 グレイソン副支部長に貸し与えたような、強大な守護者は必要ありません。

 万分の一程度の強さのスライムに見張らせるだけです。

 奴隷のように働かせるほど執着もしていません。

 他人に迷惑を掛けないように見張らせるだけです」


「口ではそう申されますが、リアム地域長はとてもお優しいい。

 特に幼い子供達にはお優しい。

 不当な扱いを受ける子供達がいたら、ソフィアやウサギ獣人姉妹のように特別扱いされるのではありませんか?」


「特別扱いしたりはしませんよ。

 その心根にふさわしい待遇を与えるだけです。

 子供であろうと、性根の腐った奴は助けません。

 俺の私財を使って助けるのですから、俺の好き嫌いを最優先にします。

 他人から奪い私利私欲を満たすようなモノは、子供の姿形をしていようと、魔獣と同等と考えてぶち殺します」


「リアム地域長がそう言われるなら、そういう事にします。

 受け入れた難民達自身に家を建てさせるのですか?

 リアム地域長が建てられた方が立派な家が早くできるのではありませんか?」


「何もかも全て与えては、それこそ奴隷として遇さなければいけません。

 それよりは、最初は俺の私財で養うが、できるだけ早く自給自足させて、普通の貴族家の領民程度の権利は与えたいのです。

 その第一歩として、自分達の家は自分達で建てさせます」


「やはりお優しいではありませんか」


「これは優しいのではなく、厳しく選別しているのです。

 魔獣に喰わせる性根の腐った連中。

 環境によって善人にも悪人にもなる連中。

 本当に心根が優しくて、手間暇をかけても助けてあげたい人達。

 そう言う俺個人の評価を下すためです」


「……性根の腐った連中はここから追放されるのですか?」


「それはこれから考えます。

 今言った三種に分けるのか、もっと細かく分けるのかもこれからです。

 グレイソン副支部長に覚悟しておいてもらう事は、選別が終わったら、今はスライムに任せているクインシー支部の支部長に戻ってもらう事です」


「私一人で多くの民を管理するという事ですか?」


「百人に一体のスライムがついていますよ。

 そのスライム達はトラサンスライムが管理してくれます。

 グレイソン支部長にしてもらうのは、新しく支部職員として採用する者達を教育する事です」


「莫大な報酬だけいただいていた、クインシー支部の支部長として働けと言われるのなら、断る事などできませんが、ソフィアはどうなるのでしょうか?」


「ソフィアも一緒にクインシー支部に行ってもらいます。

 ウサギ獣人族のノワールとブロンシュも一緒です。

 俺の侍女と姫騎士に召し抱えた五人と、彼らに教育を依頼した新人侍女も一緒に行かせますから、安心してください」


「そういう事でしたら、何の心配もありません。

 よろこんでクインシー支部に行かせていただけます」


「では難民達の選別が終わるまでに、冒険者ギルドに新人職員を採用して厳しく教育してもらいます」


「分かりました、全力で新人教育に当たらせていただきます」


「それと、クインシー支部にあるグレイソン支部長の屋敷ですが、広大な地下拠点と繋がっていますから、非常時には地下に逃げてください」

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