第26話:マッケンジーとジュリエット兄妹
バレンシア王国暦243年10月11日:冒険者ギルド・エディン支部
「たすけて、おにいちゃんをたすけて、おねがい!
なんでも、なんでもするから、いたいのもあついのもがまんするから。
だからおにいちゃんをたすけて!」
俺は怒りのあまり魔力を暴発させてしまいそうだった。
それほど目の前で助けを求める兄妹は悲惨な姿をしている。
マスターグレイソンの話しでは、妹の方は7歳だと言うが、栄養状態が悪くとても小さい。
美しい顔と身体には傷がない、だが手足には惨い打撲と火傷の痕がある。
手足の指に至っては、何度も折られたと分かる変形をしている。
兄の方はもっと惨く、顔や身体にまで火傷や打撲の痕がある。
それどころか、手足の指が全て切り落とされてしまっている。
もっとも許し難いのは、性器が斬り落とされている事だ!
「ああ、必ず助ける。
必ず助けるから安心しろ」
サクラ全力で助けるぞ!
はい、ご主人様
ソフィアを助けた時から、俺は治療法の確立に時間と魔力を使ってきた。
これまでは自分を治す事しか考えていなかったが、他人を、いや、大切な人を助ける最善の方法を探していた。
俺の魔力を消化吸収系や血管、リンパ管や経絡経穴に注ぎ込んで、病気や怪我を回復させる技を確立していた。
だが、それを使いこなすには、治療する身体の原料となるたんぱく質やカルシュウムなどが余分になければいけない。
俺は経絡経穴内に創った魔法袋に予備の原料を蓄えているが、ギリギリの状態で命を繋いできた者に余分な栄養分などない。
ソフィアの時は一度手足を潰して材料にした。
消化吸収系を回復させ、自分で栄養を取れるようにしてから、潰した手足を再生して健康な身体を取りもどさせる事ができた。
だが今ならそんな回り道する必要はない。
サクラなら身体をチューブや点滴針などに変化させる事ができる。
サクラなら、生理食塩水はもちろん高カロリー輸液も体内で作り出せる。
血管で高カロリー輸液が詰まる事がないように、中心静脈栄養点滴のように、心臓近くの太い静脈を使って患者の身体に栄養を送る事ができる!
これまで人にも神にも見放されたてきた不幸な子供を助ける為なら、魔力も時間も手間も惜しくない。
俺が魔力を流す経路に従って患者の身体が光る。
それが徐々に身体全体を巡り広がっていく。
太い血管から毛細血管に、細胞の1つ1つに魔力が広がっていく。
「すごい、すごい、おにいちゃんのきずがなおってく!
おにいちゃんがふとっている。
おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん……」
身体中の打撲痕や火傷痕は直ぐに治ったが、骨が曲がっている所は、可哀想だがまた折って継ぎ直さなければ元通りにはならない。
それよりも失われた手足の指や性器を再生する方が先だ。
「すごい……おにいちゃんのゆびが、ゆびがはえてきた!」
こんなに喜んでいる妹の前で、元通りにするにはどうしても必要とはいえ、骨を折るのは胸が痛む。
他に何か方法があればいいのだが……
そうだ、ある程度荷重を与えながら回復させ続ければ、徐々に肥厚した骨が吸収され、足らない部分の骨が厚みを増してくる。
この兄妹の為なら、治療に必要な魔力と時間と手間だけでなく、美容や形成のために魔力と時間と手間を使っても惜しくはない。
「うっ、うううううう、うっ。
逃げろ、逃げるんだ、ジュリエット」
「おにいちゃん、おにいちゃん、うぁあああああん!」
ここで声をかけて兄妹を引きはがすのは無粋だが……
「ジュリエット、マッケンジーはもう大丈夫だよ。
だから、次はジュリエットの番だよ。
ジュリエットも身体を治して元気になって、目を覚ましたお兄ちゃんをびっくりさせてあげよう」
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