第15話:恥さらし

バレンシア王国暦243年4月19日:冒険者ギルド・ロアノーク支部


「マスターキャサリン、ホセ達は背教徒だ。

 メタトロン教の司祭として断言する。

 早々に取り押さえて処分しろ!」


「マスターキャサリン、ジェイソン達こそ背教徒だ。

 いや、メタトロン教自体が神を恐れぬ大悪人だ! 

 こいつらは孤児院に集めた子供達を犯して殺している。

 俺は確かにこの目で見た!

 国王陛下の相談役である父親にも正式に報告している。

 早々にジェイソン達を取り押さえろ!」


「嘘をつくな、背教徒!

 孤児院に押し入って子供達を犯して殺したのはお前達だろう!

 儂だけでなく、多くの司祭や助祭が見ているのだ!

 国王陛下が調査に乗り出したとしても、その事実は変わらん!

 相談役を務めるお前の父親ごと背教徒として焼き殺されるのだ!

 マスターキャサリン、分かったらこ奴らを捕らえろ!」


「じゃかましいわ、小児性愛者!

 国王陛下もメタトロン教の横暴と腐敗には怒っておられる!

 この機会に教会を叩き潰せれば、これまで教会が奪っていた税を国の手に取り戻す事ができるのだ。

 マスターキャサリン、分かったら小児性愛者達を捕らえろ!」


 俺は二組の腐れ外道達が罵り合うのを受付の影から聞いていた。

 見るに耐えない恥知らずな言い争いだが、非常に役に立つ。

 これだけ多くの者が見ている場でやってくれたら、噂が広まるのも早い。


「冒険者ギルドは公正中立な組織です。

 国の政治に介入する事もなければ、教会の教義に介入する事もありません。

 双方が言い分を戦わせる場は提供しますが、一方に肩入れする事はありません」


「おのれ、お前の背教者の仲間か?!

 だったらお前も背教徒認定してやるぞ!」


「俺にマスターの座を奪われそうになったのを根に持っているのか?!

 いいだろう、親父が教会を叩き潰す時に、一緒にお前も殺してやる!

 それが嫌なら、小児性愛者達を捕らえろ!」


「お二人とも落ち着いてください。

 このままここで言い争いをされてもどうにもなりません。

 いっそ街に出られて人々に訴えられてはいかがですか?

 司祭殿を信じて人々が味方になってくれるかもしれません。

 王国を信じてホセを信じてくれるかもしれない」


「それは……」

「愚かな平民など信じられるか!」


 司祭もこれ以上人々に知られるのは不味いと思ったのだろう、黙り込んだ。

 ホセは自分達が憎まれているのをよく知っているから、人々に事の正邪を判定させたくないのだろう。


 ★★★★★★


「リアムの言う通りにしましたが、本当にこれでよかったのですか?

 今は両者が争っていますが、事が収まればリアムの事を想いだしますよ」


「マスターキャサリンは両者が和解する事を恐れているようですが、そのような心配は無用ですよ」


「ですが、教会の上層部と王国の上層部が、互いの恥部を隠すために両者に和解を命じる可能性は高いのですよ」


「マスターキャサリン、両者の下劣さは上の命令を素直に聞けないくらいなのです。

 自分の欲望はもちろん、恨みを晴らすためには何だってやるのです。

 殺されかけた相手と和解できる性格ではありません」


「……それはリアムも同じではありませんか。

 リアムも両者を殺しかけているのではありませんか?」


「同族嫌悪というモノがあるのですよ。

 同じような下劣で卑怯、憶病な所もある連中だからこそ、互いを憎しみ合う。

 俺の場合は正義感が強いので、自分達から手出ししなければ狙われないという、愚かな思い込みがあるのですよ」


「……実際には、こうして裏で争うように仕組んでいるのにですか……」


「連中に嬲り殺しにされた幼い孤児達の事を想うと、どのような手段を使ってでも滅ぼさなければいけないと思っています。

 それを邪魔する者は、誰であろうと許さない!」


「リアムの邪魔をする気はないですわ。

 クリントン支部のマスターグレイソンから話しは聞いています。

 邪魔をして殺されるよりは、協力してここを正常な状態にします。

 ローソンズクランを叩き潰せる好機ですからね。

 それで、マスターグレイソンの娘はどうしているのですか?」


「サクラの分身体に護らせています。

 サクラの分身体なら純血種竜が相手でも互角に戦う事ができます。

 それ以上の敵だと思えば、地下深くに避難してくれます。

 何の心配いらないですよ」


「心配などしていませんよ。

 マスターグレイソンにも分身体を貸してあげたそうですね?

 クリントン一族が送ってきた刺客をことごとく返り討ちにしているそうです。

 まさかとは思いますが、マスターグレイソンに貸し与えた分身体も、純血種竜と互角に戦えるのですか?」


「当たり前ですよ。

 やっと健康になれたソフィアに、父親を亡くす哀しみを与える訳にはいかない。

 この国の全騎士団を敵に回しても生き残れるだけの分身体を貸し与えました」


「……信じられない話ですが、マスターグレイソンの手紙を読めば、全くの嘘だとも言えませんね」


「信じられないのなら聞くな。

 いい加減腹が立ってきたぞ!

 マスターキャサリンが信じようが信じまいが俺の知った事ではない。

 ソフィアが信じ安心してくれればそれでいい」


「随分とソフィアの事を可愛がっているようですが、マスターグレイソンから娘を奪う気ではないでしょうね?」


「いい加減にしろよ!

 ソフィアに哀しい想いはさせないと言っているだろうが!」


「ソフィアを大切に思っている気持ちは伝わってきますが、マスターグレイソンを気遣う様子が全くないので、気になってしまうのです」


「当たり前だろう、最初俺を騙して利用しようとしていたむさ苦しいおっさんを、何処の誰が気遣う?!

 ソフィアに哀しい想いをさせたくないから、しかたなく配慮しているだけだ」


「最初に騙して利用しようとしたのは聞いています。

 それが腹立たしいというリアムの気持ちもわかります。

 その気持ちを抑えて助けてやってくれるのですね」


「くどいぞ!

 何度ソフィアに哀しい想いはさせないと言わせる心算だ!」


「あれでも可愛い後輩ですし、ソフィアを人質に取られるまでは正義感に溢れた良いギルドマスターでしたから、どうしても気になってしまうのです」


「マスター、大変ですマスター!」


「何事ですか?!」


「教会のゼイヴィア騎士とシャビエル騎士が、白昼堂々とローソンズクラン襲いました!」


「リアム、何をやったのですか?!」


「言いがかりは止めてくれ、マスターキャサリン。

 俺もサクラもここでこうしてマスターキャサリンと話しているではないか。

 マスター以外にも、多くの職員や冒険者が俺達を見ているぞ。

 これが無関係なのを証言してくれる人間が数多くいるではないか」

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