第14話:連合軍

バレンシア王国暦243年4月18日:エディン大魔境


「何が何でも探し出せ、昨日の恨みを晴らすのだ!

 もし昨日の小僧を逃がすような事があったら、全員背教徒にしてやる!

 それが嫌なら命懸けでウサギと小僧を探せ!」


 昨日の小児性愛司祭が大声でわめき散らしている。

 下顎だけでなく、手足の骨も粉々に砕いてやったのに、よく治したな。

 教会には高回復薬がたくさん蓄えてあるのかもしれない。


 国中から収穫の一割を強制徴収しているから、莫大な金があるのだろう。

 金に飽かせて高回復薬を買い集めたのか?

 それとも、教会の権威を盾に誰かから無理矢理奪ったのか?


 ソフィアとウサギ獣人姉妹は、それぞれサクラの分身体に護らせている。

 分身体とは言ってもキングスライムだから、純血種ドラゴンが相手でも互角に戦える強者で、並の魔獣や半獣族では相手にならない。


 だから俺は安心してサクラと一緒に敵を偵察できる。

 ロアノーク支部の冒険者など、千どころか万集まっても者の数ではない。

 問題は、いかにこの問題を隠せないくらいに広めるかだ。


「ジェイソン司祭、偉そうに命令するのは止めてもらおう。

 俺様の父親は国王陛下の相談役を務めている。

 下っ端司祭ごときに偉そうに命じられるいわれはない!」


「下っ端司祭だと?!

 確かにお前の父親は国王の相談役だろう。

 兄二人も優秀で、王国でそれなりの役目についている。

 それに比べてお前はどうだ?

 金や女が欲しくて儂の言いなりになっていた、出来損ないではないか!」


「おのれ、教会の教えに背いて孤児院の幼児を抱き殺したのはお前だろう!」


「それはお前も一緒だろうが!

 儂が与える孤児院の幼女を抱き殺したのは、他の誰でもないお前だ。

 取り巻きの連中も嬉々として孤児院の幼子達を、男も女も関係なく抱き殺していたではないか!

 教会の共有財産である孤児を死なせた後始末をしてやったのは儂様だぞ!」


「その代わりお前達が欲しがったゴブリンやコボルトに幼子を集めてやったろう!

 小型種のコボルトの子供やゴブリンの子供なら、後始末が楽だと次々と抱き殺したのは、他の誰でもない、司祭のお前だろうが!」


「そのコボルトとゴブリンだが、全部お前達が先に抱いていたではないか。

 初物を欲しがる教皇や枢機卿達をなだめるのが大変だったのだぞ!」


「教会の変質者共が!」


「ローソンズクランこそ背教徒の集まりだ!」


 もう、いい、もうこれ以上は聞くにたえない!

 ここまで我慢して聞いた事は無駄にしない。

 こいつらには、一片の情も必要ない事がよく分かった!


 サクラ、こいつらを殺し合わせてくれ。

 比較的軽装備のクランメンバーだと完全に偽装するのは難しいが、騎士と同じ完全鎧を装備している教会騎士なら、サクラが操っていてもバレない。


 以心伝心、サクラは俺の思っていた通りに動いてくれた。

 地下を土を消化吸収しながら移動したサクラは、教会騎士の足装備の隙間から鎧内部に入り込み、自由自在に操った。


「「ギャアアアアア!」」


 二人の教会騎士に斬られたクランメンバーが断末魔をあげる。

 教会騎士達の実力では、あれほど鮮やかに剣を振るう事などできないが、サクラが無理矢理操れば、A級冒険者のエマと同じ動きができる。


「「ギャアアアアア!」」

「何しやがる?!

 本気で俺様達と戦う気か?」

「「ギャアアアアア!」」

「ゼイヴィア、シャビエル、何をやっている?

 何時もの口喧嘩と分からないのか?!」


 こいつら、あれが何時もの口喧嘩だったのか?

 殺伐とし過ぎているぞ。


「殺せ、殺してしまえ!

 大魔境に埋めてしまえば教会にも分からねぇ。

 もう遠慮するこたぁねぇ、皆殺しにしてしまえ!」


 ホセに命令を受けたクランメンバーが一斉に襲い掛かっていく。

 だがサクラが操る教会騎士二人は超人的な戦い方をしている。

 クランメンバーごときに傷一つ付ける事などできない。


 だが、肥え太った司祭は別だ。

 抵抗のできない孤児院の子供達なら抱き殺せても、剣を持ったクランメンバーに対抗する体力も技もない。


 だが、そう簡単に死なせたりはしない。

 司祭に抱き殺された孤児達の苦しみと哀しみを想えば、一瞬で殺して楽にする事などできるはずがない!


 最低でも孤児達と同じ苦しみと痛みは与えてからでないと殺せない。

 できる事なら孤児達が感じた恐怖と痛みと苦しみ以上の苦痛を与えてやらなければ、俺の気持ちが収まらない!


 以心伝心、俺の気持ちを汲み取ってくれたサクラが司祭をかばう。

 だが完全にかばったわけではなく、少し斬られるようにかばう。


 殺されると言う恐怖を与えつつ、ギリギリで助ける。

 助けはするものの、必ずどこかを傷つけられ苦痛を感じる。


 だが、死の恐怖にさいなまれ、痛みを感じるのが司祭だけでは不公平だ。

 同じように孤児を抱き殺したホセとクランメンバーにも、同じ恐怖と痛みを与えなければ孤児達に申し訳が立たない。


 以心伝心、俺の気持ちを汲み取ったサクラは、クランメンバーを即死させるのをやめ、決して死なない程度の重傷を与えるようになった。


 このまま互いに死なない程度に殺し合わせて恐怖を与え続けてやる!

 それが三歳で教会孤児院を逃げだして生き延びた俺の、抱き殺された孤児達に対する手向けだ。

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