第16話:襲撃合戦

バレンシア王国暦243年4月19日:冒険者ギルド・ロアノーク支部


「マスター、ローソンズクランの連中がジェイソン司祭を襲いました」


「教会のゼイヴィア騎士とシャビエル騎士が、ローソンズクランを撃退しただけでなく、クラン本部を襲撃したそうです」


「ローソンズクランの一部が教会を恐れて逃げだしたようです」


「マスター、死にかけていたジェイソン司祭が息を吹き返したようです」


「ホセが教会を襲ったそうです!」


 俺はギルドに残って報告を聞き続けた。

 俺とサクラがこの件にかかわっていない事を証言して貰うためだ。

 最初の襲撃だけでなく、全ての襲撃に無関係だという立場を確保する。


 マスターキャサリンは俺が仕組んだ事だと思っているようだが、その通りだ。

 だが真実を口にするほど愚かではない。


 確かに今回も俺がサクラに命令してゼイヴィアとシャビエルを操らせた。

 彼らが公衆の面前で暴れた事で、上層部が話し合う邪魔をしたのだ。


 ここまでやっても、国と教会の上層部は隠蔽しようとするかもしれない。

 だがそれには膨大な労力が必要になる。

 何よりも当事者である愚か者達の口を封じなければいけない。


 だが、普通に考えて話し合いで終わる事は不可能だ。

 個人や派閥が争い殺し合っただけなら上層部も話し合う余地がある。

 だが流石に教会を国王相談役の息子が襲ったら、話し合うのはほぼ不可能だ。


 いや、ホセの父親というのが冷静で頭が切れるなら、息子を切り捨てるか?

 自分達に言い逃れ出来ない教会襲撃という汚点がある状態で、何の用意もなく教会と戦うバカに、国王の相談役が務まるとは思えない。


 サクラ、ゼイヴィアとシャビエルを操って代官所を襲ってくれ。

 人を殺さないように、建物だけを破壊してくれ。


 もし王家の旗が掲げられていたら、引き裂いて燃やしてくれ。

 ただ、絶対に火事にだけはしないでくれ。

 サクラが係わっている事は秘密にしてくれ。


 以心伝心、俺の想いを汲み取ってくれたサクラは、ゼイヴィアとシャビエルを操っている分身体以外の、新たな分身体を派遣してくれた。


 強大な力を持つサクラは、何十何百ものキングスライムを分派する事ができる。

 俺を完璧に守りつつ、マスターグレイソン、ソフィア、ノワール、ブロンシュも護る事ができる。


 単に護るだけでなく、敵を操る分身体を派遣する事ができる。

 どの分身体も、身体の一部を亜空間に収容する事で、並のスライムに見せかけながら、強大な力を振るうキングスライムとして存在する事ができるのだ。


「マスターキャサリン、今後の事を話し合いたいのですが、いいですか?」


「リアムが相談ですか、怖いですね」


 俺も別に本気で相談がしたいわけではない。

 今回の件に俺が係わっていない事を証言してもらうために、ここから動く事ができないので、時間潰しに話すだけだ。


「怖がるような事はありません。

 D級認定とC級認定の確認がしたいだけです」


「ああ、そうですね、あれは気になるでしょうね。

 リアムはクリントン支部でビッグゴブリンを斃し、マスターグレイソンが認めた時点でD級です。

 こことクリントン支部ではD級として扱われます。

 ギルドカードは今日中に完成する予定です」


「待ってくれ、俺も度忘れしていたが、今思い出した。

 D級認定には3人以上の支部長による認定が必要だったはずだ。

 だからクリントン支部とフェデラル支部の紹介状を書いてくれたのだよな?」


「ああ、あの紹介状の1枚は予備よ。

 好きな方を選んでもらおうと思っていたの」


「では、支部長3人の認定が必要という話はどうなったのです?」


「エマよ、エマが2人目の支部長として認定してくれたわ」


「エマは母国で支部長を兼任しているのか?!」


「半分正解で半分間違いです」


「どういう意味だ?」


「B級冒険者はこの国に8人しかいないとても貴重な存在なの。

 中小の国ならB級冒険者が1人もいない事もあるわ。

 ましてエマは四カ国でA級認定試験を合格するほどの猛者よ。

 他国に引き抜かれる事など絶対に有ってはいけないのです。

 だから、仲介手数料が引かれないように、支部長待遇されているのです。

 そのエマが認めたので、後1人の支部長が認めれば良かったのです」


「冒険者ギルドが厳格なのかいい加減なのか分からん!

 だがもういいです、深く考えるのは止めます。

 クリントン支部にも移動できると分かっただけで十分です。

 C級認定はどうなっているのですか?」


「それも順調に進んでいます。

 定期連絡用の伝令に連合会への申請書を渡しました。

 まだ王都まで届いていないでしょうが、届き次第審査されるでしょう」


「C級やD級に認定されたら高レベル依頼を引き受けられると聞いていますが、わざわざ他の支部や連合会にまで実力を証明させるのは何故です?

 他の支部に行ったら一からやり直さなければいけないのなら、不正防止以外には何の意味もないでしょう」


「リアムへの説明がいい加減だったようですね」


「俺に言った事に間違いがあるのか?」


「ええ、高レベルになった冒険者は、拠点を変更する事なく他の支部に行って依頼を受ける事ができるのです」

 

「ほう、それは楽しみだな。

 高レベルに限定されるのは、支部間の強引な引き抜きを防ぐ事と、犯罪者が拠点を変えるのに利用するのを防ぐためか?」


「ええ、そうよ。

 そんな風に言い当てるから、オリビアも説明し忘れたのかしら?

 悪い趣味に走って、リアムが移動しないようにわざと説明しなかったのでなければいいのだけど……」


「オリビアの話はもう止めてくれ。

 それで、D級とC級の違いは受けられる依頼以外に何があるのだ!?

 分かりやすく簡潔に説明してくれ!」


「D級の場合は、認定試験に合格した支部にだけ移動する事ができます。

 本拠地を変えるかどうかは別にして、狩りをするだけなら自由です」


「C級はどう違うのだ?」


「C級は連合会から全ての支部に似顔絵と特徴が書かれた書類が送られます。

 何処で狩りをしようと、本拠地をどこに移そうと自由です。

 その代わり、連合会から強制依頼が入る事があります」


「それは……C級認定を受けたのは間違いかもしれない……」


「今更遅いですよ」


「マスター、大変です、ホセが二つ目の教会を襲って火を放ったそうです!」


 うん、これでもう後には引けないだろうな。

 もう俺の無関係を証言してくれる者は十分そろった。


「マスターキャサリン、ソフィア達が心配だから大魔境に戻るよ」


『サクラと分身体の担当』

サクラ :ゴッドスライム(リアム担当)

トラサン:キングスライム(マスターグレイソン担当)

タゴサク:キングスライム(破壊工作担当)

ゴンベイ:キングスライム(破壊工作担当)

ロク  :キングスライム(ソフィア担当)

ナナ  :キングスライム(ノワール担当)

ハチ  :キングスライム(ブロンシュ担当)

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