第7話:紹介状
バレンシア王国暦243年4月15日:冒険者ギルド・ロアノーク支部
「オリビアさん、何か依頼はありますか?」
「はい、直ぐにD級に相応しい依頼を探させますね」
オリビア嬢はそう言うと他の受付嬢に依頼書を確認するように命じたが、誰も逆らうそぶりを見せない。
昨日の事でギルド内の力関係が一新されたのだろう。
俺は気に喰わなければ出て行くだけでいいが、マスターやオリビア嬢はそういう訳にはいかないだろうから、必死で戦っていたのだろう。
「それにしても、昨日は胸のすく思いでした。
あれほど気分の良い事は子供のころ以来です」
「そうかい?
大した事ではないと思うけど?」
「とんでもないです、あれほど凄い現場を見られたのは幸運ですよ」
「オリビア嬢が気分よかったと言うのならそれでいいけど。
それより換金はまだかな?」
「あれだけの素材を鑑定するのはとても時間がかかるのです。
全部の鑑定が終わるのは、不眠不休でやっても今日の夕刻になります」
「それは困ったな。
お金や食料には困っていないけれど、今日狩りをしてきたらまた不眠不休で鑑定してもらわなければいけなくなる」
「そうですね、流石に鑑定係達を二日二晩徹夜させるわけにはいきません。
最悪商業ギルドに直接獲物を持ち込んでもらうか、他の支部に行っていただくしかありませんね」
「俺が他の支部に行ってもいいのか?」
「普通なら腕の良い冒険者は取り合いになるのですが、リアムさんの場合はローソンズクランと揉めていますので、他の支部も引き抜かないと思います」
「ローソンズクランはそこまで力があるのか。
実家や親戚が乗りだしてくる前に皆殺しにしておくか?」
「待ってください!
冒険者ギルド連合の理事長もマスターも、ホセを潰す覚悟をしています。
短気を起こさずにもうしばらくだけ待ってください」
「オリビア嬢がそこまで言うのならもう少しだけ待つけれど、正攻法で取り除けないと思ったら、何時でも言ってくれ。
サクラが跡形もなく喰い殺してくれるから」
俺がそう言うと、オリビア嬢はそれほどでもないが、他の受付嬢の顔が強張った。
酒場にたむろしている冒険者や受付にいる冒険者も顔が引きつっている。
近くにいた冒険者などは、恐怖のあまり後ずさっている。
これだけ公言したら、この場にいなくてもホセに伝わるはずだ。
恐怖にあまり暴発して襲ってくるだろうか?
それとも実家や親戚に泣きついて国の力を使ってくるだろうか?
「そんな恐ろしい事を口にしないでください。
美しい顔に似合いませんよ」
マスターが言っていた、オリビア嬢がイケショタだと言うには本当だな。
しばらく近づかないようにしよう。
「だったら他の支部への紹介状を書いてくれ。
色々と聞かれるのも説明するのも面倒だ。
D級に相応しい依頼を直ぐに受けられるようにしてくれ」
「分かりました、こちらのD級に相応しい依頼書もお渡ししておきます。
全部討伐依頼ですから、誰かが先に達成したら無効になりますけれど」
「無効になっても何の問題もない。
人間の害になる魔獣や半獣を狩るのは冒険者の責務だと思っている。
報酬など二の次だ」
「そう言ってくださる冒険者はほとんどおられないのです。
そんな方々は皆さん行方不明になってしまわれて……」
「ローソンズクランの連中がやって、実家や親戚の騎士家が隠蔽したか。
魔獣や半獣が魔境からあふれるような事があれば、国が滅ぶのだが。
連中は王に対する忠誠よりも目先に利益の方が大切なようだな」
「それを国王陛下にお伝えして厳罰に処していただこうとしているのですが……」
「まあ、俺の知った事ではないな。
俺なら魔境の中でも十分生きていける。
そんな話しよりも早く紹介状を書いてくれ」
「そうでした、ごめんなさい。
クリントン支部とフェデラル支部への紹介状を書かせていただきました。
クリントン支部へは急げば二時間ほどで辿り着けます。
フェデラル支部は一日がかりになってしまいます
直ぐにマスターにサインしてもらいますね」
並の冒険者の足で二時間か、俺なら十分ほどで辿り着けるだろう。
「急いでくれ、今日中にはクリントン支部マスターのD級合格証明書を手に入れて戻ってくる」
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