第8話:冒険者ギルド・クリントン支部

バレンシア王国暦243年4月15日:冒険者ギルド・クリントン支部


「おい、こら、ガキ、ここはおむつの必要なガキの来るところじゃねぇぞ!」


 冒険者ギルドは何処もこんな連中が幅を利かせているのか?


「おい、こら、何無視してやがるんだ、殺すぞ」


 こんなゴミクズ相手に時間を浪費するのはもったいない。

 無視だ、無視、弱い者虐めする趣味なんかないんだよ。


「ロアノーク支部から来たリアムだ。

 D級認定試験に必要な依頼を回してくれ。

 支部長からの紹介状はこれだ」


「ギャッハハハハ、こいつ朝っぱらから夢見てやがるぜ。

 それとも手の込んだいたずらか?

 いたずらなら厳しく注意してやるのが大人の務めだよな。

 おい、こら、ガキ、これは暴力ではない注意だからな!」


「ギャッフ」


 そう言いながら殴りかかってくるゴミクズの下顎を粉砕してやった。

 こいつの身なりだと、粉砕骨折を完治させられるような回復薬は買えないはずだ。

 

 買えないよな?

 ずっと前世の常識で考えていたけれど、俺はこの世界の貨幣価値と生産力を知らなかったんだ!


「このガキ、何しやがった!」


「やめろ!

 ロアノーク支部の噂を聞いていないのか?!

 あのローソンズクランに大恥をかかせたガキの話しを思い出せ!」


「「「「「ヒィイイイイ!」」」」」


 俺の噂が近隣の支部にまで届いているのか。

 まだ一日も経っていないはずなのだが?


「リアムさん、家の冒険者が大変失礼いたしました。

 そのバカは自業自得ですので、殺されても文句は言えません。 

 ですがこれ以上の暴力はお控えください」


「こちらが望んでやった事ではありませんよ。

 先に殴りかかってきたのはこいつの方です。

 ロアノーク支部に続いてクリントン支部の冒険者も質が悪いようですね。

 このような奴を受付にたむろさせていて、何が暴力はやめてくださいですか!

 こいつらが有利な間は見て見ぬふりをして、不利になれば止めるのですね。

 貴女も強い奴には尻尾を振って身の安泰を図る卑怯者ですか?」


「この状況では、リアムさんに何を言われても仕方がありません。

 ですが、それでも、これ以上の暴力はお止めください」


「ええ、向こうが襲ってこなければ何もしませんよ。

 俺は恐喝犯でもなければ暴行犯でもありませんから。

 冒険者ギルド職員の制服を着た、卑怯で下劣な共犯者でもありません。

 こんな冒険者ギルドのある街の人々は大変ですね。

 何時も暴力と恐喝に怯えて暮らさなければいけないのですから」


「耳が痛いよ、リアム君。

 だがそれがこの国の現実だし、冒険者ギルドのある街の避けがたい現実だ。

 君もそんな事を話しに来たわけではあるまい?

 D級認定してもらうために来たのだろう?」


 奥から現れた年配の男が話しかけてきた。

 制服から判断するとこいつがクリントン支部のマスターだろう。


「ええ、その通りです。

 それ以外にこんな腐ったギルドに来る理由はありません。

 試験さえ終わればさっさとロアノークに戻ります」


「そうか、そうしてくれればこちらとしても助かる。

 君の話しはマスターキャサリンから聞いている。

 紹介状でも確認させてもらった。

 今こちらにあるD級に相応しい討伐依頼はビッグゴブリンだ。

 ロアノークで大活躍した君なら簡単な内容だろう。

 それと、D級ならC級の討伐依頼も受ける事ができる。

 もうロアノークでD級に合格しているなら、こちらでD級合格した時点でC級認定試験用の依頼を受けられるが、どうする?」


「ええ、いいですよ、そうすればもうここに来なくてもいいのでしょう?」


「ああ、君が嫌っているここに来なくてもよくなる」


「では、依頼内容を教えてもらいましょう」


「C級認定試験に相応しい依頼は2つある。

 木魔狼率いる200頭近くの群れが冒険者を襲っているのだ。

 その影響で冒険者がナンパ魔境に入れなくなっている。

 ローソンズクランが幅を利かせているのでエディン大魔境にも入れない。

 家の冒険者達はとても困っているのだよ」


「俺を子供とあなどり、恐喝しようとしてきた冒険者が、困ろう飢えようと知った事ではない!

 いつも通り街の人々から恐喝して稼げばいいだろう。

 それを見て見ぬ振りしかできないマスターに何を言われても知らん。

 もう1つの討伐依頼はなんだ」


「……もう1つの討伐依頼は、ジャイアントだ。

 木の巨人を狩って来て欲しい。

 治療薬の素材としてどうしても欲しいという依頼がある。

 C級認定試験の為だけなら、討伐証明になる部位だけでいいのだが、今回は身体全体を持ち帰ってもらいた。

 君ならそのスライムが運んで来られるのだろう?」


「いいだろう、買取の値段次第では引き受けてやろう。

 通常の買取価格と今回の買取価格を比較できる表を作っておいてくれ。

 それと、その価格がロアノークに戻って確認した価格より低かったら、マスターと命を賭けたジョスト決闘をする契約書を作っておいてくれ」


「……分かった、どんな条件でも飲む。

 その代わり、必ず木の巨人を持ち帰ってくれ」


「俺が無理難題を言っているような言い方をするな。

 俺は真っ当な条件で買い取れと言っているだけだ。

 子供を襲って金を奪おうとするような冒険者を野放しにしているギルドマスターを、信用する人間などいない。

 だから不当な価格で素材を奪われないように自己防衛しているだけだ」


「すまん、全部俺が悪いのだ。

 口の利きたかが悪かったのも謝る。

 買取価格表も契約書も作っておく、だからできるだけ早く木の巨人を狩って来てくれ、この通りだ!」


「頭を下げられてもできる事とできない事がある。

 木の巨人が大魔境の奥深くに移動していたらどうしようもない。

 絶対に狩れるとは言い切れないが、全力は尽くす」

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