第6話:10倍100倍

バレンシア王国暦243年4月14日:冒険者ギルド・ロアノーク支部


「獲物を確認しろだと?!

 寝言は寝て言え、何も持っていないだろうが!」


 表向き勝負の相手であるクーパーが喚いている。

 今日の勝負のために、粉砕した下顎は治してもらったようだ。


 だがあれほどの粉砕骨折を治すには相当な回復薬が必要だったはず。

 もうクラン内での立場はないだろう。


 虐められて惨めな目に会うのはいいが、その分他の人に八つ当たりするようなら問題だから、こいつだけは確実に殺しておこう。


 それはそうと、ブレイデンは用心深く周囲を警戒しているな。

 こんな連中に俺が魔法袋持ちだと知られるのは得策ではない。


「獲物はここにあるさ」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」


 この勝負に注目していた冒険者達が一斉に驚愕の声を上げている。

 その中にはローソンズクランの連中までいる。


 だがそれもしかたがない事だろう。

 それまで何もなかった場所にゴブリンの死体があるのだから。


「な、何故だ、何故いきなりゴブリンが現れるのだ?!」


「俺のサクラは特別だと言っただろうが!

 獲物を身体に取り込んで運ぶことができるのさ」


「この大嘘つきが!

 スライムにそんな能力があるわけないだろうが!」


「だったらその眼で確認するんだな。

 サクラ、ゴブリンを200体出してくれ」


「はい、ご主人様」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」


 一瞬で目の前にゴブリンの山ができあがった。

 雑魚でしかないゴブリンに素材の価値などほとんどない。


 肉を食べる事もできないし、屑魔石もそのままでは役に立たない。

 無理矢理使うとしたら、灰にして肥料にするくらいだろうか。

 あ、魔境で血肉を撒けば他の魔獣や半獣が集まって来るな。


「討伐対象としての価値はありますが、素材としての価値は皆無ですね。

 100体狩ってもクーパーズパーティーには勝てませんよ」


 ブレイデンが負け惜しみを口にした。


「誰がゴブリンだけだと言った。

 サクラ、ホブゴブリンを10体出してくれ」


「はい、ご主人様」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」


 冒険者ギルドハウスが再び歓声に震えた。

 今にも冒険者全員で足踏みしそうだ。


「ああ、ブレイデン、あんたの従魔はレベルの低いホブゴブリンだったな。

 ここにあるホブゴブリンの半数はあんたの従魔よりも強いぞ」


 俺に自分の従魔よりも強い個体を斃されたのがよほど悔しいのだろう。

 怒りと屈辱を隠しきれない表情をしている。

 だがこれだけで終わる心算はない。


「サクラ、ビッグゴブリンも出してくれ」


「はい、ご主人様」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」

「「「「「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」」」」」


 今度は歓声だけでなく足踏みまで鳴り響いている。

 調子を合わせていないのはローソンズクランの連中だけだ。

 これでローソンズクラン以外の人心を掴めたかもしれない。


「ブレイデン、今回の勝負はD級冒険者認定試験も兼ねていたはずだ。

 たかだかネズミやウサギを狩った程度で偉そうにするとは、ローソンズクランはよほど能力が低いようだな」


「くっ、だが、素材としての価値はこちらの方が高いはずだ」


「ほう、俺は詳しくないのだが、D級冒険者認定条件にネズミやウサギがあるのか?

 それとも、ローソンズクランだけ特別にネズミやウサギを狩って昇級できるのか?

 道理で卑怯下劣で臆病な奴がD級だE級だと偉そうにしている訳だ。

 だが、素材価値が低いと言い掛かりをつけられるのも腹が立つ。

 だから毛皮として価値のあるコボルトも出してやるよ」


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」

「「「「「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」」」」」


 俺はそう言うとその場にコボルトの山を築いてやった。

 今度こそ冒険者ギルドハウスが倒壊するかと思えるくらい足が踏み鳴らされ、ローソンズクラン連中が真っ青になっていた。


「コボルト1000体にホブコボルト100体。

 群の長であるビッグコボルトが10体。

 数も素材の価値も、卑怯下劣で臆病なお前達を圧倒しているはずだ。

 それでも文句があると言うのなら、今度は命を賭けた決闘をしてやるぞ!

 それが怖いのなら畜生らしく尻尾を巻いて出て行きやがれ!」


 俺がサクラの手渡してくれた槍をブレイデンの突きつけると、恐怖のあまり腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。

 

 エマがホセを脅かした時には踏ん張れたが、自分が狙われていると思ったら、急に恐ろしくなったようだ。


 他の連中にも同じように槍を突き出すと、一斉に逃げ出していった。

 クーパーは誰よりも早く一番に逃げ出した。

 一人取り残されたブレイデンは這いずりながらクランハウスから逃げて行った。


「「「「「ウィオオオオオ」」」」」

「「「「「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」」」」」


 俺はローソンズクラン以外の冒険者全員から褒め称えられる事に成った。

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