第2話:決闘だと?

バレンシア王国暦243年4月14日:冒険者ギルド・ロアノーク支部


「マスター、いったいどういう事なのですか?!

 昨日の恐喝が、どこをどうやったら決闘に成るのですか?!」


「落ち着きなさい、オリビア。

 ホセが実家や親戚の力を使って白を黒と言い張るのは何時もの事です。

 私達以外の職員がホセを怖がって偽証するのも何時もの事ではありませんか。

 今更怒っても憤ってもどうにもなりませんよ」


「分かっているから怒っているのではありませんか。

 このままではリアムがここから出て行ってしまうではありませんか!」


「オリビア、リアムが好みのイケショタだからと言って興奮するのではありません。

 そんな姿を見せたら、それこそリアムが他の支部に行ってしまいますよ」


 俺はリアム、元日本人の転生者だ。

 それが幸運だったのか不幸だったのかはまだ分からない。


 極貧だった両親は俺をメタトロン教の孤児院前に捨てた。

 だがこの世界の宗教も元の世界と同じように腐りきっている。

 孤児は神官や神官騎士の慰み者でしかない。


 そんな教会から幼児の時代に逃げられたのは、俺が東洋医学者だったからだ。

 東西の医学知識とラノベ作家の知識を駆使すれば、不可能などない!

 まあ、デビューのできなかったアマチュア作家だったが、知識だけはある。


「マスター、魔境で冒険者が行方不明になる事はよくあるのか?」


 俺は念のために疑問に思っている事を聞いてみた。

 いくら実家や親戚に力があると言っても、熟練の冒険者がそう簡単に屈服するとは思ない。


「……哀しい話しですが、正義感強い将来有望な冒険者が行方不明になっています」


 ほう、そういう方法で邪魔になる冒険者を殺して力を手に入れたのか。

 だったら俺が同じ方法を使ったらどうなる?

 この国の権力がどの程度か確認しておく必要があるな。


「証拠さえ見つからなければ、実家に力がある冒険者が行方不明になっても、どうしようもありませんよね?」


「はい、残念な事ですが、証拠や証人がなければどうしようもありません。

 リアム君が何を考えているのかは分かっています。

 ですが、卑怯な奴はクランメンバーにだけ働かせて、自分は街に残って贅沢三昧しているのですよ」


「証拠や証人が居なければ、街の中で行方不明になっても、犯人を特定する事はできないですよね?」


「残念ですが、そうはいかないでしょうね。

 リアムがローソンズクランと揉めた事はもう知れ渡っています。

 街の代官も有力者の仲間です。

 拷問をしてでも自白させようとします。

 証拠や証人などは幾らでも仕立てられます」


「でもそれはこの支部に残ったらの話しでしょう?

 他の支部に行ったらどうしようもないのではありませんか?」


「他の支部に行くと言っても、王家直轄領や王国領では難しいですね。

 代官は全員王都にいる騎士家の出身です。

 それも、何時でも使い捨てにできるように、吹けば飛ぶような下級騎士家の者が任命されます。

 有力騎士家出身にホセには逆らい難いでしょう。

 派閥の問題で全て敵になるとは限りませんが、騎士は騎士です。

 平民の冒険者よりは騎士の方につく可能性が高いです」


「だったら貴族領はどうですか?

 貴族領はある程度の自治権があるのでしょう?」


「そうですね、貴族領には自治権がありますから、他領の犯罪者でも罪を問われない事はあります。

 ですが王家の枝葉に連なる貴族家や譜代の貴族家は、王国政府には逆らいません。

 逃げ込むなら乱世に王家と争った外様の貴族家しかないでしょう」


「だったら、無実の罪で捕まりそうになったら、外様貴族領に移動しますよ」


「そうですね、その方が良いかもしれませんね」


「よくありません、絶対良くありません。

 こんな美少年を他の支部に取られるなんて、絶対に許せません」


「だったら何か方法がありますか?

 方法が思いつくと言うのなら、オリビアに任せましょう」


「マスター、俺の命だぞ。

 自分の命を他人に委ねる気はない」


「そんなぁ、ここにいて下さいよ」


「オリビア、貴女の都合で危険な場所に残る気はない。

 マスター、闇討ちされたら仕方がないが、正式な決闘なら堂々と受ける。

 その方が連中も権力を笠に着ての悪巧みはやり難いはずだ。

 できるだけ決闘で決着をつけるように誘導してくれ。

 実家や親戚にも敵対する家があるはずだ。

 これまで随分とあくどい事をしてきたのだろう?

 だったらこれ以上の悪事ができない状態かもしれないのだ。

 そうでなければ俺に何らかの罪を着せて処分していたはずだ。

 今回決闘に話しを収めたのは、強引にできない理由があるはずだ」


「それはエマがいるからだと思うわ」


「エマ?

 そいつは何者なのだ?」

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