第4話:パーティー狩り

バレンシア王国暦243年4月14日:冒険者ギルド・ロアノーク支部


「リアム、家のクランから助っ人を出してやろうか?」


「大丈夫ですよ、エマさん。

 あんな連中が束にかかって来ても負けたりしませんよ」


「だが、今回の狩り勝負はパーティー戦になってしまった。

 しかも荷運びと言って、クランメンバー200人に手助けさせている。

 リアムもパーティーを組んで荷運びを雇って良い条件だが、あいつらを怖がって誰も助けてくれないぞ」


「そんな心配は無用ですよ。

 俺にはサクラが居てくれます。

 サクラが居てくれれば、万の味方がいるのと同じですから」


「……リアムがそこまで言うのなら、もう何も言うまい。

 連中はホセが私と命懸けの勝負をしなくてもいいように、決闘を強引に狩りの成果での勝負に変えたいだけだ。

 だからリアムを殺すような事はないと思うが、油断だけはしないでくれ」


「大丈夫ですよ、エマさん。

 命懸けの決闘でも狩りの勝負でも、俺があいつらに負ける事なんてありません。

 俺自身が手を下さなくても、サクラがぶちのめしてくれます」


「そのスライムを随分と買っているようだが、私の知る範囲のスライムは弱い。

 それだけは忘れないでくれよ」


「サクラとは三歳からずっと一緒に魔境で暮らしてきました。

 相手がビッグオーガやビッグジャイアントでもサクラだけで勝てますよ。

 エディン大魔境の事はエマさんよりも俺やサクラの方がよく知っていますよ」


「それが大言壮語でなければいいと私も思っているよ」


 俺は米粒ほどの嘘もついていない。

 サクラは並のスライムではない。

 俺が手塩にかけて育てた最強のスライムだ。


 サクラは俺の友であり親でもある。

 最強の武器であり鎧でもある。

 例え相手がエンシェントドラゴンであろうと叩き殺せる実力がある。


 あのまま魔境の中でひっそりと二人だけで暮らしてもよかった。

 性欲に関しては、サクラが恋人代わりになってくれる。

 ただ、子供だけはサクラが相手では望めない。


 前世で結婚しなかった事には何の思いもない。

 ただ子供を作れなかった事、自分の遺伝子を残せなかった事には心残りがある。

 身勝手な欲望だと言う事は十分承知しているが、正直な気持ちだ。


 サクラは恋人や妻だけでなく、親や子供にも変化してくれる。

 だが自分の遺伝子を残す事はできない。

 だからこうして人の世界に出てきたのだ。


 子供を作る以上、子供に最善の環境を作るのが親の責任だ。

 この世界の親のように、子供を捨てるなんてことはできない。

 教育上の問題で、他の人間がいない魔境に逼塞するわけにもいかない。


 王国を建国するとまではいわないし、責任のある貴族になろうとも思わないが、何不自由ない豊かな家庭で育ててやりたい。

 才能があるのなら魔術や武術を教えてやりたい。


 ただ、前世の知識と創造力を駆使して編み出した俺の魔術は強大だ。

 その気になればこの世界を支配する事もできる。

 そんな秘術を、いくら自分の子供でも性格の悪い奴には伝えられない。


 この世界に転生した俺の子供は何を基準に遺伝するのだろうか?

 身体の組成である遺伝子が元になるのだろうか?

 それとも霊体に宿っている魂が遺伝するのだろうか?


 子供を残虐非道で幼児性愛者ばかりいる教会孤児院に捨てた、この世界の両親から引き継いだ遺伝子が伝わるなら、子供の性格が良いとは限らない。

 

 いくら俺の子供だからと言っても、そんな奴に秘術は伝えられない。

 俺が死んだ後もサクラが見張ってくれるのならいいが、俺が死んだら、サクラには自由に生きて欲しいと思っている。


 まあ、いい、そんな事はこの世界の常識や標準を学んでから考えよう。

 この世界で超一流の冒険者に育てれば、悪い権力者に陥れられる事はないだろう。

 金も、並の王家に匹敵するくらいの額を残してやれば困る事もないだろう。


「本当に大丈夫ですよ、エマ。

 それよりもエマの知っている大陸の常識を教えてください。

 この国の事は何時でも学べますが、この国が国交を厳しく制限している大陸の真実は、エマしか知らないのです」


「それは勝負が終わったら何時でも話してやるから、急いで魔境に行けよ。

 ローソンズクランの連中はもう魔境に行っちまったぞ」

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