第37話:決断

バレンシア王国暦243年11月4日:冒険者ギルド・エディン支部


「これは、ハーパー殿の優しさだと思うべきなのでしょうか?」


 グレイソンが何とも言えない表情でつぶやいた。


「さあ、これからの行動を見てみなければ判断できませんよ」


「確かにリアム地域長の申される通りですね。

 ハーパーがアメリアをここに置いて出て行ったのが、リアム地域長に自分の至らなさを指摘されて改心した結果なら、従妹を殺して迎えに来ますよね」


「そうですね、殺して戻ってくるでしょうね。

 ですが、俺に現実を突きつけられた結果、恋の病が冷めて、従妹と結婚して伯爵家を継ぐ可能性もあります」


「そのような事になったら、アメリアさんが哀れすぎます」


「その時は我々で慰めてあげるしかないでしょう。

 とはいえ、グレイソン副支部長は男盛りの男性だし、俺の見た目はガキです。

 妙齢の美女を雇うにはちょっと問題があります。

 だから、アメリアをソフィアの侍女に雇ってあげてください。

 費用は俺が持ちます」


「いえ、ソフィアの侍女を雇うのですから、私が支払わせていただきます。

 リアム地域長に、ここの副支部長とクインシー支部の支部長をさせて頂いていますから、並の支部長の百倍の収入があります。

 アレイナとトラサンを貸して頂いていなければ、ソフィアのためにC級やD級の冒険者を護衛に雇い、侍女も雇わなければいけませんでした」


「分かりました、ここはグレイソン副支部長のメンツを立てましょう」


「ありがとうございます。

 そうなると、ハーパー殿が残していった侍女と姫騎士をどうしましょう?」


 グレイソンは俺に恩着せがましくならないように教えてくれる。

 だが、サクラの情報で事前に知っていた事だ。


 ハーパーはアメリアだけを置き去りにして帰ったわけではない。

 病み上がりのアメリアを世話する侍女二人と、護衛の姫騎士を二人残している。


 この状況を見れば、従妹を殺す覚悟をして帰った可能性が高い。

 可能性が高いとは言っても、絶対にそうなるとは限らない。


 当主である父親と母親の説得に折れる可能性がある。

 ハーパーだって産まれた時から貴族教育を叩きこまれている。

 貴族は血統と家を残す事が至上命令なのだ。


 ましてハーパーに好意を持つ従妹は、伯爵家よりも格上の辺境伯家令嬢だ。

 家の繁栄と安全を考えれば、結婚相手として最良の相手だ。


 普通の貴族なら従妹と結婚してアメリアを愛人にしている。

 恋を貫き平民を伯爵夫人にしようとしたところまでは良い。

 ハーパーのそう言う所は評価している。


 だが護り切れずに毒殺されかけたら何にもならない。

 俺がいなければアメリアは確実に死んでいたのだ。


 それなのに、毒を盛った従妹に報復できないなら、どれほど愛していると言って行動したとしても、迷惑以外の何物でもない!


「侍女二人と姫騎士二人は、彼女達が納得してくれるのなら俺が雇います。

 確保してある家の侍女と護衛として雇います」


「彼女達がハーパー殿の命令を守ると言って、アメリア殿の世話と護衛を続けると言ったらどうされるのですか?」


「ハーパーがアメリアにまとまった金を残していて、アメリアがハーパーの迎えを待つと言うのなら、俺の家を貸し与えます。

 護衛が二人もいるのなら、何かあっても時間稼ぎくらいはできるでしょう。

 姫騎士達の腕が悪いのなら、サクラの分身がいても見抜けないでしょう。

 屋敷にサクラの分身体を潜ませておいたら、少々の事があっても対処できます」


「リアム地域長がサクラの分身体を護衛につけてくださるのなら、アメリアは完璧に護られたも同然です。

 侍女や姫騎士の中に黒幕の手先がいたとしても、何の心配もないですね」


「はい、それが一番心配なのです。

 ハーパーが幼少抜けていても、代々伯爵家に仕える者達全員が愚かなはずがない。 

 死力を尽くして護ろうとしたはずです。

 それがまんまと出し抜かれて毒を盛られているのです。

 伯爵家の中に従妹の手先がいる可能性が高いです」


「そんな状況でなければいいのですが……」

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