第46話:夢への第一歩

バレンシア王国暦244年1月4日:冒険者ギルド・エディン支部


「サクラ、教会の方はどうなっている?」


「激烈な同士討ちになっております」


「サクラの分身体同士の猿芝居か」


「はい、教皇や枢機卿達の悪行が次々と表に出ております。

 極悪非道、言葉にするのもはばかられる下劣な行いの数々です。

 悪行に加担していた者以外は味方する者がおりません」


「そんな教皇や枢機卿達が仲間割れして殺し合うか。

 全く関係のないモノからすれば、いい見世物だな」


「リアム様の思惑通りでございます」


「地方の背教徒たちはどうなっている?」


「教都の記録にも残っていないような、末端の神官に変化させた分身体が、弟子と言う体裁にした分身体と共に論破しております。

 教会の力で悪事を重ねてきた神官達は、証人と証拠を確保して晒し者にしました。

 王国や貴族の役人と結託していた者は、役人も一緒に捕らえました」


「後は国王と領主しだいか」


「国王はリアム様の命で分身体に入れ代わっております。

 本物は罪を償いための拷問を加えております。

 変化している分身体を形だけ極刑に処します。

 貴族や貴族の家臣で下劣な神官に加担している場合は、どういたしましょうか?」


「貴族家も王家と同じように、分身体を送って乗っ取ってくれ。

 日々魔海で膨大な経験値を稼いでいるのだろう?」


「はい、どれほど分身体を送っても日々に経験値に比べればささいな量です」


「このまま教会を解体できそうか?」


「リアム様のご命令通り、数十の分身体に反メタトロン教を掲げさせています。

 新メタトロン教、真メタトロン教、古メタトロン教といった、メタトロン神を信仰する新派だけでなく、ウリエル教、ヨシュエル教、ナダエル教、ナダナエル教、サリエル教といった、新たな神を信仰するお教えも広めております」


「これで1柱の神による信仰の独裁は崩れるな」


「はい、私には理解できませんが、リアム様が神も信仰も自由と平等が大切と申されるのでしたら、私はそれに従うだけでございます」


「この世に存在しない、斃しようのない神が、1柱で信仰を独裁していては人の正常な成長を妨げてしまう。

 これからも神官が悪事を働いた教会は情け容赦なく潰してくれ。

 自分を信仰する人間だけを優遇して、自分を信仰しない人間を傷つけ殺すような奴は、神ではなく悪魔だからな」


「承りました。

 私や分身体の目が行き届かず、末端の神官が悪事を働くような教会は、神罰を下して皆殺しにいたします」


「ああ、任せきりですまないが、教会の事はサクラに一任する。

 俺は王国の事に集中しなければいけないのだが、いつ分身体が変化している王子と入れ替わって王位を継承するかだが……」


「別に入れ替わる必要などないのではありませんか?

 このまま私の分身体に任せればいいのです。

 特別な事などせずに、王国の法律通りに公平に治めればいいのです。

 それだけで公平で平和な国になると思います」


「それはそうだが、国を奪った者として、責任を果たすべきだと思う」


「恐れながらリアム様、それは考え過ぎですし、失政の元です。

 臨機応変に治めようとするから不公平が起きるのです。

 法律通りに治める方が、民にとっては公平となるのではありませんか?」


「サクラの言う通りだが、それでは俺が楽をする事になる。

 何の責任も果たさず、人任せになってしまう」


「小さな組織のリーダーであろうと、配下に任せる事があります。

 一国の王が、一兵卒一役人がするような役目ま、全部やる事など不可能です。

 適材適所、才能のある者に役目を任せるのは当然の事です。

 そう教えてくださったのはリアム様ですよ」


「そう、だったな、そうサクラに教えたのは俺だったな」


「それに、私はリアム様の眷属です。

 眷属である私がやった事はリアム様がやった事と同じです」


「その通りだ。

 俺とサクラは一心同体。

 サクラのやった事は俺がやった事だし、俺がやった事はサクラのやった事だ。

 分かった、教会と王国の事はサクラに任せる。

 俺はかわいい子供達を護り育てる事に専念する」


「それはよろしいのですが、夢はどうされるのですか?」


「夢か、この国の魔境全てを巡り、いずれは大陸に渡って大陸の魔境も制覇する。

 そうサクラに夢を語った事があったな」


「はい、その夢をかなえるために、大陸の刺客を許したのではありませんか?」


「その通りだ、この国の民を護るためだけでなく、大陸に渡る時の事を考えて、彼らを助けて大陸に戻した」


「では、その夢を叶える準備をされてはいかがですか。

 子供達を捨てて、今直ぐ夢をかなえるために大陸に渡りましょうとは言いません。

 大陸に渡る時の事を考えて、私の分身体を大陸に送りましょう。

 幸いと言ってはおかしですが、この国の問題はほぼ片付きました。

 私の経験値も予定以上に増えています。

 エンペラースライム1レベル分くらいなら、余裕で大陸に送ることができます。

 それだけ送れば、この前に逃した刺客一族を護りながら魔境の偵察が可能です」


「そうだな、それが1番俺も民も幸せになる方法かもしれない。

 そうと決まったら、もっと積極的に動くぞ。

 この国も護りも大陸の偵察もゴッドスライム1レベル分くらい増やしたい。

 近くにある魔海のボスを狩って一気にレベルを上げるぞ!」

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転生者は冒険者となって教会と国に復讐する! 克全 @dokatu

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