第28話:交易都市商人
バレンシア王国暦243年10月17日:交易都市・商人の館
サクラの分身体がソーヤー司教領の大神殿を襲撃している時刻。
俺とサクラは交易都市バカビルにいた。
交易都市商人が本当にこの国の人間を異国に売り払っているか確かめるために。
サクラが事前に潜入してくれていたので、俺も簡単に潜入できた。
俺もサクラも完璧な隠蔽魔術を使える。
気配を隠すだけでなく、目に写らないようにもできる。
「ニコラス殿、まだ商品は集まらないのか?
もう出港しなければ風の良い時期を逃してしまう!
約束の期日までに商品を集められないのなら、違約金を払ってももらうぞ!」
「それは俺に言われてもどうにもならんよ。
王国と教会が自分達の悪行を隠蔽するために密貿易を厳しく取り締まりだした。
これまで黙認されていた、貧民や流民の密貿易が許されなくなった。
今下手に動けば、俺もお前も捕らわれて処刑される。
お前もこの国で殺されるのは嫌だろう?」
「はん、死ぬのが怖くて船乗りができるか!
こんな地の果てまでやってきたのは金のためだ。
金になる若い女を仕入れられなければ、国に戻っても出資者に殺される。
母国で殺されるのもこの国で殺されるのも同じだ。
ニコラスが若い女を集められないと言うのなら、自力で集めるだけだ。
自力で集める以上、代金は支払わないし、違約金も支払ってもらう」
「俺の所為ではない、違約金は払わん」
「好きに言っていろ、払わないと言うのなら力尽くで奪う。
足らなければ商品代わりにニコラスと家族を奴隷として売り払う」
「やれるものならやってもらおう。
交易都市の騎士団は強力だぞ」
「はん、時代遅れの腰抜け騎士など、船に乗ったばかりの子供でも勝てる。
邪魔をすると言うのなら、騎士など皆殺しにしてくれる!」
「お前の言う通り、この国の騎士は時代遅れの腰抜けだ。
だが冒険者は違うぞ。
この国には大陸から渡ってきたエマと、エマを凌ぐリアムがいる。
お前達が暴れたら、リアムが派遣されるぞ。
属性竜を狩るほどの冒険者と戦う覚悟があるのか?」
「はん、俺達に誇張されたハッタリが効くと思うな!
確かに交易都市に流れて来る魔獣素材を見れば、そこそこの冒険者が新たに生まれたようだが、あの程度の魔獣素材など、我が国では普通に流通している。
この国で価値のあるのは若い女と金銀だけだ。
さあ、どうする、約束通り若い女を集めてくるか?!」
「……しかたがない、俺も死ぬのは嫌だからな。
だが俺の手勢だけでは代官所の騎士団には勝てない。
お前の配下を貸してもらいたい」
「駄目だ、そんな契約はしていない。
若い女を集めるのはニコラスの役目だ」
「それでは、俺達が失敗した時はどうするのだ?
先ほどから言っていたように、本当にこの国と戦うのか?
それではお前の船だけの問題ではなくなるぞ。
本国政府まで巻き込む事になるのだぞ。
それでもいいのか?!」
「構わない、本国もこんなおままごとのような貿易には不満を感じている。
本国の百騎隊に植民地の軍をつけてこの国に派遣する準備が進められている。
そうなればこの国も我が国の植民地だ。
正当な理由で争いに成った方が本国もよろこぶ」
やれ、やれ、とんでもない話しだな。
もうこの国は強大な他国に狙われているようだ。
さっさと戦船か交易船を購入して大陸に逃げるか?
だが、エマや暗殺団の話しを聞く範囲では、大陸もろくな国じゃない。
それに、何の罪もない女性を奴隷にするために誘拐する連中は見逃せない!
「今の話は全て聞かせてもらった。
俺はお前達が話していた属性竜を斃した冒険者だ。
無駄な抵抗は止めて大人しくしろ。
さもないと、生まれてきた事を後悔するくらいの報復をしてやる。
お前達がこれまでやってきた事を聞いて、俺の腸は煮えくり返っているんだ!」
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