番外編 12歳差のあなたと相容れないワタシと

12歳差のあなたと相容れないワタシと 第1話 出会い

※この話は、「降る星を数え終えたら」に登場する西下にしした雪菜ゆきな矢柳やなぎ聡子さとこの話になります。(聡子視点)




いつからだろう。他人を自分の中に踏み込ませることをしなくなった。


また、同じことの繰り返しにしかならないと、瞬時的な悦楽でストレスを解消するようになった。



20代後半にはもうそんな生き方を身に付けていて、ワタシは今年34になった。


女性にとって人生で最大の壁になる35歳の壁を意識してか、周囲ではばたばたと結婚する存在が増えた。


ワタシはレズビアンで結婚する自分なんて想像もしていなかったから、そんなものなんだなとしか思ってはいない。


ただ、友人を飲みにも誘いづらくなったし、変化は感じていた。


年齢を特に感じたのは、ビアンバーでその日知り合ったばかりの存在に、


『ネコしかできないなんて拘っていたら、そのうち誰も相手がいなくなるよ』


と、悪意なく言われた時だった。


それは薄々感じていたことで、上手く遊ぶことができるのなら、まだこれからも同じような生活は続けられるのかもしれない。それができなければ限界が近いことは感じていた。


でも、誰かと一緒にいる自分なんて全く想像がつかなかった。





いつものように残業をした帰り道に、ワタシは1杯だけでも飲んで行こうとビアンバーに足を向けた。


一人で家飲みはしたくない。でも、プライベートくらいは男性がいる空間から解放されたくて、こうして仕事帰りに時々寄ることはあった。


会社でのワタシは人当たりがよい人間を装っている。もちろん主張すべきところは主張するけど、怒ることにもパワーが必要で、どうしてもという時以外は平常心でいようと心がけていた。


でも、時々会社での自分から素の自分に上手く切り替えられなくて、ワタシは酔うことで頭をリセットする。


「一緒に飲みませんか?」


カウンターの一つ開けた隣の席に座った女性から声が掛かる。


この場所に慣れた感じがするので、20代後半くらいだろうか。


仕事帰りのくたびれたワタシのような姿ではなく、メイクもきっちり直しているし、最近の流行を取り入れた格好は、彼女の目的を明らかにしている。


「ワタシはネコしかできませんよ」


もちろん話が弾まなくてここで別れることもあり得るだろう。でも、その先に誘われてもそれが理由で進めなくなるのだとすれば、先に断っておいた方が時間の無駄にならなくて済む。


それは彼女に限らず、誘われた時にいつも確認していることで、じゃあいいやって言われることが半分以上で、そんなことを求めてないって言われたこともあった。


今日は何て言われるかな、と期待もせずに相手の応答を待つ。


「なんか可愛いですね。抱き締めたくなっちゃいました。私は雪菜って言います。気が強いので、雪のイメージじゃないってよく言われます」


そこで合意をしてしまうと、その先は同意したようなものだった。


彼女はワタシに興味があって、ワタシは誘いを受ける発言をした。


雪菜も慣れているようで、1杯飲む間だけ話をして、早々に2人で店を出た。


手近なホテルに入って求め合って、それで終わるはずだった。


「聡子さんの我慢してる時の声、ぞくってしちゃいました。よければまた誘ってもいいですか?」


ワタシはSMというほどではないけど虐められるのが好きな性癖があって、それに気づいた雪菜に虐め抜かれた。雪菜は経験を物語るように手慣れていて、快楽を導き出す手段を知っていた。


「…………」


填まると抜けられなくなりそうで、それが頷くことに二の足を踏ませた。


「気持ち良くなれなかったですか?」


「気持ち良かったです。でも、特定の相手を作る気はありませんから」


「彼女になって欲しいとは言ってませんよ。もうちょっと聡子さんの体が知りたいなって思ってるだけなので、聡子さんがしたい時だけ声を掛けてくれるでいいですよ」


そう言って、連絡先を書いたメモを一方的に渡された。これを破り捨てるか、使うかはワタシに委ねられたということだろう。


受け取らずに揉める必要もないだろうと、頷いてメモを鞄のサイドポケットにしまう。


使うことはないだろうと思いながら雪菜とはホテルの前で別れた。





社会人になって以来、ワタシはずっと一人暮らしをしている。実家から職場に通うことは、多少遠いとはいえできない距離ではない。でも自立していなければ、自由な選択もできない気がして家を離れた。


ワンルームの部屋は、ベッドやテーブル、生活に必要なものを配置すると広さがなくなって、歩くスペースくらいしかない。


休みの日にそこで過ごすと気が滅入りそうで、わたしはランニングを始めた。


一人で暮らしたいのに、家にはいたくないなんて我が儘でしかないけれど、恋人とは長続きしなくても、ランニングだけはもう10年以上続けている。


初めは家の周辺を毎日走るだけだった。大会に時々出るようになって、自分のタイムの限界に気づいてからは、週末にフィットネスジムにも通うようになった。


ジムには主に週末に通っていて、専らマシンジムを利用している。


ジムには他にもメニューはあって、見ていると楽しそうでも避けてしまっているのは、ダンスとヨガだった。柔軟な動きがワタシはどうしても自分に結びつかない。


筋力トレーニングを中心に2時間程汗を流して、更衣室で上着を羽織る。


家から歩いて行ける距離にあることもあって、ここに来る時は家でトレーニング用のウェアを着て来るので、着替える必要もなかった。


家に帰ってから汗を流して、夜は出かけようかと悩む。


ビアンバーに行くのは電車での移動が伴うので面倒くさい。でも、少し飲みたい気分だった。



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