12歳差のあなたと相容れないワタシと 第10話 家

いつから住めるかという質問に、今日からと雪菜らしい即答が返ってくる。


ずっとそれで意見が合わなかったのに、雪菜は考えを切り替えてしまうと行動が早い。


その日は泊まって、翌日には当面必要な日用品を持って来ていて、本格的な引っ越しのために今は自分の荷物をどこに置こうかを検討している。


「聡子さんって、どうして家を買ったんですか?」


「友達に引っ越そうかと思ってるって話をしたら、それならいっそ家を買ったらって

勧められたからかな。ワタシが結婚する気がないことは知っている友達だったから、一人で生きるなら老後に家を探すのは大変だから今の内に買っておいたら、って物件を探す手伝いもしてくれたんだ」


前の家に比べると広くなった分、毎月の支払いも増えたけど、ワタシは時々お酒を飲みに行くことと走ることくらいしか趣味がないので、家を買うことはそこまで負担にならなかった。


「間違ってはいませんね」


「狭い家でごめんね」


あの時は誰かと住むなんて思っていなかったから、1LDKの物件で十分だと思っていた。これからずっと一緒に暮らすとなると、雪菜の部屋もあった方がいい気がしたけど、マンションだから部屋を増築という手段も取れない。


「狭くないですよ? 1LDKって言ってもここ新築ですよね? 人気のエリアで駅からもそこそこ近いし、リビング広いし、幾らしたんですか?」


「建ってから買ったから、少しは安くなっていたみたい」


「だからって、ローンをさらっと通って買えちゃう聡子さんがすごいんですけど」


「雪菜は住み慣れた街の方が良かったんじゃない?」


「私はそういうの気にしないので大丈夫です。川の堤防が近くにあるし、聡子さんらしい選択だなって思いました」


「うん。堤防を走るの気持ちいいよ」


川の側を避ける人もいるけど、治水もしっかりしていそうだったし、日常で走れる場所がすぐ近くにあるのがいいと、この物件を選んだのだ。


「だから、一緒には走りませんよ。自分のタイム分かってて言ってるんですか」


今までジムに一緒に行くことはあっても、外を走る時はいつも雪菜は見ているだけだった。走ることは雪菜の趣味でもないし無理強いはしなかったけど、堤防を走るのは気持ちよくて雪菜も走ればいいのにと思ったりはする。


「雪菜の方が体力あるじゃない」


「私の体力は、不健全なことに使うためにあるんです」


「もう……」


「私と住んだら、もっと体力ないと保たないかもしれませんよ? 私は聡子さんに合わせませんからね?」


「雪菜は毎日したい方?」


「なんで37のくせにそんなに無防備なんですか」


聞いただけなのに雪菜はちょっと怒り気味だった。


「雪菜はどのくらいの頻度がいいか聞いただけだよ?」


「じゃあ毎日って言ったら応えてくれるんですか?」


「雪菜の為なら頑張る、かな」


「じゃあ手加減しません」


頷くと雪菜は頬を膨らませて、怒らせたかなと思ったものの、腰を引き寄せられる。


「聡子さんって、仕事ではそんなに無防備じゃないですよね?」


「普通に働いてるつもりだけど」


「女性の上司とかいたりしません?」


「別の部門なら女性の部長もいるけど、そんなに話をしたこともないよ」


「ならいいです」


「何がいいのか全然分からないんだけど」


「聡子さんは私だけ見ていてくださいってことです」


それが雪菜の独占欲だということに漸く気づいて頷きを返す。


雪菜からのキスが落ちて、それを受け入れる。


美人で、色気があって、自信もあって、きっと雪菜はワタシじゃなくても相手は見つかるだろう。


でも、もう離せなくなった。


「雪菜もワタシだけ見ていて」


「もうとっくにそうなっていますよ」


「12も上で可愛くないのにいいの?」


「聡子さん以上に可愛い人なんか見つかりませんよ」


流石にちょっと照れくさくて視線を逸らす。


「そういう態度を取られると余計に虐めたくなるんですけど」


「雪菜って趣味悪くない?」


「自分のことなのに趣味悪いなんて言わないでください。今までの聡子さんの恋人は、聡子さんを理解できなくて、聡子さんを腕の中で泳がせる楽しみも知らなかった未熟な人たちなだけですからね」


「雪菜はそうじゃないってこと?」


「もちろんです。だから、聡子さんも私がいいんですよね?」


雪菜に覗き込まれて頷くと、ベッドに行こうと誘われる。


昨日も夜中まで離してもらえなかったけど、今日もそうなるのかもしれないと思いながらもその誘いにワタシは乗る。





10年後はどうなっているんだろうか。


20年後はどうなっているんだろうか。


雪菜が一緒にいると言ってくれても不安は消えないだろう。


それでも、雪菜はワタシといるために頑張ると言ってくれた。


ワタシはきっと雪菜が頑張っていることの10分の1も理解できないかもしれない。

一つだけできるとすれば、こうして触れて雪菜を暖めることくらいだろう。

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