12歳差のあなたと相容れないワタシと 第11話 エピローグ

雪菜は春から派遣での仕事を辞めて、正社員として新しい職場で働き始めた。


ワタシと同じ土俵にいきなり上がることはできないから、徐々に距離を詰めていくと雪菜は言っている。


気にしないなんて言えば雪菜の機嫌を損ねるのは目に見えているので、好きにすればいいとは言ってある。


雪菜はワタシと肩を並べられる関係でいたい。


そこを譲れなくて苦しんでいることは分かったから、できるだけワタシも耳を傾けようとは思っている。


2人で住み始めて、話し合って家事にしろ生活費にしろ公平に分け合うことを決めた。


それでも残業のしすぎだと雪菜に家事を奪われることは多々あった。


雪菜は何でも自分でやれてしまうけれど、人のサポートも上手い。


だからワタシをよく助けてくれるけど、それをどうやって雪菜に返そうかと最近よく考えている。


雪菜に聞いたら体で返してくれたらいいです、なんて言っていたけれど、雪菜だって完璧じゃないし、弱い部分はある。


まだまだお互いに知らない部分が一杯あって、お互いが変わって行って、それを共有できる関係でこれから先もいられたらいいと思っていた。





「あれ? 西下さん指輪するようになったんですね」


雪菜の就職祝いをしようと、須加さんと3人で定時後に待ち合わせをする。最後にわたしが合流して、須加さんが予約してくれた居酒屋に入った。


飲み物を注文した後、目敏く雪菜の左手の薬指に気づいて、確認が飛んでくる。


「聡子さんがしてくれないと泣くって駄々を捏ねるからです」


頬を膨らませた雪菜は、それをつけてはくれているけれど渋々なことは知っていた。


「だって雪菜に悪い虫がつかないか心配だから」


新しい職場であれば、新しい人間関係ができる。


雪菜はどこでも臆することなく活躍できるタイプだと分かっていたからこそ、誘いを掛けられないかも心配で、ワタシからプレゼントしたものだった。


「私は自分で断れますよ」


「だとしても、何かあっても雪菜は本当のことはワタシに言わないでしょう?」


そう押し切って、雪菜は指に指輪をしてくれている。


「心配いらないって言われていても、気になっちゃうんですよね。わたしも正直睦生むつきにして欲しいって思っちゃいました」


須加さんは最近メッセージをやりとりする中で、恋人になった木崎睦生さんの家に入り浸るようになったとは聞いていて、順調なようだった。


「須加さんって束縛するタイプだったんですね」


「違います。睦生の言葉を信じてないわけじゃないです。でも、睦生は美人だから絶対に周りが放っておかないので、何かに巻き込まれたりしないか心配なだけです」


「毎日迎えに行ったらいいんじゃないですか?」


呆れ声を雪菜は上げるけれど、一緒に働いていた須加さんのことを雪菜はよく気にしていたことは知っていた。


雪菜曰く、妹のようで放っておけないらしい。


雪菜の方が5つ下だけど。


「できたらしてます」


「睦生さんってそんなに美人なんですか?」


ワタシの問いに須加さんは、スマホで30代くらいの女性と小さな子供が写った写真を見せてくる。


確かに美人で、笑顔を向ける瞳が優しいのは撮影者が須加さんだからだろう。


でも、確かにこの容姿は男性を引きつけるとも感じた。


「木崎さん髪切ったんですね。これで放っておく男の人なんていないでしょうね」


「だから心配なんです」


「綺麗な人だね」


「聡子さんは興味持たないでください」


「綺麗な人だって言っただけだよ。もちろんワタシは雪菜も綺麗だって思ってるけど、綺麗だったら誰でもいいじゃないから」


「……知ってます」


「西下さんを照れさせるって、矢柳さんにしかできないですよね」


そんなことはないんじゃないかと雪菜を見たけど、雪菜はそっぽを向いているし、須加さんはにやにやしている。


「雪菜って、須加さんの目から見てモテそう?」


「それは男性にという意味ですか? 女性に?」


「どっちもかな」


そこで、何を聞いているんですか、と横槍が飛んで来る。


「気になるから」


「私は聡子さんがいるから、他に浮気なんかしませんって言ってるじゃないですか」


「それは疑ってないけど」


「西下さんがこんなに可愛いのは、矢柳さんの前だけですよ。職場ではキリッとしてますし、その姿に恋心を抱く人はいるかもしれませんけどね」


「指輪だけで怯んでくれるかな」


「大丈夫ですよ。指輪をしてる西下さんに近づける存在なんかいません」


「何の話をしてるんですか、もう……」


「可愛い雪菜をどうやって守ろうかって話」


「素面で寝言言わないでください」


「昨日雪菜が寝かせてくれなかったから、確かに寝不足かも」


「…………」


「ごちそうさまです」


これ以上は言うな、と雪菜が横目で睨んでいて話題を趣味の方に切り替える。


須加さんとは一緒に走りましょうと前から話をしていて、それを具体的に詰める。


雪菜は付いて行ってもいいけど、一緒には走りません、といつものスタンスだった。




「聡子さんは思ったことをそのまま言い過ぎです」


須加さんと解散した後、並んでホームで電車の到着を待つ。


雪菜はまだちょっとご機嫌斜めなようだった。


「そう? だって心配だから須加さんに聞くのが一番かなって思って」


「ほんと、須加さんと仲良しですよね」


「趣味の話が合うのもだけど、須加さんって裏表がないから信頼できる、かな」


「そうですね。真っ直ぐで、自分のことよりも人のことを先に気にしちゃう人で、嫌えないんですよね」


「雪菜も気に入ってるじゃない」


「いい人だとは思っています。でも、須加さんには木崎さんという存在ができたので、私が気にするのは余計なお世話ですから」


「雪菜はワタシのことだけ気にしておいて」


「もう……どうしてそういうことをふらっと言うんですか。今晩も寝かせませんよ」



end


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番外編もこれで終わりとなります。

最後までお読み頂き有り難うございました。


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