12歳差のあなたと相容れないワタシと 第9話 愛情(雪菜視点)

聡子さんは自分で何でもできて、一人で生きる力を持っているのに、それを鼻に掛けたところがない。あるがままに自分らしく生きる姿に惹かれた。


触れて、一緒に時間を過ごすようになって、私だけのものにしたいと独占欲はすぐに沸いた。お互いが求める方向性は同じで、何をするにしても役割分担を決めるだけで済んだ。


今まで何人かと付き合ってはきたけれど、一緒にいることが苦にならなかったのは聡子さんだけだった。


一緒にいたいと願ったけれど、私には聡子さんと肩を並べられるものが何一つなかった。



どうして同じ年じゃないんだろう、とはもう何回思ったか分からない。

せめて、半分の年の差なら手を伸ばせば届くと、ここまで苦しまなかっただろう。



一緒に暮らそうという言葉を素直に受け入れられずに、一緒にいることを一度は諦めた。


諦めたからと言って想いがなくなるかと言えばそうじゃない。


想いばかりが募って、聡子さんに触れたくて、何度も一人で膝を抱えた。


そんな自分が嫌になって、もっと外を知ろうとした時に聡子さんに再会して、聡子さんから離れられない自分に気づいた。


私にはまだ力はないけれど、私と縒りを戻したいという聡子さんを離せなかった。


曖昧なままで関係を続けて、私が決意をできたら、今度は私から聡子さんに言うつもりだった。


でも、須加さんの幸せそうな笑顔を見て、無性に聡子さんに会いたくなった。


どうしても触れたくて、平日なのに家を訪ねた。



「雪菜、大好き」


「どうして前触れなく言うんですか」


「言いたくなったから?」


ベッドで求め合った後、一度は離していた体を聡子さんは再び寄せてくる。


熱は既に冷めていて、聡子さんの素肌は冷たくて心地がいい。


「聡子さんは気軽に言い過ぎです」


「だって、雪菜が傍にいてくれるのが嬉しいから」


そんな可愛すぎる台詞を無防備に言われて、いつも困るのは私の方だった。


聡子さんとの関係が深くなるほど私は臆病になって、逆に聡子さんは感情を隠さない素の自分を見せてくれるようになった。


私には聡子さんに相応しくないという思いと、聡子さんを誰にも渡したくないという思いが反目しあって存在する。それが毎回素直になることをできなくさせていたけれど、私は今日聡子さんと生きることを選んでしまった。


いざとなると自分で言えなくて、聡子さんに言わせたなんて臆病すぎるけど、聡子さんの言葉は私を満たしてくれて手放せなくなった。


「私も好きですよ」


「……雪菜がおかしい」


「おかしいは酷くないですか?」


「だって、そんなこと一度も言ってくれたことないでしょう?」


「そうでしたっけ?」


「そうです」


「……言えなかったのは、聡子さんと対等になれている自信がもてなかったからなのかもしれません」


『好き』や『愛している』は他人に対しての言葉だとしても、自分に相手を受け入れられる自信があって、初めて口にできるものだった。


私は聡子さんの体は好きにするくせに、自分に自信がなくて愛情を受け取ることをずっと受け流してきた。


「そういうこと考えるのが雪菜だって分かってるけど、ワタシには無責任に言っていいよ」


「それ、聡子さんを喜ばせるだけじゃないですか」


「いいじゃない。雪菜はワタシをもっと甘やかしてくれてもいいと思うの」


冷たくした時の聡子さんの表情が可愛くて、つい素っ気なく言ってしまうことがあるのは自覚していた。


聡子さんは私の前ではいじらしくて、落ち込んだ後に甘やかすと最大限にデレてくれる。


「愛してます」


聡子さんの腰に腕を回して更に自分に引き寄せて、耳元で囁く。


「ワタシも愛してる」


聡子さんの最後の音を待たずに私は唇を奪った。


もう離れられない。いや、離れたくない。


そのために、これから藻掻いて、生きることを私は選択した。


私が頑張ることに変わりはない。


ただ、それを聡子さんの隣で成し遂げよう、そう決意はできていた。

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