第2話 桧山チーム飲み会

真依のいるプロジェクトチームで飲み会を企画しているから参加しないかと声が掛かって、2つ返事でわたしは了承した。


真依がいるのはまだ姉の葵と同じ客先で、今は2期開発中だった。以前に比べるとプロジェクト規模が縮小されたので、飲み会の参加者は9人。6人がけと4人がけの掘りごたつのテーブルに収まってしまうくらいだった。


「女子率高いな」


真依と真依が今面倒を見ている新人の楠元くすもとさん、後もう一人はBPさんだろう、それにわたしが加わって4人がけのテーブルは女子席になる。


桧山ひやまさんは入れてあげませんよ」


PMの桧山さんと真依はもう数年一緒に仕事をしているので、会話もフランクだった。


「楠元、怖かったらこっちに来いよ?」


「虐めませんよ、もうっ」


桧山さんは場のコントロールが上手くて、それだけで場が和む。真依が新人を虐めるなんてないとは思うけど、きっと楠元さんは緊張を解けただろう。


全体で飲み会開始の乾杯をした後、もう一人の女性に改めてわたしは自己紹介をする。


「営業の須加です」


「ASSの木崎です。お世話になっています」


何となくそうだと思っていたけど、よく休暇連絡がある木崎さんがわたしの前の女性だった。


わたしよりも年上で、子供もいるって言ってたし30代半ばくらいかな。でも、セミロングでまっすぐ伸びた髪に細身のその人はSEっぽくない。


イメージ的にピアノの先生とか、そんな感じ。


まあ、SEにも色んなタイプの人はいるから見た目じゃないことは知っている。


「お子さんがいらっしゃるんですよね?」


「はい。もうすぐ4歳になる女の子が一人います」


今日は出席しているということは、ダンナさんが見ているのだろうか。IT業界でも既婚女性が長く働くことは珍しくなくなっている。病気や学校行事とかは、夫婦でやりくりをしていることは知っていた。


「木崎さん、須加さんは基幹システムのPMやってる須加さんの妹なんです」


真依が会話に参加してきて、目の前の存在が目を見開いて驚きを示す。


まあ会社は違うし、見た目もわたしと姉は全然似ていないので、当然の反応だった。


「そうなんですね。姉妹でこの業界なんですね」


「たまたまです」


ビールを口に含みながら、肯きだけは返す。


「全然似てなくないですか!?」


目に見えて反応したのは新人の楠元さんの方だった。この子は本当に新人って感じで、さらに元気が取り柄みたいな子だった。真依苦労してそう。


「似てたらもっと美人になれたかもしれないんだけど、わたしは父親似で、あっちは母親似だからしょうがないかな」


背は姉の方が高いものの、見た目は姉の方が女性らしい。中身は真依にべたべたの手が掛かる人なんだけど、外面だけはいい。


「タイプが違うだけじゃない。柚羽だって魅力的だよ」


真依はそう言うけれど、真依が選んだのは姉のくせに、と軽く毒づく。別に本気でじゃないけど、自分の中での2人の関係を昇華するためのルーティーンみたいになっている。


「そういうのはいいです」


「須加さんと一瀬さんは仲いいんですね」


木崎さんに指摘されて、同期だと答えておく。


「一時期、柚羽……須加さんが彼氏の家から飛び出してきて、一緒に暮らしていたこともあるんです。だから特に仲良くなったですね」


それはうちの支店の全員が知っている話で、飲み会ではよく話題にされることがあった。


今更何とも思ってないけど、大抵この話を出すと彼氏としてこの行為は許せるか、許せないかで激論になる。


大抵男性としては別腹感覚で、女性は許せないになる。


今のわたしは、何であそこまで過剰反応したんだろう、とは思っているけど、あそこで飛び出していなかったら今の自分はない。


楠元さんは絶対許せない派で、真依は状況に寄りけりと回答を逃げた。


「木崎さんはどうですか?」


「それを不貞と取るか、ストレス発散と取るか、でしょうか」


「まあ、そうですね」


「具体的には聞いていませんけど、行ってることがあるのは気づきました」


清楚な顔で、それでもやっぱり既婚者なのだと、それでその話はお終いになった。





店の前で解散をして、偶然木崎さんと楠元さんとわたしが同じ方向で、一緒のホームに向かう。到着した車内は座れないにしても立つ余裕があって、3人で向かい合って電車に乗る。


「楠元さん大丈夫?」


若さ所以の危なっかしさが楠元さんにはあって、飲み過ぎじゃないかと声を掛ける。


「大丈夫です。酔っても家に帰れるので」


「そういうことじゃないんだけどな」


木崎さんにも笑われながら、わたしも前は自分の酒量なんか気にせずに飲んでいたことを思い出す。


「今の現場は女性が多いからいいけど、男性ばかりの現場だったらもっと気をつけなよ。そんなことする人いないとは思うけど、自衛するのも大事だから」


わかってます、とへらへら笑う楠元さんは、きっと明日には覚えてないだろう。


「面倒見いいんですね、須加さん」


「危なっかしいのが身近にいるので、こうなりました」


一瀬さんのことですか? と聞かれて笑って誤魔化しておく。


わたしが一番初めに降りることになって、お疲れさまですと電車を降りた。

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