休日 第1話 朝
睦生の一人娘であるひびきちゃんは、毎月第1週の週末に父親と面会をすることになっている。
以前は泊まりで行っていたけど、ひびきちゃんが夜に睦生を恋しがって泣いてからは、日帰りで行くようになった。
「ゆずはちゃんも行こうよ」
朝、平日と同じ時間に起きて、ひびきちゃんが出掛ける準備を手伝っていると、そう強請ってくる。
ただでさえ可愛い年頃な上に、睦生にそっくりで甘えてくれるひびきちゃんは、目に入れても痛くない可愛さだった。
「今日はパパに会いに行くんでしょう? ひびきちゃんのパパは、わたしのパパじゃないから一緒には行けないよ。わたしを連れて行ったらパパがびっくりしちゃうよ?」
「えーっ、ひびきがパパに言うから大丈夫」
そんな言葉をどこで覚えたんだろう。女の子の方が口達者だって言うけど、ひびきちゃんの成長にはいつも驚かされてばかりだった。
「じゃあひびきちゃんを置いて、パパと遊びに行っちゃうかもしれないよ?」
「それはだめっ」
首を振り子のように振る姿は可愛い。
出掛けるよと睦生に呼ばれて、ひびきちゃんは諦めて玄関に向かった。
「いってらっしゃい」
手を振って2人を見送ってから、布団の上に再び寝転がる。
1人だし、走りに行ってもいいんだけど、休みの日くらいゆっくりしたいと目を閉じる。
何だかんだで睦生の家には最近よく泊まっている。
仕事で疲れているんだから、無理しなくていいと睦生はいつも言ってくれる。
でも、疲れたと自分の家で一人で寝そべっているよりも、多少は何かをしないといけなくても癒しのある睦生の家の方をわたしは選んでしまう。
だって、睦生とひびきちゃんの顔を見るだけで疲れなんて吹き飛んでしまうのだ。
よく美人は3日で飽きるって言うけど、ただ見ているだけなら飽きるかもしれない。
でも、睦生が全開の笑顔で有り難うって言ってくれたり、ひびきちゃんが飛びついてきてくれるのは嬉しくて、飽きるどころか離れられそうにない。
2人でいちゃつける環境もいいけど、子供がいることで今の自分がどうであれ、その世界に強制的に引き込んでくれるのも仕事と家を切り分けられていい気がしている。
わたしがいるから育児を楽しめる余裕が持てるようになったと睦生は言ってくれていて、ちょっとは睦生の役に立てていることが嬉しい。
甘えてくれる睦生は可愛いし、と肌を重ねている時を思い出しながらだらだら布団で過ごしていると、ひびきちゃんを送り終えた睦生が帰ってくる。
「お帰り」
睦生は今住んでいる場所には、ひびきちゃんの父親に踏み込まれたくないと、いつもひびきちゃんを送って行くし迎えに行く。
ひびきちゃんが泊まりで父親の元に行っていた時は、夕方に保育園に直接迎えに来て貰っていたことはあったらしいけど、今の家は住所も教えていない徹底ぶりだった。
悪い人じゃないとは言ってるけど、本当にひびきちゃん絡み以外のことは関わりたくないらしい。
「まだ寝てたんだ」
わたしが寝転がっている隣まで睦生はやってきて、膝を落とす。
淡いベージュに近いピンク色のロングスカートは、睦生らしい選択だった。
「たまには寝坊もいいかなって」
「じゃあ、ゆっくりして。ひびきがいるとちっともゆっくり休めないでしょう?」
「そうだけど、折角の2人の時間なんだし、寝て過ごすはもったいない気がする。どこかに出掛ける?」
「ちょっと買い物に出掛けたいから、ランチに行って、その後買い物に寄るのはどう?」
「いいよ。でも、ランチだとまだ出掛けるには早いね」
まだ10時前で、流石にモーニングの時間帯だった。
「じゃあ昼前に起こすから柚羽はもう少し寝てて?」
「うーん、休みの日に2人なのに、1人で寝ろは薄情じゃない?」
そう言って体を伸ばして睦生を布団に引きずり込んだ。
だって、盛り上がっていた時を思い出していた矢先に、その本人が帰って来るんだから収まっているわけがない。
「柚羽っ……」
「布団ではしたくない?」
いつもひびきちゃんが寝ているので、実は布団ではしたことがなかったりする。
「まだ朝でしょう」
そっちに抵抗があったか、と照れる睦生の顔に余計にやる気になってしまう。
「睦生が可愛いから」
「出掛けたから汗掻いてるし……」
「そういうの気にしないよ?」
押せば折れてくれそうだと、起き上がって睦生の首筋に腕を回して引き寄せる。
腕に掛けた力のまま睦生はわたしに倒れて来て、その重みを受け止めながら布団に転がった。
「もうっ……」
「だって、今なら睦生を独占できるから」
「それはごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「いつも我慢させてるから」
「もうちょっといちゃいちゃしたい思いはあるけど、ひびきちゃんといるのも楽しいから、気にしなくていいよ。でも、睦生がこんな時くらいゆっくりしたいなら、やめるけど」
「そんなことない。柚羽と一緒に過ごしたい」
そんなことを言われて止まるわけがなかった。
睦生は誘ったら応じてくれるし、時々睦生からも誘ってくれる。女性同士に抵抗はないのかと聞いたこともあるけど、わたしだから気にならなかったと嬉しい言葉を貰っていた。
「じゃあしよう」
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