休日 第2話 2人の時間

お昼ご飯に行こうという話はいちゃいちゃしすぎて、結局計画倒れになった。


だって仕方がない。


睦生はいつもはひびきちゃんを気にして、声を押し殺している。それはそれでそそられるものがあるけど、今日は我慢しない声が聞けて、つい熱中してしまった。


睦生は2人だけの時は甘えてくれて、それが年上だと思えないほど可愛い。


「睦生、大好き」


「柚羽は本当に物好きなんだから」


まだ微睡んでいたくて、全裸のままの睦生の体に抱きつくと、しょうがないなぁとでも言うように溜息が返ってくる。


「自分の価値を分かっていないのは睦生の方じゃない? まあわたし以外を見なくていいけどね」


美人の睦生は今まで当然モテたはずだった。それなのに睦生はそういうことには鈍い。


親しくない存在に告白されても冗談にしか聞こえないからと言っていたけど、そのおかげで今の睦生に繋がっているのでよしとする。


「うん。柚羽がいいから」


わたしだけを特別だと言ってくれる返事にキスで応えた。


「そう言えば、睦生ってわたしが男だったら、つき合ってくれたの?」


「……柚羽が今の柚羽と変わらないままだったら、考えたとは思う。でも、男性と女性って考え方も違うし、それ以前に男性だったら意識的に近づかないように避けていたから、今と同じ状況にはならなかったんじゃないかな」


「そっかぁ」


睦生は自分の中に人を入り込ませないようにしようと離婚した時に決めている。わたしに対してだけはそれを緩めてくれていることは感じていた。


深く考えずに男でもなんて聞いちゃったけど、睦生にとっては簡単に答えられるわけがない質問だった。


「弱くてごめんなさい」


「気にしないで。ちょっと聞いてみただけだし、睦生の離婚原因からすると当然だよね」


「男性が全員が全員別れたダンナみたいな考え方じゃないのは分かってるんだけど、

前向きに考えるよりはひびきと2人で生きることを選んだ方が楽だったから」


睦生は手を抜くということが得意じゃない。何でもちゃんとやろうとするあまり、夫婦で上手くコミュニケーションが取れなくなったのだと想像はついた。


「わたしが入りこんでも良かった?」


「男性だとか女性だとか考えるよりも先に、柚羽には傍に居て欲しいって思ったから。できないことを柚羽には弱音を吐ける気がした、かな」


「睦生が可愛くて、どこまででもエロくなれそう」


「もう……」


「しつこい?」


「柚羽はワタシがいいって思えるタイミングでしか誘ってこないでしょ?」


「流石に子供に見せるものじゃないから、そのくらいの分別はつくよ」


泊まった日は、ひびきちゃんと一緒に寝落ちしないように必死に堪えて、2人になった時に機会を伺っている。それでも睦生が何か言いたいそうなことがある時はそれを優先してるし、キスだけして寝る時もある。


もっと触れたい思いはあるけど、睦生に負担を掛けてまではしたくないので、今日の睦生はどうだろうってそんなことばかりを考えている。


「柚羽が気遣ってくれるから、ノーだって言えないの」


「じゃあ睦生的には誘いはもっと多くてもいいのか、少ない方がいいのかどっち?」


「……日によってしたい時と、疲れててしたくない時があるからどっちだって言えないけど、そんなに我慢させてる?」


「そこまでじゃないけど、泊まった時は睦生に触れたい。ぎゅってするだけでもいいから」


「ひびきが寝てからでいいなら」


「うん。でも、睦生が嫌な日は言って。無理に合わせる必要ないから」


「甘えてくれる柚羽は可愛いから嫌だって言えないかも」


「可愛い? わたしが?」


「そういうの柚羽は全然分かってないよね」


「わたしは美人でもないし、愛嬌もないし、可愛げなんかないよ?」


「そう言うところが可愛い」


睦生に押し切られるまま唇が重なって、それを受け入れる。


「ひびきがいなかったら、際限なく柚羽に甘えていた気がする」


その言葉は嬉しかったけど、子供がいなければどんな状態かは容易に想像がついた。


「ひびきちゃんがいなかったら、睦生の争奪戦にわたしは勝てた気がしません」


「どうして?」


「だって、わざわざ同性のわたしを選ぶ理由ないでしょう?」


「子供が欲しいって思いがあるなら、確かに男性となのかもしれないけど、柚羽以上に好きな人をワタシは見つけられない気がしてる。だから、どんな状態であっても柚羽に出会って付き合いたいなって思うよ」


「もう……何でそんなこと言うの」


嬉しすぎて目の端から涙が溢れた。


「ワタシは柚羽と出会えて良かったって思ってるから。男性だとか女性だとかに拘るよりも、人として自分が心を許せる相手、一緒にいたいって思う相手が柚羽なんだって気づいたから」


「そんなのわたしも同じだから」


「うん。ワタシの方が迷惑を掛けることが多いけど、ずっと傍にいてね」


「大丈夫。睦生が嫌がってもくっついて行くから」


もう手放さない。いや、手放せないことは分かっていた。




「えと……まだひびきちゃんのお迎えの時間大丈夫だよね?」


何を意味しているのかを睦生も察してくれて、笑いながら頷きを返してくれた。




end


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次は番外編として、西下&矢柳編に入ります。

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