第24話 ゴブリンの駆除
グレースフォート郊外。
入り組んだ森の中、大勢の冒険者が息を潜めて合図を待っていた。
前方には、ごく粗末な空堀で覆われたゴブリンの集落があった。
魔物は自然発生するのが普通だが、中には生物と同じように繁殖する種族もいる。ゴブリンもその一つだ。
こうした”巣”を放置しておけば、いずれ数が膨れ上がって人間の街を襲う。規模が小さいうちに滅ぼさなければいけない。
「撃て!」
指揮官の合図を皮切りに、魔法と弓矢が降り注ぐ。
同時に、前衛の冒険者たちが雄叫びをあげて突撃を開始する。
「おい、お前! 俺たちの金を奪った分の仕事はしろよ!」
「当然だろ!」
ケイドは先頭に立ち、巣の周囲を囲う空堀へと飛び込んだ。
浮足立ったゴブリンを斬って斬って斬りまくる。
数こそ多いが、所詮はゴブリンだ。四色バフも必要ない。
(にしても、思った以上の規模だな……!)
空堀の中に、見える範囲でゴブリンが数十匹。
頭上を飛んでいく矢と魔法に、投石による反撃が混ざっている。
巣の中にもかなりの数がいるようだ。まるで戦場だった。
「……戦いにくいな、ここは!」
狭い空堀に敵も味方も密集していて、剣を振るのも難しい。
浮足立っていたゴブリンが統制を取り戻し、槍衾のような戦列を作る。
こうなっては一人で斬り込むのは無謀だった。
「お前ら、ここは任せるぞ!」
「任せるって、どこに行く気だよ!?」
「上だ!」
「おい!? お前、空堀の外は射撃戦の真っ最中だぞ!?」
空堀を登り、ケイドは巣の中に一人で侵入する。
前後左右を投射物が飛び交っていた。その全てを回避しながら、彼は突撃する。
三匹。五匹。十匹。二十匹。異常な速度で戦果が積み上がっていく。
射撃の手を止めて見入ってしまう味方が現れるほどの大立ち回りであった。
(敵の射線はあそことあそこ、味方はあっち! 死角はそこだ!)
周囲の弾を見てから避けているわけではない。もっと根本的な技術だ。
……FPSゲームの基本概念に、射線管理、というものがある。
敵と味方が何処から何処を狙っているのか。
どこまで撃てて、どこまで撃てないのか。その状況を把握して活用する技術だ。
それは基本であり、奥義でもある。西田ケイが繰り返し叩き込んだ基礎技術は、前世から数えて十二年のブランクがある現在も失われていない。
「だあっ!」
射線を避けながら迂回して裏を取り、ゴブリンの大集団へ斬り込み全滅させる。
ケイドの活躍もあり、あっという間にゴブリンの巣の掃討は完了した。
(ふう。四色ビルドに頼らない素の実力も中々なんじゃないか、俺?)
返り血を拭い、冒険者ギルド職員のところへと戻る。
ちょうど戦果に応じて報酬を分配しているところだった。
「あいつって……」
「昨日の……まぐれ勝ちじゃなかったんだな、あれ……」
報酬待ちの列に並んでいた冒険者たちが自然と左右に別れ、彼の道を開けた。
「おう、俺が見込んだ通りの暴れっぷりだったな、ケイド。聞いて驚け、報酬は銀貨の十五枚だ……っても、昨日の稼ぎほどじゃねえか」
昨日ケイドの賭け事で稼いでいたギルド職員が、報酬の入った袋を投げた。
それなりに重いが、確かに昨日よりは少ない。
大活躍しても所詮はゴブリンの巣の掃討だ。
「ついでに、俺の権限でEランクに昇格な。ほれ、ギルドカード」
新しいカードを渡された。白ベースだった色が銅っぽい光沢色に変わっている。
裏面の細かく区切られた欄に、”Eランク昇格 996/11/03 ドウラス”と書かれていた。”996年の11月3日に、ドウラスが昇格させた”というわけだ。
「ああ、ランクが上がるとギルドカードも変わるんだっけ」
「おう。細かいとこの質が上がるぜ。そのカードの中には魔法で情報が刻まれてんだが、銅級……Eランクからは情報が暗号化されるようになったりとかな」
原作ゲームでもあった仕様だ。そのへんのNPCを倒すとギルドカードがドロップして、ちょっとした個人情報を知ることが可能だった。
「期待してるぜ。お前なら間違いなく大物になれる。冒険者なんかなる奴はたいがい不真面目なんだが、お前はちゃんと訓練してるだろ? 鍛錬は裏切らねえ」
「だといいんだけど」
「間違いねえよ。もし何か困ったことがあったら、いつでも相談してくれ……あと、次に賭け試合をやる時も教えてくれよな! はっはっは!」
「もう一回やったら、全員俺に賭けるだけだと思うけどな」
「違いねえや。じゃ、いっそギルド辞めてお前のプロモーターになってやろうか? 最近は強え奴の試合を組む興行が流行ってるらしいんだよ。試合を組んで見物料を取ればけっこう儲かるし、遠くの街ならお前も知られてねえしな。二人で旅して稼ごうぜ、なあ!」
「いや。俺にはもう、一緒に旅をする相手がいるからさ」
彼の視線が、小走りで寄ってくるアイリスに向かう。
「ケイド! ここにいたんですか! もう、次は無茶しないでくださいって言ったのに! 心配したんですからね!」
「大丈夫だって、無茶はしてないから」
二人の様子を見て、不良職員のドウラスは「ま、それならしゃあねえな」と引き下がった。
「してたでしょう! このままじゃ、私より先に死んじゃいますよ!?」
「いやあ、本当に無茶はしてないんだけど……ん?」
ケイドはアイリスの怒り顔を見つめた。
「私より先に?」
「あ……」
アイリスが口元を抑える。
「まさか、アイリス……そこまで病気が悪いのか?」
「……こんなところで話すことじゃありませんし」
重苦しい空気に包まれた二人は、ひっそりと森を出てウェーリアへ向かった。
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