第三章2学期編 エピソード5

大罪日本支部

「昨日色欲のアジトが襲撃を受けた。嬢と駒を増やすのに貢献した2人の高校生が拉致られ、損害を受けている」

「ざまぁねぇな。2人手練れ送ったのによ」

「……!」

「落ち着け。今は争っている場合ではない。朗報もある。女の居場所が分かった。豪邸に住む資産家に保護されているそうだ」

「資産家が保護だと?ソイツは理由がどうであれ、じゃねぇな」

「その通りだ。その豪邸も住人も実態が不明だ。しかも資産家と襲撃した犯人が同一人物だと判明している。ただ者ではないだろう」

「それで、どうするのですか?」

「今日ロシア支部より戦闘部隊がこちらに送られた。この部隊を利用し、女を取り返す事に決定した」

「戦闘部隊と言うが、傭兵ではないか」

「信頼できる奴らだ。かなり荒い連中だが、リーダーには従う。元ロシア軍人で構成された部隊だ、不気味な資産家でも敵わないだろう」

「なら、さっさと差し向けろよ」

「そう言わずとも既に部隊を送った。ただ、横槍を入れるなと釘を刺された。我々は結末を見届けるが、女は必ず捕らえる。強欲、お前の兵隊を準備させておけ」

「分かりましたよ、大罪の総括さんよ」


セバスチャンがいる屋敷へ向かって走り出す黒のSUVが2台とバンが2台。

SUVの上部にはシートが被せられていて、膨らみから何かが搭載されていると分かる。

中に乗っているのはロシア軍装備の男達。

顔はスペツナツヘルメットや目出し帽で隠され、素顔は不明。

頭部はヘルメットで守られ、上半身はボディーアーマーで守られている。

武器はかなり攻撃寄りで、金属レール装着のAK-74、AKS-74Uアサルトライフル、高火力のPKPぺチェネグ汎用機関銃、SVUブルパップ式ライフル。

車の荷台にはRPGや手榴弾、爆薬などが大量に積まれている。

男達は任務地に向かう間、リラックスしたり雑談して緊張や不安を消していく。

2番目のSUVに彼らを率いるリーダーがいた。

金髪の若いロシア人女性で、唯一旧式の突撃銃AK-47を手にしている。

75連ドラムマガジンが装填され、遠近両用のスタイルに合わせられる折り畳みストックが装着されている。

男達は野戦迷彩の戦闘服の上に装備を身に付けているのに対して、彼女は野戦迷彩の上着を羽織り、白のタンクトップの上に装備ベストを装備している。

腰のホルスターにはPM45拳銃。

「…………」

ムスッっとした顔で東京の夜の景色を眺めている。

すると、助手席にいた男が女性に話し掛けた。

「隊長、間もなく到着します」

「そう。着いたら作戦通りに」

端的に返事して再び外に目を向けていると、もう1人の男が女性に質問した。

「例の奴らを気にしているんですか?」

「……まあね。今回、仕事を引き受けたのもアフガンでの任務が継続されてるから。連中が介入するかもしれないから気を付けてね」

1人の女性が率いるロシアの傭兵部隊はかつてジョーカー達を強襲した実行部隊だった。

そして今、ブラックオプスに所属する幹部を殺しに向かっている……。


10分後に屋敷の前に停車し、女性は大罪日本支部に連絡する。

「こちらアルファ。現地に到着。警備員2名が様子を伺っている」

女性は屋敷の門にいる警備員に目を向けながら交信する。

『女以外は殺せ。全てを破壊するのだ』

「了解した。制圧後にまた連絡する」

女性は連絡を終えると、別動隊に無線を入れる。

「今から屋敷を制圧する。を用意して」

『了解だ。5分でそちらに向かう』

女性は連絡を終えると、全隊員に無線で告げた。

「さぁ、皆。お仕事の時間よ」

『ダー!』

車から傭兵部隊が下車し、先頭にいた隊員は警備員に向けてAK-74を発砲した。


セバスチャンは自宅でジョーカーと連絡を取っていた。

斗真とリヴの情報から、次にどう動くか考えている。

『敵はロシアから戦闘部隊を送った。暴れまくるだろう』

「そうですね。しかも私は組織の支援を受けられない。彼女を匿っているので」

『美代子に重要な価値が?』

セバスチャンとジョーカーはまだ分からない美代子の価値について焦点を当てていた。

敵が知って自分達が知らない価値。

そんな時、セバスチャンの固定電話から警備員の無線が入る。

『セバスさん。来客の予定があったんですか?車が来ました』

セバスチャンはすぐに事態を把握し、警備員に警告した。

「すぐに逃げて下さい」

『え?……ごはっ!』

しかしもう手遅れで数秒後に警備員の悲鳴がセバスチャンの耳に入った。

セバスチャンは固定電話で家にいる全員に通達した。

「戦闘配置について下さい。訓練ではありません。保護対象者をセーフルームに避難させて下さい。他は敵を食い止めて下さい」

セバスチャンの指示を受けたメイド、ボディーガードは武器庫から銃を取り、防衛戦に動く。

1人のメイドが美代子の側につき、部屋で待機する。

すると、警備員の無線から女の声が流れた。

『こんな豪華な家をメチャクチャにするのは気が引けるわね』

「雇われたロシアの部隊ですね」

女はクスクスと笑い、わざわざ身元をセバスチャンに教えた。

『その通り。私はアミリア・カラシニコフ。ロシアから追い出された兵士を率い、そして金の為に何でもする』

「……元スペツナツのエリート。数々の勲章を得たあなたが傭兵になっているとは」

『私を知っているとは、流石ブラックオプスの幹部。情報通なのは良いことよ。じゃ、さっさと少女を渡してくれない?』

「断ります。私が身の安全を保証すると言いましたので」

『残念、じゃあなたが築いたモノを全て壊す。武力で叩き潰すわ。Возьмите под свой контроль особняк. Убить всех, кроме девушки. Я сделаю работу за контрактные деньги.(屋敷を制圧しろ。少女以外は皆殺しにして。契約金分の仕事をするわよ)』

アミリアが部下に指示を出した後、傭兵達が敷地内に踏み込む。

機関銃付きの車も侵入し、銃座にいる傭兵がPKM汎用機関銃を建物に向けて射撃する。

セバスチャンはすぐに姿勢を低くして、外からの銃撃を避ける。

クローゼットの装備を取り、急いで着替える。

『セバス様!敵が敷地内から攻めて来てます!数が多すぎます!』

『手榴弾だ!下がれ!』

『田宮!援護しろ!』

無線機からメイド、ボディーガードの苦戦している内容の報告が入る。

スマホで敷地内の監視カメラにアクセスして、敵の動きを調べる。

20~30人の軍隊並みに武装した傭兵達が横一列で侵攻し、機関銃や手榴弾で味方を圧倒している。

1人の傭兵がRPGを構えると、玄関に向けて発射。

爆発と共に建物全体が揺れて、玄関で防衛していたメイド達は吹き飛ばされた。

『まずいです!敵が屋敷に侵入!防衛線が突破されました!』

「室内戦に切り替え、防衛装置を作動させて下さい」

着替え終えたセバスチャンは部下に指示すると、タンスの中に隠していたM4カービンライフルを手に取る。

『おいおい、何があったんだよ。何か聞こえるぞ、銃声か?』

スマホからジョーカーの心配そうな声が聞こえると、セバスチャンはこう言った。

「問題ありません。しばらく待機して下さい」

電話を切り、ライフルの安全装置を外して自室から出た。


屋敷の玄関から侵入した傭兵達は銃を構えながらクリアリングし、後からアミリアが入る。

監視カメラで動きを読まれている以上、奇襲はもう通用しない。

部隊を2つに分け、アミリアは半分の仲間を連れて一階、残りの傭兵達は二階の制圧に動いた。

二階に移動した傭兵達が廊下の扉を開けると、防御用の防弾板からメイド達がMP7で発砲してきた。

傭兵達は少し下がり、1人が手榴弾を投げ込む。

手榴弾の爆発で、メイド2人の体がはみ出し、傭兵達はそこを狙って射撃。

次々とメイド達は倒され、傭兵達に攻められた。

数々の部屋に突入し、待ち伏せているメイドやボディーガード達を圧倒的な火力で潰す。

突入時に機関銃を用いて大量の弾丸をばら撒いて牽制し、残りの傭兵が隙を突いて排除していく。

前衛、中央のアミリア、後衛という陣形で一階を進む傭兵達。

屋敷の使用人の射撃能力や対応の早さは凄まじいが、所詮は素人に銃を持たせた程度。

元軍人のアミリア達には勝てなかった。

メイドの1人が催涙入りのガス弾を放つ。

傭兵達はすぐにガスマスクを装着し、メイドに向けて発砲。

他にもボディーガードが援護していたが、レベル2のボディーアーマーの体に何発も弾を撃ち込まれて倒れた。

メイドも腹を撃たれて倒れ、出血した。

傭兵達が接近し、死んだボディーガードの額に弾を撃ち込んだ。

万が一死んだふりをされて、反撃されないようにする為だ。

メイドの目の前にアミリアが現れ、PM45をメイドに向けた。

「悪いわね、これが私達の仕事よ」

メイドを射殺し、ハンドサインで仲間を動かす。

「найти женщину(女を探せ)」

全員にそう告げて、建物の制圧を再開する。


「ここに隠れて」

メイドに言われて美代子はクローゼットの中に隠れた。

部屋の外から銃声が聞こえ、時間が経つにつれてどんどん大きくなっていた。

何が起きているのか分からず、美代子は困惑している。

武装したメイドが来なければ気が狂っていただろう。

そんなメイドに真剣な表情で隠れるよう言われた。

M870ショットガンでベッドからずっと構えている。

その内耳に響く程鳴り続けていた銃声が止んだ。

美代子もメイドも最悪の予想を考える。

もう守っていたメイド達は全滅したと。

それを裏付けるかのように足音が聞こえた。

メイドは体を隠し、ショットガンの薬室の散弾を確認する。

ドアには鍵が掛けられていたが、すぐに銃弾で壊される。

美代子はクローゼットの扉の隙間から様子を伺う。

扉が蹴破られ、傭兵2人が部屋に入ってくる。

「правильно ясно.(右クリア)」

「правильно ясно.(左クリア)」

AK-74を装備した傭兵2人は浴室やトイレを調べ、メイドがいる寝室に来た。

メイドは意を決してベッドからM870を構え、傭兵を撃った。

散弾が命中した傭兵は壁に激突して、床に倒れ込んだ。

『Менников! Эта сука!(メニコフ!このメス犬が!)』

もう1人の傭兵がメイドに向けて射撃する。

すぐにメイドは隠れてポンプを引き、次弾を装填する。

傭兵は数発ずつ撃ちながらメイドに近寄る。

傭兵がベッドの横に回り込み、銃を向けたがそこには誰もいない。

ベッドに転がったメイドに気づいたが、撃つ前に顔に散弾を浴びせられた。

2人の傭兵を倒したメイドだったが、部屋の外から銃撃される。

傭兵が手榴弾を部屋に投げ込み、メイドはベッドで爆発から身を守った。

外にいる傭兵に向けてショットガンを連射するが、傭兵の銃弾が首元に命中し、メイドは首を手で押さえて床に倒れた。

脅威を倒した傭兵の内の3人が部屋に入った。

「Ты серьезно. Менников и Милюколи убиты.(マジかよ。メニコフとミリュコリが殺られてるぞ)」

「Это пример группы? Не недооценивайте меня. И до сих пор жив.(これが例の連中か。侮れないな。しかもまだ生きてる)」

1人の傭兵が拳銃をメイドに向けた。

「Четверо товарищей погибли, протирая второй этаж. Позвольте мне очистить мое сожаление этим.(2階を掃討するのに4人の仲間が死んだ。コイツで無念を晴らさせてもらう)」

傭兵はメイドに4発の弾丸を撃ち込んだ。

それを見ていた美代子は声を出しそうになるが、手で口を塞いで叫びたい気持ちを押し殺す。

『Команда С. Вы нашли свою цель?(Cチーム。ターゲットは見つかったか?)』

「нет. Я собираюсь искать это.(いや。これから探すところだ)」

『Контроль первого этажа почти закончен. Найдите это сейчас. Отключить.(一階の制圧はほぼ終わった。すぐに探し出せ。通信を切る)』

傭兵3人は雑談しながら部屋の探索に移った。

美代子は恐怖で音を出しそうになるも、何とか落ち着かせて傭兵の動きを見た。

1人の傭兵が2人の傭兵が探しているのに、メイドの死体を探っていた。

「Привет. Не пропускайте это. Что делаешь?(おい。お前だけサボるなよ。何してる?)」

「Я просто ищу информацию, которая ведет к врагу.(敵に繋がる情報がないか探してるだけだ)」

「Твои руки извращены. Вам нравится быть мертвым?(手つきが変態だぞ。死んでるのに楽しむのか?)」

2人の傭兵が呆れていると、メイドを触っていた傭兵がメイドの腰のホルスターにあったリボルバーを取った。

「Круто. Это Кольт Пайтон, и он серебристый.(スゲェ。コルトパイソンだ、しかもシルバーだぞ)」

「У тебя уже есть пистолет. Собираетесь ли вы его захватить, хотя количество загрузок невелико?(拳銃ならもうあるだろ。装填数が少ないリボルバーなのに、鹵獲するのか)」

「Сделайте это коллекцией. Если вам нравится оружие убитого вами парня, украсьте им свою комнату. Что ж, неплохо попробовать и пострелять позже.(コレクションにするのさ。殺した奴の武器で気に入ったのがあったら部屋に飾る。ま、後から試し撃ちするのも悪くないな)」

傭兵がコルトパイソンをベルトに挟む。

その後もメイドの体を触っていた。

美代子は傭兵の異常性に唖然としている。

体を動かした時、扉に肘が当たって音を出してしまった。

「……ぁ」

「что это за звук Приходите посмотреть.(何の音だ?見てくる)」

探していた傭兵がクローゼットに向かい、扉を開ける。

そこでうずくまる美代子を発見した。

「Ха. Кредит принадлежит мне.(ハッ。手柄は俺のモンだ)」

目出し帽から見える傭兵の表情は美代子にとって、悪魔そのものだった。

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