第二章夏休み編2 エピソード3
アフリカ、ソマリアの戦場。
干からびた大地で現地の民兵とテロ組織の戦闘員が銃撃戦を繰り広げていた。
軍隊のように戦車や装甲車、戦闘ヘリなどの兵器はない。
人と人との戦闘で、銃で相手と戦っている。
ロクな戦闘教育を受けていない2つの勢力は相手に弾を当てるのが一苦労だった。
そんな中、民兵組織側の少年兵2人が猛威を振るっていた。
まだ10歳の少年だが、民兵よりも高い精度でAKS-74Uアサルトライフルを撃っている。
次々とテロリストを片付け、民兵組織に貢献する。
相手がテクニカル車両を投入しても、遠距離からセミオートで射手を倒して無力化。
白兵戦を仕掛けても、ナイフの素早い斬撃で斬られる。
2人の少年兵に数を減らされたテロリストは敗走し、尻尾を巻いて逃げ出した。
勝利した民兵達は喝采し、勝利を喜ぶ。
2人の少年兵は民兵達から離れ、2人でお互いに生存した事を喜んだ。
2人の少年兵の名前はジョーカーとキング。
日本人とアメリカ人の活発な少年だ。
2017年。
ソマリアでは複数の武装組織が存在しており、事件が絶えない場所だ。
特に海賊の船の襲撃が多く、近年海賊の重武装化が問題となっている。
2人が所属しているソマリア民兵組織は自称国軍として、各地の治安維持を目的としている。
しかし、民兵の素行は最悪で、民間人への犯罪を行っている。
武器商人から武器を得て、独学で訓練を続けている。
ほとんどの民兵が悪人で、特に組織の上層部は私腹を肥やしている。
そんな最悪な組織にいるジョーカーとキングは普段は戦災孤児を育てている。
組織から連れ去られた子どもが民兵組織の駐屯地で暮らしており、2人は最年長という事で面倒を見ている。
実態は子どもを利用した地雷処理や憂さ晴らし、その他刑罰待ったなしの目的に使おうとしていた。
しかしジョーカーとキングが実力で組織に子ども達の安全を保障させ、子ども達は比較的安定した生活を送っている。
今回も2人で20人前後の子どもの面倒を見ていると、部屋の隅で本を読んでいる少女をジョーカーが見かけた。
「よ、調子はどうだ?アリス」
子ども達は基本外部から来るが、アリスは名前がない日系人だ。名前は絵本から取った。
聞けば幾つもの犯罪組織を連れて来られて、ここに来たらしい。
人間の闇を見てきた彼女はあまり心を開かない。
それでも子どもとは軽く話せるようになった。
ジョーカーは親切に話しかけると、アリスは軽く頷く。
「そうか。だけど、笑顔でいてくれると嬉しい」
そう言うが彼女の表情は真顔だった。
子どもなりにアリスに苦労していた。
そんな時、駐屯地にロシア製のヘリが着陸した。
「何だ?奴らの客か」
ジョーカーとキングが部屋からヘリの様子を伺う。
慌てて民兵の上官がヘリに向かい、敬礼していた。
その様子からヘリにいる相手がただ者ではないと悟る。
ヘリのドアが開き、野戦服の兵士6人が降りた後に1人の男が降りた。
茶髪の老紳士みたいな顔のロシア人。立派なスーツを着ている事から重役だと推測する。
上官がヘコヘコしてロシア人に挨拶し、そのまま駐屯地の建物へと向かって行った。
「嫌な予感がするぜ。ああいう奴らはロクでもないのが相場で決まってる」
「ああ。ちょっと盗み聞きしてくる」
ジョーカーは部屋から出て、忍び足でロシア人を探す。
数分後に上官の部屋から話し声が聞こえてきた。
聞き耳を立てて、話を聞く事にする。
『わざわざこんな辺境の地に来た事に感謝します』
『それで、"例の子供達"は順調か?』
『はい、全員手頃な体となっています』
ジョーカーは手頃な体という単語に首を傾げた。
上官の次の言葉で最悪な意味を理解する事となる。
『男はあなた方の戦闘員に、女は男の性奴隷にできます。なので、その報酬をお願いします』
ジョーカー達をロシア人に売り渡すつもりだったのだ。
その為にわざわざ生かしていた。
ジョーカーは気持ち悪さを抑え込み、盗み聞きを続ける。
『いいだろう。後で渡そう。今は休ませてくれ。わざわざモスクワから来たんだ、疲れてる』
『分かりました。ご案内します』
このタイミングでジョーカーは子ども達がいる部屋に戻っていた。
ジョーカーは葛藤しながら部屋に戻り、キングを呼んで2人だけで話し合った。
「本当か!」
「ああ。あのロシア人は俺達を買いに来たんだ。民兵はその為に俺達を生かしていた」
「マジかよ……クソ」
キングが湧き出る怒りを壁にぶつけた。
「どうする?」
「前から計画していた作戦を実行すべきだ」
「まだ準備が整っていないだろ……」
「タイミング、か。それは俺に任せろ。調整する」
「どうやって?」
ジョーカーはわざとキングの耳に小声で伝える。
それを聞いたキングは驚愕した。
「イケるのか?」
「ま、半分賭けだが、価値はある。早ければ明日だ。それまで子ども達を説得しないとな」
ジョーカーは遊んでいる子ども達に目を向ける。
キングはジョーカーの肩に手を置いて、ジョーカーの不安を取り除くのだった。
次の日、ロシア人がジョーカー達の部屋に入ってきた。
一人一人品定めするように見回り、ロシア語で評価を伝え合う。
ほとんどの子ども達はロシア語が分からないが、語学の才能があるジョーカーは男達が話すロシア語を理解していた。
「(使える……悪くない……我が機関で育てる……人材不足が解決される……か)」
男達の会話の内容から、正体がFSBである事を突き止めた。
警戒するフリをしているジョーカーは男達の武装を確かめ、確信に変わった。ロシア軍の武器だったからだ。
ロシア人が最後にジョーカーを見た後に部屋を出た。
何もされずに済んだ子ども達は安心する。
しかし、ジョーカーとキングは不安が消えない。
「おい、予想だとあとどれくらいだ?」
「もうすぐだ。正確に教えたからな」
2人が体内時計で時間が早く来ないかと焦る。
成功しなければFSBに利用される。
それだけは避けたいので合図が来るのを待ち続ける。
そして、その合図は出た。
駐屯地の入り口が何者かに空爆された。
警戒態勢になり、民兵が慌てて動き出す。
「来た!」
「皆、秘密のトンネルに隠れてるんだ」
数年前から隠れて掘った地下のトンネルにジョーカーとキング以外の子ども達を移動させる。
「お兄ちゃん、何が起きてるの?」
「お兄ちゃん達も来てよ」
2人は子ども達を安心させる為に笑顔で励ます。
「ごめんな。お兄ちゃん達はやるべき事がある。必ず帰ってくるから安心しろ。ラビット、子ども達を頼んだ」
トンネルをタンスで隠し、キングは壁の中に隠していたAKS-74Uを出す。
一丁をジョーカーに渡し、2人で装填レバーを引く。
「行くか」
「ああ」
2人で顔を合わせ、部屋を飛び出すと見張りの民兵に遭遇する。
「な、貴様ら!」
民兵が慌ててAKを構える前に、ジョーカーとキングが発砲して民兵を倒した。
銃声を聞きつけ、他の民兵が殺到する。
その前に窓を破って外に出て、それぞれ別の場所へ動いた。
「大変だ!ガキ共が暴れてる!見つけたら殺せ!」
民兵が意気揚々と外に逃げた2人を探す。
しかし実戦経験が豊富で、戦闘の才能がある2人は物陰に身を隠し、一時的に民兵達から姿を消した。
民兵が手分けしてジョーカーとキングを捜索していると、1発の銃声と共に民兵が倒れた。
続けて2発の銃声が鳴り、2人の民兵が倒れた。
仲間が殺られ、怯える民兵達。
物音がして反射的にAKを撃つも、味方の足を撃ってしまった。
慌てて謝罪するも、足元にグレネードが転がり、2人は爆発で吹き飛んだ。
「止めろ!同士討ちになる!」
1人の民兵が注意するも、背後からジョーカーに刺され、手で口を押さえられて声を出せずに絶命。
それを見た民兵が発砲したが、5発撃った時に側頭部を撃ち抜かれた。
キングがジョーカーの元に現れる。
「やったな」
「お前もよくやった。次はあのロシア人共だ」
2人は自分達を利用しようとしたロシア人達を倒しに向かった。
ロシア人達はまだ駐屯地の建物にいて、警戒して部屋に立て籠っていた。
見張りの兵士が廊下を巡回しているのを廊下の角から発見する。
ここの民兵とは違い、余裕があるように見える。
「2人か。あのロシア人は手練れだな」
「どうする?正面からだと厳しいぞ」
「…………」
ジョーカーが考えていると、小型のリヤカーに目を付けた。
そのリヤカーは足にタイヤがあって、スイスイ動く。
「面白そうだ。キング、俺の後からついて来い!」
そう言ってリヤカーに手を付け、足を蹴って前に走った。
予想通り兵士がジョーカーに気づき、AK-12を撃つ。
ジョーカーはリヤカーに体を隠して数発凌ぎ、AKS-74Uで反撃。
兵士が倒されると、もう1人の兵士が参加し、AK-12を発砲する。
ジョーカーはリヤカーを突っ込ませ、途中で飛び降りる。
兵士は突っ込むリヤカーを避ける為に横に動いた。
ジョーカーはそれを狙い、AKSを撃ちまくって兵士の胴体に何発も当てて排除した。
キングは口笛を吹いてジョーカーを賞賛し、兵士が守っていた扉の前に立つ。
ただ入っても殺されるのは目に見えているので、兵士の手榴弾を奪い、部屋の中に投げ込んだ。
部屋の中で騒ぎ声がした数秒後に爆発し、その影響でドアが吹き飛んだ。
部屋の中に入り、死に損ないの兵士にトドメを刺した。
あの老人のロシア人は部屋の隅で体を低くしていた。
そのおかげで爆発に巻き込まれなかったのだ。
ジョーカーとキングはロシア人の老人にAKS-74Uを向ける。
「待て!撃つな!話し合おう!」
「どの口が言うんだ?」
キングがストックで老人を殴り付け、無理矢理立たせる。
「俺達をお前達の駒にするって?反吐が出るぜこのクソ野郎」
「死んで地獄で反省しな」
「頼む……殺さないでくれ……」
ロシア人の老人がすすり泣く。
あんなに強気だったのに今では泣いているのに2人は困惑する。
老人は泣きながら体を丸くし、懐のワルサーPPKに手を伸ばす。
泣き声が笑い声に変わり、素早く拳銃を向けようとした。
キングは反応できなかったが、ジョーカーはライフルを撃ち、老人を倒した。
「考えが丸出しだ。卑しい男だった」
ジョーカーは銃を下げて、撃たれて死んだ老人にそう吐き捨てた。
「これで終わりだよな」
「とりあえずな。ここの指揮官はひとまず放置だ。子ども達の所に戻ろう」
やる事を終えた2人は部屋を出る。
その時、待ち伏せていた民兵に殴られ、ジョーカーとキングは床に倒された。
そのまま引きずられ、AKの銃口を突き付けられる。
「ガキ共!よくもやりやがったな!死ね!」
民兵が怒りで2人を撃とうとした時、胴体に数発弾を撃ち込まれて倒れた。
その後、廊下の奥から米軍装備の男達が接近してくる。
ジョーカーは彼らの装備からネイビーシールズだと気づく。
「まさか情報提供者が少年とはな」
隊員の1人が呟くと、他の隊員が2人を立たせた。
「電話を聞いた。もう大丈夫だ」
「……遅かったな、シールズ」
ジョーカーが話したシールズ隊員は当時部隊を率いていた男、大尉だった。
こうしてジョーカー達はアメリカ軍の特殊部隊によって助けられる事となった。
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