第二章夏休み編2 エピソード4
そして、現在。
『そういう過去があったのか』
イーグルアイに自分の過去の一部を教えた後、深呼吸してリラックスする。
俺は元少年兵、読み書きよりも殺しを教えられた兵士だ。
親の顔は覚えていない、だけど知ろうとは思わない。
生き残る為に強くなった。誰よりも努力した。
俺が民兵より強くなった頃には、他の少年兵はキングだけになっていた。
いつの日か心が壊れて、苦しんだ時もあったが、支えになったのは誘拐されて、連れて来られた子ども達だ。
唯一の救いは子ども達が俺を人間として扱ってくれた事だ。
そのおかげで殺戮マシーンにはならなかった。
「大尉に保護されてからは施設で育ったが、数年後に大尉のスカウトを受けてブラックオプスに入った。ラビットも志願して入ったな」
『キングは?』
「……施設から姿を消したよ。いつの間にか抜け出してた。探したが、見つからなかった」
スカウトが来た時にはもうキングの姿はなかった。
その時はかなりショックだった。親友が理由が分からずに行方不明になったのだからな。
『お前の話から考えると、苗未はお前が守っていた孤児の1人だな?』
「……多分、アリスだ」
6年前、俺が特に気にしていた本が好きな少女。
過去の話をしてから、段々苗未がアリスに似てきた。
アリスは施設で俺と過ごしたが、ある時里親が見つかって引き取られた。
その時は俺はアリスと喜んで、里親に戻るアリスを見送った覚えがある。
『苗未について少し調べたが、彼女の本名はエマニュエル・ハイルドリッヒ。ドイツ人だ』
「日本人じゃないのか」
『日本人とのハーフだ。血の濃さは日本の方が強い。彼女に元々家族はいない。火事で両親は死んでいる。彼女がソマリアに来たのはお前も知っての通りだが、施設から里親と偽って来た犯罪者に引き取られた後、ある組織に実働部隊のメンバーとして育てられた』
俺はイーグルアイからその組織の事を聞いた。
その組織についてはある程度知っていた。
世界の犯罪を裏から操作していると噂されている犯罪組織「大罪」。
7つの大罪に倣い、7つの支部とそれらを束ねる本部で構成されている。
大罪の拠点は今までトカゲの尻尾しか分からず、警察も頭を悩ませているそうだ。
「その大罪が今回の首謀者だと?」
『正確には大罪の支部"傲慢"の下部組織、"フュレイサー"という半グレ組織が彼女を動かしている。彼女の他にはモルフォとアゲハという彼女の部下がいる。彼女と同年代の少女だ』
側にいたあの2人もか。何て事だ。
『ジョーカー、大罪が絡んでるとしたら彼女達は脅威だ。即刻排除する必要がある』
ブラックオプスはこれから大罪の下部組織を潰す為に、部隊を編成するらしい。
大尉達もそこに組み込まれる。謎の組織、大罪を潰す手柄を得たいのだろう。
『お前はどうする?必要なら部隊に入れるが……』
「……俺は独自に行動させてもらう。同じ飯を食った仲だ。俺が
イーグルアイには情報提供に感謝する。
だが、組織よりも先に俺が彼女とケリを着ける。
俺の拳はいつの間にか強く握られていた。
次の日、イーグルアイからの情報を基に、苗未が1人の時を狙って声をかけた。
彼女は俺の正体を知らないので、恥ずかしながら返事した。
俺は近くの喫茶店に場所を移し、彼女としばらくコーヒーを楽しんだ。
彼女はその間友達の事を話してくれた。モルフォとアゲハという蝶のコードネームを持った2人について。
話を聞いて分かったのは、彼女達はどこまでいってもティーンエイジャーの少女だという事。
彼女が嬉しそうに茶菓子を食べている時に、俺は本題を切り出した。
「苗未、ちょっと聞きたい事がある」
「何?」
「連続して起きた3つの強盗事件、犯人はお前だな」
苗未はしばらく呆然としていたが、内容を把握した後、予想通りとぼけた。
「何言ってるの?新手の冗談?」
「演技が上手いな。そういうのも訓練しているのか、大罪は」
「…………」
苗未の表情がガラリと変わった。人受けの良い明るい顔から冷酷な顔に。
まさかお前が俺と同じ顔になれるとは、少し哀しいな。
「ハッキリ言おうかエマニュエル・ハイルドリッヒ。お前が今まで起こした事件の犯人だと俺は知っている。大罪の支部『傲慢』から指示を受けている事も」
「…………」
「既に俺の所属している組織はお前を消す為に準備中だ。警察も動いてる。逃げ場はなくなっていくぞ」
「……どうして私にそれを教えるの?」
俺の言いたい事が分かっているな。なら俺の本心を言おう。
「俺はお前とその仲間を助けたい。あの時と同じように助けたいんだ、アリス」
「!?」
その名前を口にした瞬間、苗未がひどく驚いて震えていた。
俺の顔を見て、ようやく思い出したようだ。
「嘘……ジョーカーなの……!」
「久しぶりだな、アリス。こんな形で再会するのは残念だ」
「……ええ。本当に残念だわ」
苗未ことアリスは不適な笑みを浮かべると、バックからG19を出して俺に向けた。
周りの客が見ているのをお構い無しに銃を俺の頭部に突き付けた。
「私の正体を知っているのなら、ここで殺す」
アリスの顔はまさにかつて俺が少年兵だった頃と同じだ。
しかし、拳銃が震えている。迷いがあるな。
「俺を撃てるのか、何年お前を守ったんだ?」
「……っ!」
「撃つなら撃て。覚悟はできてるぜ」
アリス、こんな事は止めろ。
お前は平和な世界にいるべきだった。お前は戦闘向きじゃないんだ。
小さい頃から見てきたから分かる。だから大人しくしてくれ、アリス。
俺はアリスに対して思い思いの言葉を頭の中で考えたが、口に出さなかった。
アリスはしばらく俺に銃を向けていたが、銃口を下げて涙を流した。
「うう……!どうして……!」
「俺も同じ気持ちだ。だから、俺に捕まれ。そうすれば便宜を図ってやる。お前や仲間を助けてやる」
「……それを数年前に聞きたかったわ。その時ならジョーカーにすがったでしょうね」
「お前の仲間が政治家に向けて銃撃した事か」
「あの時、本来なら私がやる事になっていた。それを庇ったのが紬だった。紬は作戦が1人を消す事だと知っていたの」
「だから単独で銃撃する結果になったのか」
大罪は目的の為なら仲間の命すら無視する。
たとえ1人の少女でも。
「紬はリーダーだった。モンシロの彼女は私達を導いてくれた。私はまだ彼女の域に達していない……」
モンシロ、やはり彼女達は蝶のコードネームを付けられている。
大罪は彼女達を使って、日本で何らかの目的の為に事件を起こした。
「……でも、私は裏切れない。そうすれば私の妹が消される」
「妹がいたのか?」
「ドイツにいる生き別れの妹は父方の祖父母に育てられている。妹への償いの為に仕送りをしているわ。勿論匿名でだけどね」
……そうか。人質でもあり、アリスの支えの1つか。
「だから私は降伏しない!私はカバマダラ!世界に毒を与える者よ!私は自分の意志を貫き通す!」
「……分かった。お前の覚悟、しかと受け取った」
俺は席を離れ、そのまま出口へと向かう。
「見逃すつもりなの?」
「今回はな。次に会った時は倒す。言ってやるよ、お前を倒すのは俺だ」
「……楽しみにしてるわ」
去り際にそう聞こえ、俺はアリスに手を振って店を後にした。
『何で敵に情報を教えた?』
夜になり、イーグルアイから電話がかかってきた。
「別に、これから俺が倒すのに、フェアじゃないのはよくないだろ」
『もう組織で作戦が立てられている。彼女達が動いた時に、警察と連携して取り押さえるつもりだ』
「そっちはそっちで動けばいい。俺は裏からアリス達を追う」
『らしくないな。精鋭のジョーカーが上に了承を得ずに動くなんて。理由があるのか?』
理由……か。
「せめてもケジメだ。あの時、彼女を引き留めていれば悪に堕ちる事はなかった。だから、俺が彼女を止めなきゃならない」
『……そう。なら、私は見届ける事にする。報告はしない』
「それがお前の答えか。ま、見てな」
これから起きる、俺とアリスとの戦いに。
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