第二章夏休み編2 エピソード5

数日後、都内の廃倉庫。

「バンに道具を移して」

学生服を着たカバマダラはスーツを着た男2人に指示して、バンにを詰め込んだ。

側に控える茶髪の少女モルフォと小柄な青髪の少女アゲハは数日前から変わったリーダーを心配していた。

休息がてらに外出してきて、帰ってきたら顔が鬼のようになっていたのだ。

雇い主からの仕事をすぐに引き受け、短時間で準備させた。

この早さは見事だと言いたいが、カバマダラの厳格な姿のせいで言えずにいた。

全ての準備を終え、カバマダラは仲間に数日前に何が起きたのか話した。

モルフォとアゲハは驚いた。あの少年がリーダーを救った元少年兵で、今は敵となっている。

今回の仕事で介入すると予想される。

「作戦に変更はないわ。警察が来る前に終わらせる」

「……大丈夫なの?」

アゲハが心配そうに尋ねた。

カバマダラは自分が冷静じゃない事に気付き、深呼吸して落ち着かせてから答えた。

「大丈夫よ。私はいつでも元気よ」

そして、仲間達に笑顔を見せて、

「さあ、行こ」

作戦開始を告げた。


俺はイーグルアイからのドローンの映像で走行しているバンを追っていた。

やはり、廃倉庫で準備していたか。

しかも誰も目を付けていない場所を選んだ奴らは優秀だな。

向かっている場所は東京都民銀行。

セキュリティーの高い銀行で、事件以降警備が固くなっている。

何故リスクの高い銀行で奴らが強盗するのか。

理由は分かっている。東京都民銀行の地下には、多額の金を保管する金庫がある。

政治家や財界の人間も取り扱うんだ、引き出しの額に見合った金を用意しなければならない。

イーグルアイの予想では、地下に保管されている金の額はざっと一億。

その金額が故に本来、同業者や世間には箝口令が敷かれ、ほとんどの人間がその事を知らない。

だが、政財界にもメンバーを潜ませている犯罪組織『大罪』なら情報を手に入れられる。

アリス達はどうやって銀行を攻略するのか、見物するか。

まだ俺が出る幕じゃない。一旦警察や組織に華を持たせる事にしよう。


バンはそのまま銀行の近くで停車した。

偽装せず、顔にサバゲー用のマスクを装着し、車の外に出た。

カバマダラ達は大型のバックパックを背負い、銃を手にして入り口へと向かう。

その頃には張り込みしていた警官が通報し、SATを出動させていた。

カバマダラ達は侵入してすぐに扉を閉め、ロビーに出た。

アゲハが天井にMP7を乱射する。

その銃声で大勢の客が大騒ぎする。

「動くな!今すぐに伏せなければ殺す!」

銃口を向けられ、客達は慌てて床に伏せた。

カバマダラ、モルフォ、アゲハが警戒しながら雇われの男2人に人質の手足にバンドを縛らせる。

警備室に隠れていた警備員が警報を押そうとする。

すると、偵察していたカバマダラに見つかり、有無を言わせずに撃ち殺された。

ホロサイト、マズルブレーキ、フォアグリップを装着したHK416アサルトライフルの銃口から白い煙が上がる。

警報を出されるのを防いだカバマダラはモルフォを地下に向かわせる。

モルフォは地下への扉を蹴破り、地下にいた警備員を迷わず射殺した。

「リーダー、金庫を発見した。これより破る」

モルフォはバックからノートパソコンを取り出し、ハッキングの準備に取り掛かる。

「ハッキング開始。ソフト起動。完了まで3分」

『分かった。なるべく急いで』

モルフォは急ぎでハッキングを進める。

その頃、東京都民銀行の外では多くの警官隊が包囲していた。

機動隊や特殊部隊も投入され、この騒ぎにマスコミがリークする。

テレビでカバマダラは警察の動きを探っていた。

まだ包囲しているだけなので突入は後だと推測する。

人質はまだ仲間が見張っているが、抵抗されたら状況が一変する為常にリスクがあった。

『警察だ!大人しく投降しろ!』

時折警察の拡声器から投降の命令を受けるが、勿論素直に了解するつもりはない。

地下の一億を奪うまで一歩も引かない。

『リーダー、もうすぐ終わる』

モルフォからハッキングが後少しで終わるとの連絡を受けた。

その報告を受け、カバマダラは人質にこう告げた。

「よし、そのまま玄関から出て。ちょこまかしてると撃つわよ」

アゲハが発砲して人質を急かせ、人質達は慌てて玄関へと向かった。

人質を解放したカバマダラ達は地下へと向かい、既に開かれた金庫の中へと足を踏み入れる。

モルフォと一緒に金庫の中の札束をアタッシュケースに放り込む。

「金を全て入れたら、壁を吹き飛ばすわよ」

カバマダラは確認の為に仲間達にそう伝えた。


確か東京都民銀行の地下の金庫の近くでは、老朽化した下水道がある。

工事で人の往来があるため、人が通れるように整えられている。

金庫と下水道の壁の間の厚さは1メートル未満。適切な爆薬があれば爆破して穴を開けられる。

SATが銀行の屋上と裏口へ密かに移動しているのを捉えた。

警官隊のスピーカーで陽動し、特殊部隊を突入させるつもりか。

やはり犯人の好きにはさせないか。

特殊部隊が突入準備を整えた時、人質が玄関から飛び出してきた。

意表を突かれた警察は人質の保護に切り替え、突入を中断した。

警察が人質を確保していると、銀行から爆音が聞こえ、地響きが起きた。

警察が調査の為に特殊部隊を送ったが、俺は何が起きたのか察してる。

壁を吹き飛ばしたんだ、それで下水道から逃走しているだろう。

ここまでの動きは予想通り。

警察はともかく、組織の部隊が各地に散開している。

先にアリス達を見つける必要がある、が。

「多分、ここだろうな」

俺は予め目星を付けており、装備を身に付けて外へ出て、待機していた仲間と合流する。

メンバーはラビットとハンター。

「アリス達は指定ポイントへ向かった。俺達も行くぞ」

「了解」

「分かった」

停めてある原付に乗り込み、俺が目星を付けた指定ポイントへ向かった。


数十分後、現場から数キロ離れた小道を走る1台のバン。

中にはカバマダラことアリス達が乗っている。

下水道を伝って少し離れた空き物件から地上に出て、用意していた予備の服に着替え、バンで銀行から離れていた。

目撃者はなし、監視カメラで見られていない。

警察もバンに目もくれず現場に集中して目を付けていない。

リスクの高い銀行強盗に成功し、リーダーのアリス以外は喜んでいる。

このままバンを廃倉庫で片し、奪った金を雇い主の使いに渡せば仕事は成功。

わざわざ大通りを避けて人通りの少ない小道を走っているのだ。

アリスは気を引き締めて警戒する。

運転手が何事もなく運転していると、目の前の道が渋滞している事に気づいた。

渋滞にはまり、退路が塞がれる。

「渋滞?事故かな」

モルフォが前の様子を見ながら呟く。

突然のトラブルで困惑していると、アリスはミラーに目を向ける。

後方100メートル先に3台の原付が停まり、人が降りてきた。

1人は見知った顔の少年だった。

「ジョーカー……」

他2人は知らないが、彼の仲間だと推測する。

すぐに仲間に後ろの3人の事を伝えた。

モルフォとアゲハもジョーカーが来ている事に気付き、驚いた。

「何であの人が来てるの!?しかも武装してるし!」

「リーダー、どういう事!?」

「……彼は得体の知れない組織に所属する戦士よ。私達の仕事を邪魔しに来たの」

アリスの言葉にショックを受けるモルフォとアゲハ。

まさかアリスが一目惚れした相手が敵だという事実を受け入れられなかった。

そんな状態でもジョーカー達は車の中の民間人を逃がしながら接近してくる。

アリス達は短時間で装備を身に付け、銃の安全装置を外す。

モルフォは脇のホルスターにデザートイーグルを収め、カバマダラはHK416をスリングで肩に提げ、仲間の男から100連ドラムマガジンを貰う。

HK416にドラムマガジンを装填し、皆の顔を見る。

少なからず不安が出ている。

なので、アリスは皆を鼓舞する。

「ほら、いつも通りだよ。敵は全て排除!」

そう言って車から降りると、バンのボンネットに登り、天井にHK416を置く。

呼吸を整え、引き金に指をかける。

接近しているジョーカー達に向けて、心の中で言った。

(さあ、戦お!)

引き金を引き、装填されたマガジンから5.56ミリ弾が薬室へ送り、弾丸が発射される。

その弾丸がジョーカーへと向かって飛んで行った。


「攻撃された!」

車の陰に隠れ、前方からの銃撃を避ける。

撃っているのはアリスか。中々良い腕してる。

他の仲間は後退していて、アリスに声を掛けて後退を援護している。

「数は5人!2人は雇われ、他は例の少女達!」

「逃すな!」

撃ちながら前進し、後退するアリス達を追う。

乗り捨てられた車を盾にしながら射撃し、少しでも奴らを休ませないようにする。

何十メートルも追っていると、青髪の少女がMP7をフルオートで撃ってきた。

他のメンバーは移動中か装填中。

俺は伏せて、車の下からセミオート射撃し、彼女の胴体に当てる。

「ぐっ!」

途中でMP7が弾を受けて壊れ、彼女がボディーアーマーで吸収された弾の衝撃に耐えていると彼女の頭部に一発の弾丸が貫通した。

「アゲハ!」

ハンターがSKSライフルのスコープから目を外す。

「ターゲット1人、排除」

殺られたのはアリスの仲間か。

1人減らされたアリス達は俺達に容赦ない攻撃を浴びせる。

その攻撃を避けていると、アリス達の進路を黒いバンが塞いだ。

バンから組織の部隊が出てきて、アリス達を攻撃した。

「味方だ。俺達の動きを嗅ぎ付けたな」

部隊の中に大尉の姿があった。

大尉の部隊は優秀だ。連携して敵を叩いている。

味方の射撃で敵の雇われの1人が死んだ。

「別れて撤退!また会おう!」

「死なないでよ、リーダー!」

アリス達が煙幕を張って、通りから姿を消した。

アリスは住宅街へ、モルフォと男は住宅に突っ込んで都市部へと向かった。

「敵が分かれた」

「アリスは住宅街に行った。味方にモルフォを任せよう」

大尉の部隊にアリスを追う事を伝え、俺達はアリスを追跡する。

意図を理解した部隊はモルフォ達に向かって、追跡を開始した。

感謝するよ、大尉。

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