第三章2学期編 エピソード8
「準備しろ。味方が危機的状況だ」
そう言っている間に俺達は装備を身に付ける。
協力関係にあるセバスチャンとその部下、そして同級生がアフガンで襲ってきた傭兵達とアリスを戦闘員として利用した大罪傘下の半グレ達に追われている。
組織から何度も警告されているが、仲間を助けるのに余計な事情は必要ない。
ただ、俺について来るのはラビットとハンターだけだ。
大尉や他の仲間はどう動くのか分からない。
「ジョーカー。ショッピングモールの別口から3人を発見。猛攻を受けてる」
サポートのイーグルアイが俺に状況を教えてくれた。
時間はないな。
「行くぞ。なるべく警官は殺すな。後が面倒だ」
倒す相手はあくまで傭兵と半グレだけ。
警官は殺さないようにするが、邪魔するなら倒す。
メインのM4A1にマガジンを装填し、薬室に初弾を込める。
今回もよろしく頼むぜ、相棒。
後方からの銃撃を背に駐車場へ駆け出すセバスチャン達。
外に出る途中で半グレ達に見つかり、応戦しながら駐車場まで連れてきてしまった。
半グレはちゃんとした訓練を受けていないので射撃精度は著しく低い。
しかし傭兵よりも数が多いので厄介。
3人は車両に隠れ、セバスチャンとヒーラーは銃で半グレの数を減らす。
何も防具を着けていない彼らは比較的簡単に2人に倒される。
しかし、数の暴力はプロの2人と対等に渡り合う。
数を散らして2人の注意を散漫にしていた。
また銃だけでなく、金属バットや刃物で襲いかかる半グレも少なからずいた。
背後や死角から賢く襲ったが、察知能力が研ぎ澄まされた2人に通用せず、銃で防がれたり殴られて、撃ち殺された。
美代子は2人がなるべく離れず半グレを処理している姿に思わず見とれていた。
少ない人数と銃で多人数相手に対等に渡り合っている。
公務している姿しか見ていなかった美代子は冷静に戦闘しているセバスチャンを眺める。
そんな時、駐車場へスーツ姿の男女が拳銃で回り込んでいた半グレを倒しながら侵入してきた。
「組織の人間……ここは助けるべきだと判断しましたか」
ブラックオプスが美代子の奪取よりも共通の敵を片付ける事を優先して応援を寄越したとセバスチャンは推測した。
事実セバスチャン達へ向かわず半グレの殲滅に当たっている。
半グレが全滅したかと思うと、上空からハインドが接近してきた。
攻撃は行わなかったが、一度空中で止まるとすぐに飛び去った。
「師匠、今のは」
「偵察ですね。こちらの人数を把握されました」
ヘリが飛び去った方向を見ていると、外側の車両が爆発し、ブラックオプスのエージェントが吹き飛ばされた。
そこから10人前後の傭兵部隊が現れた。
半グレや警察の包囲網を突破して、ここまで向かって来たのだ。
エージェントが傭兵達に向けて発砲する。
傭兵達が車両に隠れると、アミリアが味方からRPGを貰って発射した。
ロケットがエージェントの足元に着弾し、爆発でエージェント2人の体が弾け飛ぶ。
RPGを捨てて、随伴する傭兵と共に前進するアミリア。
形勢が逆転し、エージェントが押され始めた。
「あなたは美代子さんを連れて離脱を。援護します」
M4カービンを発砲しながらヒーラーに指示を出す。
「師匠も一緒に」
「目的は違えど同じ仲間です。助けなければなりません。任せましたよ」
ヒーラーの返事を待たずセバスチャンは前進して、エージェントの援護に向かった。
ヒーラーはため息をついて美代子の元に向かって合流する。
「ここから離れるよ。死なれたら困るからね」
「セバスはどうするの?」
「彼なら大丈夫。さ、行くよ」
ヒーラーが美代子の手を握って、駐車場の外へと走る。
今は傭兵達をセバスチャン達が食い止めている。
2人に目を向けている敵はいない。
『アミリアの姿が見えません!そっちへ向かったと思います』
セバスチャンの無線を聞くまでは。
ヒーラーが後ろを向いた時、数十メートル先のにアミリアがAK-47を構えていた。
ヒーラーは反射的に美代子は突き飛ばし、MP7A1を向けようとする。
撃つ前にヒーラーの腹部を貫く弾丸。
AK-47の数発の一発の7.62ミリ弾はヒーラーのアーマーを貫通して、内臓を撃ち抜いた。
アミリアは追撃しようとしたが、セバスチャンの射撃で邪魔されて退避した。
「ヒーラーさん!」
美代子が立ち上がってヒーラーを引っ張って近くのワゴン車に隠れ込む。
美代子が自分の手を見ると、赤黒い血が付いていた。
ヒーラーの銃創から出血していた。
「ああ、どうしよう……」
助けてくれたヒーラーが撃たれ、動揺する美代子。
ヒーラーの救急ポーチに目を付けて、それを取ろうとする。
しかし、ヒーラーが腕を掴んで止めた。
「駄目……道具が勿体ない。それに……もう私は助からない……」
「そんな……」
人体や医学を熟知しているヒーラーは弾が内臓を破壊した事を察していた。
臓器が破壊された以上、まともな病院で手術しても助かる見込みが薄い。
ヒーラーはショルダーバッグを置き、中からP99拳銃を出す。
「使って……」
「え……?」
有無を言わせず美代子に拳銃を握らせると、使い方を教えた。
「弾は装填されてるから……スライドを引けば撃てる」
美代子の両手を掴んで拳銃のスライドを引かせる。
そうしていると、傭兵の1人が2人に接近してきた。
「ヒーラーさん!」
「まったく……」
ヒーラーはMP7A1を連射し、傭兵を倒す。
銃声を聞いてもう1人の傭兵がセミオートで連射しながら近づいてきた。
美代子は恐怖を吹き飛ばすように叫び、拳銃を乱射した。
「ゴハ……!」
ほとんどが外れたが、2発がボディーアーマーに当たり、傭兵は衝撃で膝をつく。
そこをヒーラーが狙って発砲し、傭兵を排除した。
弾切れになった拳銃を回収し、予備のマガジンと交換する。
装填された拳銃を再び美代子に渡すと、ヒーラーは美代子に指示した。
「近くにいる味方に……保護させて貰って……。今なら助けてくれる……」
「嫌だよ。置いて行けない!」
「再生能力が狙われてるんでしょ……?」
「…………」
「呪いだと思っても、自分を……嫌いにならないで」
2人がいる場所に銃弾が飛び、ヒーラーが傭兵と交戦する。
「あなたは一般人……黒の世界に来る必要はない」
ヒーラーが銃だけ出して傭兵と撃ち合う。
美代子がヒーラーに言われた言葉に胸を打たれていると、不意にヒーラーが撃つのを止めた。
「ヒーラーさん?」
力が抜けたように腕が下ろされており、目に生気はなかった。
美代子は涙を流し、ヒーラーの死を悲しむ。
しかし、悲しむ時間はなく、撃ってこなくなった事で傭兵が接近してくる。
美代子はわざと体を出して距離を詰めて、拳銃を撃った。
傭兵は美代子を殺せないので、肩を撃ったが、痛みに耐えた美代子は傭兵の頭を撃ち抜く。
美代子は殺した傭兵にさらに弾丸を撃ち込む。
ヒーラーを殺した傭兵達を憎みながら発砲していると、背後から撃つのを止めさせられた。
「もうよせ。死んでる」
傭兵と勘違いして拳銃を向けたが、安全装置を瞬時に掛けられて撃てなくされた。
その相手は傭兵ではなく、武装した同年代の少年だった。
「美代子本人だな。君を助けに来た」
上手く保護できて良かった。
ショッピングモール付近が警察によって封鎖されてたから、裏から潜入するしかなかった。
潜入してみれば、護衛対象が1人で行動していたからすぐに確保するしかなかった。
すぐ傍にロシア人の男の死体が倒れていた。
例の傭兵だ。彼女が殺ったのか。
拳銃が奴らのじゃない。セバスチャンから貰ったのか?
「その銃は?」
「命の恩人が……くれた」
そこへラビットがこちらへ合流した。
「20メートル先に味方の死体。ヒーラーだった」
ヒーラーか……面識は少ないが、良いやつだった。
「後で回収する。それより、セバスチャンはどこにいる?」
「セバスなら私を逃がす為に……」
時間稼ぎで敵を食い止めているのか。
「ラビット。彼女を遠くへ。俺が救援に向かう」
「分かった」
ラビットに彼女を任せ、俺は銃撃戦が繰り広げられている場所へ向かう。
途中で銃声が止んだ。急いで現場に向かう。
すると、中央でセバスチャンとエージェント2人、傭兵3人が銃を向け合っていた。
傭兵の1人は女だった。アフガンで見た女と一致する。
「銃を捨てなさい。もう終わりです」
「あら、何て言ったの?日本語って難しくて分からないわ」
女は挑発するように返事した。
わざとか。セバスチャンの冷静さを欠こうとしている。
ま、それは無理だけどな。
「そこまでだロシア人。銃を捨てろ」
俺が間を割って入り、傭兵達に銃を向けた。
「ジョーカーさん」
「安心しろ、彼女は俺の仲間が保護した」
その事を伝えると、セバスチャンは安心した表情を一瞬浮かべると、再び冷酷な表情に切り替わった。
「おや?見覚えがあるな。あの時の少年か」
「また会ったな。よくもこの国をメチャクチャにしたな」
「破壊こそ私の部隊の存在意義。善悪はない」
「アミリア・カラシニコフ。ここで拘束する」
ここで奴を止めなければ再び仲間が死ぬ。
それに捕まえれば大罪壊滅への足掛かりになる。
「……ねぇ、取引しない?」
「この状況でか?」
「だからこそよ。あなたの目的は雇い主の大罪じゃないかしら?」
コイツ、俺の目的を把握してるのか。
「実はチンピラの介入があったの。セバスチャン、あなたも見たでしょ?奴らは手当たり次第襲ってきた」
「…………」
「目的はあの娘よ。邪魔になるあなた達と用済みになる私達を潰しにあんな数のチンピラを差し向けた。ま、結果は全滅だけど」
「何が言いたい?」
「依頼された時、奴らのバックに諜報員の存在を聞いたわ。諜報員が今回の事態を引き起こした。諜報員ってもしかするとあなた達が追っている"オクトパス"って奴じゃない?」
大罪とスパイの関係性まで知ってるとは。
スパイが今回の事態の黒幕だと?どういう事だ?
「ヤツは自分を狙っている連中がどんな顔なのか知りたかった。それを知る為に贔屓にしている大罪をけしかけた」
「美代子さんの治癒能力を密告したのはあなたですか?」
「あぁ、そうだったね。あの子は国連所属の研究員である両親によって治癒能力を獲得した。自分の子にプラナリアの遺伝子を組み込むとは、イカれてるよね」
それは初耳だった。どこまで把握しているんだ?
「国連はすぐに隠蔽した。そりゃ、もし明るみになれば批判待ったなしだからね。両親は秘密裏に処理、彼女は国連の施設で育て、普通の女の子として生かす事にした」
「蓋を閉めて封印して、なかったかのように暮らす。だが、情報が漏れた」
「大罪は国連にも工作員を潜ませた。それで情報を得てから、彼女を手に入れようとした」
謎が次々に解けた。
彼女は能力の事を隠していた。話したらヤバくなると理解していたんだ。
そのまま隠し通して今まで普通に生きていた。それを大罪が邪魔した。
「さて、話したから逃がしてくれない?」
「もう少し話そうぜ。だから銃を捨てろ」
「まったく、私が取引を持ちかけた理由を理解してよ」
アミリアが呆れながら話すと、上空からハインドが向かって来た。
ハインドだと!?日本の防空網はどうなってる!
ハインドは数十メートルまで高度を下げると、左右のドアが開いてロープを垂らす。
アミリア達はロープにフックを取り付ける。
エージェント2人が止めようとするが、機銃で上半身が削られた。
「クソ……」
「悪いね。それが対価よ!また会いましょ!」
ハインドは後ろへ飛び去り、3人を引き上げながら逃げて行った。
ライフル弾ではハインドを撃ち落とす事はできない。
そのまま見送るしかなかった。
「組織はヘリを撃ち落としますか?」
「レーダー上は自衛隊機だ。そのまま放置だろうな」
組織がリスクを負ってヘリを撃ち落とすとは思えない。
それにこれ以上は自分達の正体がバレる危険がある。
「ここから離れよう。自衛隊がわんさか向かってくるぞ」
「賛成です」
俺とセバスチャンは離れたラビット達と合流しに向かう。
俺は無線機で周辺を監視していたハンターに報告した。
「ハンター、任務完了だ。撤退する」
『分かった。敵を狙撃しなくてごめん。こっちの位置がバレたら殺されると思って』
「判断は間違ってないさ。いつでも奴を相手にできる。今は帰ろう」
『了解』
ハンターとの通信を終えると、セバスチャンが呟いた。
「色んなモノを失っても、平常でいられる。私の心はもうないかもしれない」
「……そうか?あの子を守る為に奮闘しただろ。少なくとも心はあるさ」
「……どうでしょう。私みたいな男は、戦いを楽しむ傾向があります」
「それが宿命と?俺には分からないな」
確かにそういう考えもあるかもしれない。
だが、人間生きていれば変えられる。小さな事でもな。
俺は任務を終わらせて、芹香の平和を守る。
せめてそれだけは果たしたい。
その後、一連の出来事は過激派組織によるテロとして処理され、カバーストーリーが広がった。
ハインドはそもそもなかった事にされ、裏で防衛省が責任追及を受けていた。
アミリアは今後も襲ってくるだろう。多数の部下を失っても続けるつもりかもな。
美代子はその後、組織に保護された。
美代子の治癒能力について上層部は審議したが、セバスチャンが組織の仕事を全面的に引き受ける事と示談金で美代子は日本某所にある組織の施設で生活する事になった。
学園には行方不明と伝え、組織は美代子の記録を抹消した。
美代子は保護という名の軟禁を強いられるが、セバスチャンの保護下になったおかげでマシな生活を送れるだろう。
一方大罪だが、警察は襲撃した半グレを逮捕し、芋づる式で日本支部の幹部や繋がっている人間を多数留置場送りにした。
あの時介入したのはアミリアを信用しなかった一部の連中が独占目的で行ったそうだ。
幹部は道連れにしようとアミリアの事を話したらしいが、既に証拠は潰され、更に蓋を閉めたい人間によって証言はなかった事にされた。
ま、そっちは勝手に消えればいい。
本題は、繋がっているスパイ、オクトパスだ。
ヤツもアミリア同様証拠を隠滅し、行方を眩ませた。
だが、イーグルアイによってオクトパスの証拠を掴んだ。
消されたネット上のデータをサルベージし、何とか入手したそうだ。
その結果、ある情報の送信先が学園の情報室だと判明した。
使われたIDは偽装されたモノだが、やった犯人は分かる。
候補は数人にも満たない。だが、絶対に尻尾を掴んでやる。
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