第三章2学期編 エピソード7
屋敷から数キロの大通りまで移動し、セバスチャンはBMWの隠し場所を探していた。
セバスチャンが所有している建物はどこも民間企業。
有事の際に銃撃でボコボコにされた車を隠してくれるとは思えない。
ここまで走っている時にかなり目を引いてしまった。
早く落ち着ける場所へ避難しなければ。
そう思って候補地を探していると、セバスチャンの元に一本の電話が入る。
『セバス君。ずいぶん派手に暴れたようだね』
「警視総監……」
セバスチャンへ連絡してきたのは日本警察のトップだった。
『さっきから多数の通報があってね。付近の警察官が収拾に当たってるよ』
「事前に連絡しなくて申し訳ございません。私の屋敷に襲撃者が現れました」
『どこの所属かね?』
「装備はロシア軍でしたが、恐らく傭兵です。重火器で建物を破壊し、部下を皆殺しにしました」
『セバス君。君には色んな件で感謝している。しかし、今回の件はあらゆる方面から注目されてしまった。いつもの揉み消しはできない』
「結構です。それより、私達の身を隠せる場所を1つ提供してくれませんか?」
『……すまないが、それはできない。私にかなりの圧力がかかっている。この地位に居続けるにはこれしかないんだ』
セバスチャンは瞬時に計画を変えて、警視総監に質問する。
「あなたに圧力をかけているのは大罪ですか?」
警視総監は肯定も否定もせず、無言だった。
「そこまでして私達を追い詰めるには何かしらの理由があります。教えていただきますか?」
『すまないが私は知らない。伝えられていないのでね』
「分かりました。今までありがとうございました。失礼します」
セバスチャンは電話を切り、ヒーラーに警察が敵に回ったと伝える。
「そうですか。それじゃ、私達は応援もナシで守り切らないといけないのか」
「ですので、急いで安全な場所へ向かって下さい。最悪途中で乗り捨てるのも視野に入れて下さい」
ヒーラーは頷いて信号を右に曲がる。
その時、車の至近距離に多数の大口径の銃弾が撃ち込まれた。
急ブレーキで事なきを得た。
「どこから撃たれた?」
セバスチャンは周囲を警戒する。
銃撃で近くにいた人間は退避していた。
怪しい人物はいない。しかし疑いは晴れない。
ある可能性を考え、暗視装置で空を見る。
すると、一機のヘリコプターが上空ですれ違った。
そのヘリコプターを一目見て、すぐに機種を特定する。
「ハインドです」
「ハインドって?」
「ロシア製の攻撃ヘリ、あんなのまで投入してるの?」
ハインドがよく分からない美代子にヒーラーが説明する。
ハインドは冷戦時に製造された戦闘ヘリで、兵員輸送としても使えるのが特徴。
武装は機銃と対地、対空ミサイル。フレアやライトまで搭載している。
日本という国に攻撃ヘリがいる事自体が異常。
セバスチャンはすぐに推測を立てるが、留まっているとヘリが旋回して向かって来ていた。
「すぐに出して下さい」
「言われなくても!」
ヒーラーは交差点までバックして、右折してスピードを出す。
ハインドはBMWを追って空を飛び、執拗に追跡する。
『Капитан, я нашел цель на перекрестке в 10 километрах к югу от особняка. Я отследю это.(隊長、屋敷から10キロ南の交差点でターゲット発見。これより追跡します)』
『никогда не пропустите Я присоединюсь к резерву и тоже отправлюсь туда.(決して逃すな。予備隊と合流し、私もそちらへ向かう)』
ハインドは追いかけてくるだけで何もしてこない。
セバスチャンはハインドの役目が監視だと予想する。
だとしても振り切らなければ逐一傭兵に位置を伝えられてしまう。
ヒーラーも理解していて車を走らせるが中々振り切れる場所が見つからず苦労する。
そんな時、後ろから1台のパトカーが追跡してきた。
『そこの車、左手に寄せて止まって下さい』
「こんな時によくそんな事言えるね」
ヒーラーはハインドの事を知って停車を促しているのかと疑う。
ハインドのパイロットがパトカーを発見すると、ガンナーに指示して機銃を撃たせる。
14ミリの大口径弾が降り注ぎ、パトカーを一瞬で大破させた。
「嘘っ!?警官を殺した?」
「邪魔するなら民間人でも殺す。ロシア軍仕込みです」
ハインドが射撃した事で付近の民間人は慌てて逃げ出した。
ヒーラーはアクセルを全開にし、スピードを一気に出す。
今度はハインドが機種で進行先を塞ぐかのように撃ってきた。
咄嗟に左折して回避する。
「まずい。ヘリが攻撃してきた」
「この近くに大型ショッピングモールがあります。そこの駐車場へ」
セバスチャンが身を潜める場所を探し出し、ヒーラーに位置を伝える。
そこまでヒーラーは車のスピードを落とさないように踏む力を緩めないようにする。
パイロットがBMWの向かっている先を特定すると、車に向けて機銃を撃つ。
2発がエンジンルームに命中したが、それでもショッピングモールの駐車場に入った。
ハインドは追跡を止めて、高度を上げる。
『Цель сбежала в торговый центр. Двигатель автомобиля, должно быть, был разрушен, и он стал непригодным для использования.(ターゲットはショッピングモールへ逃げ込みました。車はエンジンがやられて使い物にならなくなった筈です)』
『продолжайте следить. Перехватите японские ВВС до того, как их заметят на радаре.(そのまま監視して。日本の空軍がレーダーで特定する前に捕まえる)』
ハインドには細工しており、レーダーには自衛隊の航空機と表示されるようにしてある。
しかし簡単に細工が解ける可能性があり、時間との勝負だった。
既に攻撃したので更に時間が短縮された。
それを理解しているアミリアは仲間を連れてショッピングモールまで向かった。
再編成された部隊で仲間の仇を伐つべく怒りの炎を燃やした。
立体駐車場に車を停めて、セバスチャンがボンネットを調べる。
ボンネットに大きな穴が2つ空いており、エンジンを破壊していた。
「車はここで破棄します。車から降りて下さい」
ヒーラーと美代子は車から降りて、セバスチャンの元に集まった。
ヒーラーの肩にはショルダーバッグが掛けられている。
「ショッピングモールを通り抜けて、車を調達します。外には傭兵のハインドが飛び回っていますので少し様子を見ます」
「組織には連絡する?」
「彼らも事態を場合しているでしょう。助けに来るかは五分五分ですが」
セバスチャンはブラックオプスの事をあまり信用していないので、連絡しない事にした。
それを理解したヒーラーはバックからMP7A1を出して、いつでも撃てるようにする。
「美代子さん、あなたを安全な場所までお連れします。身の安全は私とヒーラーの範囲内で保障します。くれぐれも側を離れないで下さい」
「わ、分かった」
美代子は返事し、3人は車から離れた。
セバスチャンが懐からボタンを出して押すと、BMWの内部が爆発し、火の手が上がった。
その頃、ショッピングモールの中から民間人が出てきて、逃げ出していた。
騒ぎを収める為に警官が複数派遣されている。
事態をあまり読み込めていない警官達は民間人の避難に追われていた。
そこへ黒塗りの車が5台ショッピングモール入口付近で停車。
アミリア達が降車し、武装した傭兵達がショッピングモールへ真っ直ぐ向かう。
傭兵達に気づいた警官は民間人を押し退けながら接近し、M60回転式拳銃を構える。
「動くな!そこで止まれ!」
「止まる訳ないでしょ。恨みはないけど、死んで」
アミリアは警官の制止に構わずAK-47を連射し、1人の警官を撃ち殺した。
他の傭兵も警官に向けて発砲し、ショッピングモールにいた警官達を全滅させた。
近くにいた民間人は銃声と目の前の惨劇で体を屈める。
障害を排除したアミリア達はショッピングモール内部へと突入する。
ハインドはそれを見送ってから引き続き周辺の監視を行った。
3人は避難する民間人を通しながら1階を突き進み、半分を占めるフードコートに出た。
フードコートは入口と繋がっている。
2階へのエスカレーターは突き当たりにあった。入口の近くを通らなければならない。
エレベーターは万が一に遠隔操作されるを恐れて使わない。
ほとんどの民間人は外へ逃げていた。
3人はフードコートの客席を通る。
少し進んだ時、入口から武装した傭兵が侵入してきた。
客席のブースに隠れ、セバスチャンが様子を見た。
ロシア軍装備の傭兵20人以上が入口を塞いでいる。
数が増えている事から増援と合流したと推測する。
その集団に入口からアミリアが入ってきた。
「いるんでしょ?このフロアのどこかにいるのは分かってる」
アミリアはセバスチャン達がいると分かっている上で呼び掛けるように言った。
大勢の傭兵が見張っている中で動くのは見つかる危険が高い。
アミリアが腕を振り落とすと、左右の傭兵それぞれ6人が回るように進み始めた。
単純なクリアリングだが、いつかは鉢合わせになるので効果はある。
じっくり客席のブースを調べ、徐々にセバスチャン達が隠れているブースへ向かってくる。
アミリアはこれで終わりだと思った。
その時、左に回っていた傭兵達が外から照らされた。
手で眩しい光を遮りながら外を見る。
次の瞬間、軽トラックが突っ込んで傭兵達を轢いた。
「あれは……」
軽トラックの突撃で陣形が乱れた傭兵。
そんな所へ軽トラックに乗っていた男達が降りてくる。
顔を覆面や仮面で隠した半グレ達だった。彼らの手にはショットガンやサブマシンガン。
戸惑っている傭兵達に向けて弾丸を浴びせる。
「いよっしゃー!お前ら、"強欲"の実力をロシア人に見せてやれー!」
半グレの合図と共に割れた窓から次々と半グレ達が侵入してくる。
傭兵達は襲撃してきた半グレと交戦する。
セバスチャン達への注意が完全に消えた。
それを察知したセバスチャンはヒーラーと美代子に指示する。
「彼らの介入は好都合です。突破して抜け出します。ヒーラー、スモークの用意を」
セバスチャンとヒーラーがスモークグレネードを用意すると、傭兵達と半グレ達の方へ投げる。
煙幕が広がり、2つの勢力の視界を遮る。
突然の煙幕で銃撃が弱まった隙に3人は裏口へと走り出す。
アミリアはそれを目撃して、AK-47を撃つが、セバスチャンの制圧射撃で妨害された。
ヒーラーが邪魔な敵を片付け、先に裏口へ入り、後からセバスチャンが入った。
「クソ。何で大罪の連中が……」
「Капитан! Я больше не могу сдерживать своих врагов! Снять немедленно!(隊長!これ以上敵を食い止められません!一度撤退を!)」
傭兵達は何とか半グレ達を足止めしているが、数の不利で押されていた。
アミリアは邪魔された苛立ちを抑えて、
「Спасаться бегством! В погоне за сбежавшими целями!(後退よ!逃げたターゲットを追う!)」
グレネードやロケットランチャーで半グレ達を吹き飛ばし、生き残った半数は外からセバスチャン達を追い掛ける。
外には警官隊が包囲していたが、攻撃命令を受けたハインドが機銃で蹴散らした。
ショッピングモール付近はもはや戦闘地帯と化し、混沌となっていた。
警察や第三者からはどうしてこんな戦闘が起きているのか誰も分からなかった。
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