第三章2学期編 エピソード6
「いや!離して!」
傭兵に引きずられ、それに対して抵抗する美代子。
傭兵に無理矢理ベットに突き飛ばされ、その後傭兵に銃口を向けられる。
「……!」
「Быть зрелым. Ты не хочешь умирать(大人しくしてろ。死にたくないだろ)」
ロシア語が分からない美代子でも下手な動きを見せたら殺されると悟った。
自分とは違う人間だと理解し、大人しくした。
「Вот команда С. защитил принцессу. Пожалуйста, пришлите мне кого-нибудь. Кроме того, припаркуйте свой автомобиль поблизости.(こちらCチーム。姫を確保した。人を寄越してくれ。それと車も近くに停めといてくれ)」
『заметано. Отправьте команду D. Пересадите принцессу в машину, когда встретитесь.(了解。Dチームを向かわせる。合流したら姫を車に移せ)』
無線で話し合えた傭兵3人は捕まれた美代子を見下ろす。
「Я не думаю, что преступник хотел бы такого ребенка. сумасшедший в мире(こんなガキを犯罪者が欲しがるとはな。世の中狂ってる)」
「Ну, а если ты сдашь эту девушку, то получишь награду. Давайте поиграем с этими деньгами. Я знаю хороший ресторан.(ま、この少女を引き渡せば報酬が貰えるんだ。その金で遊ぼうぜ。美味い店を知ってるんだ)」
美代子は何もできなかった。
銃で脅され、ただ待つ事しかできなかった。
頼りのメイドも殺され、絶望していた。
そんな時、傭兵のベルトにあるコルトパイソンが目に入る。
傭兵達は雑談していてあまり美代子を見ていない。
あの銃を奪えば状況を変えられるかもしれないと考えた。
しかし傭兵達はAKを手にしており、反撃されるリスクを考えて一度は怯えた。
だが、最後まで自分を守ったメイドを見て勇気を貰った。
一度深呼吸し、傭兵達の視線が全員向けられていない瞬間を狙い、リボルバーを持っている傭兵に掴みかかった。
「Что ты делаешь с этим ребенком!(何しやがるこのガキ!)」
傭兵は美代子を引き剥がそうとするが中々離れず焦り出す。
他の傭兵は美代子を撃つ事ができなくて、仕方なく美代子を引き剥がすのを手伝う。
傭兵達の抵抗に遭い、諦めかけた時、リボルバーのグリップを持ってベルトから引っこ抜いた。
そして、迷わずにメイドの尊厳を踏みにじった傭兵に発砲した。
「Нурк! Дерьмо!(ニュルク!クソッタレ!)」
もう1人の傭兵が仲間を殺された怒りでAK-74を2発撃ち、美代子の腹部に命中させた。
「あぁ……痛い……痛い痛い……!」
致命傷を負い、美代子は腹を押さえて激痛に耐える。
「Привет! Не стреляйте в цель! Что, если я умру!(おい!ターゲットを撃つな!死んだらどうする!)」
「Нюрк застрелен! А Нюрк! ?(ニュルクが撃たれたんだぞ!それよりニュルクはどうだ!?)」
「Пуля остановилась в бронеплите, но от удара у меня остановилось сердце. Вызовите медиков!(弾はアーマープレートで止まったが、衝撃で心臓が止まってる。衛生兵を呼んでくれ!)」
傭兵が慌てて部屋から飛び出し、もう1人の傭兵は2人の負傷者を診て回った。
仲間の傭兵の心臓マッサージを行いながら美代子の傷を確かめる。
あまりの忙しさに悪態をつく。
「Это С-5! Есть проблема! C-8 был ранен сопротивлением цели! Цель также была серьезно ранена! Пришлите мне своих друзей!(こちらC-5!問題発生だ!ターゲットの抵抗に遭いC-8が負傷!ターゲットも深傷を負った!早く仲間を送ってくれ!)」
無線で仲間に状況を知らせていると、美代子の体に異変が起きた。
もう一度美代子を見た時、美代子の出血が止まっていたのだ。
それどころか、撃たれた傷がどんどん治り、口から弾丸を吐き出したのだ。
「Какая? Этот парень не человек...!(何だ?コイツは人間じゃない……!)」
傭兵は美代子を恐れ、思わず銃を向けた。
美代子は傷の痛みが消えて呼吸を落ち着かせていて、傭兵が銃を向けているのに気づいていない。
「Привет! Медик еще не пришел! ? Ты опоздал!(おい!まだ衛生兵は来ないのか!?遅いぞ!)」
衛生兵が来るのが遅くて、部屋の外に目を向けた時、傭兵は目を見開いた。
いつの間にか部屋に人が来ていたのだ。
仲間ではなく、青い装備をした謎の男が立っていたのだ。
「Что ты! ? Что случилось с моими друзьями!(何だお前!?仲間はどうした!)」
傭兵がAK-74を構えて男に叫んだ時、廊下に衛生兵を呼びに行った筈の仲間が倒れているのが見えた。
状況から目の前の男に殺されたと判断し、傭兵はライフルの握る力を強める。
男は銃を提げていたが、両手を空けていた。
傭兵が引き金を引いた時、男は横に動いて弾を避けた。
セミオートとはいえ弾を避けられ、傭兵は目を疑った。
今度はフルオートで撃つが、いつの間にか間合いを詰められ、ライフルを蹴り飛ばされてしまう。
男にサスペンダーにあったナイフを捕られ、肩を突き刺されて膝をつく。
拳銃を抜こうとするも、先読みされて拳銃を奪われた。
男に拳銃を向けられ、傭兵は命乞いをする。
「Подождите, пожалуйста! Пожалуйста, не убивай меня! Я не хочу умирать!(待ってくれ!殺さないでくれ!死にたくない!)」
傭兵の必死の命乞いに男は無慈悲に引き金を引いた。
頭を撃ち抜かれた傭兵は倒れた。
男は心肺停止している傭兵の頭も撃ち抜き、部屋にいた傭兵を全員殺した。
美代子は傭兵を殺した男に声をかける。
「遅いよ、セバス」
「少し残業が残っていましたので遅れてしまいました」
美代子を助けに来たセバスチャンは拳銃を弾を抜いて無力化してからポイ捨てし、美代子を起こす。
セバスチャンは美代子の服に血の染みがある事に気づき、その事について指摘する。
「怪我を負いましたか?」
「それが……不思議な事に治ったの。ほら」
美代子は自分の腹を見せて傷があった事を証明する。
服の穴から撃たれたのは本当だと分かり、セバスチャンは一時思考するも、とりあえず脱出する事を先決した。
「ここから出ます。地下の駐車場へ行きましょう」
「でも奴らがそこら中に……」
「問題ありません。私が先行します」
セバスチャンはM4カービンを構えながら部屋の外に出て、美代子を手招きする。
美代子が外に出ると、先程見た傭兵の死体と共に他にも傭兵の死体があった。
「2階の敵はほとんど私が片付けましたが、1階の敵は野放しです。来ない内に移動しましょう」
「…………」
敵に気づかれず2階にいた傭兵を全員倒した事に驚きを隠せない。
地下へ向かいながら、美代子は率直に質問した。
「ねえ、他の皆は?」
「1人を除いて全滅しました。今、ヒーラーが地下の車を待機させてます」
「ヒーラー?」
聞いた事もない名前だったのでセバスチャンに説明を求める。
「私の弟子で、医療と戦闘に長けた人です。あなたの保護を受けて私が呼びました」
「そう。でも、私のせいでここの人達が……」
「あまり自分を責めないで下さい。彼らは責務を果たしました。あなたはそんな彼らの為にも生きるべきです」
最後まで身を挺して守ってくれたメイドを思い浮かべ、力強く返事した。
セバスチャンが壁の絵画を外すと、壁が横に開き、地下に通じる梯子が姿を現した。
「こっちです」
「この屋敷のカラクリにもうつっこまないよ」
美代子は梯子を伝って地下へ降りて、セバスチャンも美代子の後に地下へと降りていった。
その頃、アミリアは無線報告がないのが気になり、部下を連れて2階に上がる。
そこには誰かに首を絞められたり、刃物で殺された傭兵達が転がっていた。
アミリアはこれを重く受け止め、部下に命令する。
「Мои люди были убиты. Найти его. Цель должна быть одна.(私の部下が殺された。ソイツを見つけ出せ。ターゲットも一緒の筈だ)」
地下に降りた2人は駐車場に通じる廊下を進む。
廊下から駐車場に出ると、1人の女性が待っていた。
茶髪のショートボブの白人で、緑のTシャツの上に白のベストを着ている。
ベルトにはホルスターと小さなポーチ。
「待っていましたよ、師匠。指示通り車いつでも動かせるようにしてる」
「ありがとうございます」
「ねぇ、あの人がヒーラー?」
「ええ。腕利きの弟子ですよ」
セバスチャンは自分の弟子として使えると美代子に伝えて、ヒーラーと会話する。
「シャッターは暗証番号が掛けられてるから少し開けるのに時間がかかる」
「そこは大丈夫でしょう。問題は逃走ルートです」
「組織からの支援は受けられないなら、師匠の所有する場所に逃げ込めば良いのでは?」
「幾つか候補がありますので、そうしましょう」
ここから逃げる計画が徐々に固まりつつあるその時、上の階で爆発が起きた。
その影響で地下が振動が起こる。
「な、何?」
「あー、これバレてますね」
「急いでシャッターを開けて下さい。時間を稼ぎます」
ヒーラーがスマホでシャッターの暗証番号を打ち込む。
セバスチャンは先に美代子を黒塗りのBMWの後部座席に座らせて、車のドアを閉め、ボンネットからM4カービンを構える。
しばらく待ち伏せていると、足音が聞こえ始めた。
セバスチャンは安全装置を外し、サイトを覗く。
扉が開いた瞬間、セバスチャンはフルオートで射撃する。
『У меня есть враг!(敵がいるぞ!)』
扉の向こうからロシア語の声が上がり、セバスチャンとヒーラーは敵の位置を把握する。
扉が少しだけ開くと、何かが転がり、その物体は煙を充満させる。
煙に乗じて傭兵達が扉から出て、左右に展開しながら発砲する。
セバスチャンはまるで機械のように正確に傭兵を排除していく。
傭兵は駐車場にあった車両に移動し、そこからセバスチャンへ向けて応戦する。
セバスチャンが遮蔽物にしているBMWに多数の弾が着弾する。
そのBMWは高性能の防弾装甲が施されているので生半可な弾丸では貫通しない。
傭兵達がぞろぞろと現れ、遂に傭兵部隊のリーダーアミリアが参戦する。
「ヒーラーさん、まだですか?」
「今解除しましたー!運転席に向かいます」
このタイミングでシャッターのロックが解除され、自動でシャッターが開き始める。
それに反応して傭兵が猛攻を行い、容赦ない銃撃をする。
アミリアはAK-47の下部にある武器を取り付け、小型の燃料タンクを装填する。
アミリアの行動に気づいたセバスチャンはヒーラーを引っ張って車へ急ぐ。
「え?ちょっと!」
有無を言わせずに車の中に逃げ込むと、車へ灼熱の火炎放射が浴びせられた。
「あら、火炙りは嫌い?」
アミリアは残念そうに呟いた。
セバスチャンはアミリアの銃に装着された武器を一目見ただけで理解した。
ソ連時代に軍で開発された小型の火炎放射器で、僅かな燃料でも最大1分の火炎放射が可能。
アミリアの火炎放射器は更に改良され、射程距離が20メートル以上伸ばされていた。
BMWに耐火性のある装甲板がなければ火の手が上がっていただろう。
ヒーラーは急いでドアを閉めて、車のエンジンを動かす。
外から傭兵の激しい銃撃を受けているが、装甲板のおかげで内部に貫通していない。
発進しようとするのを見て、傭兵の1人がAK-74の下部のGP-25単発グレネードランチャーを構え、グレネード弾を発射。
車の左側の至近距離で爆発するも、傾いただけだった。
その分の衝撃は車の中に伝わり、シートベルトをしている美代子は頭を揺らされた。
そのままBMWは敷地内へ飛び出す。
門に向かおうとすると、傭兵の車両2台が阻止してくる。
車の上部のガンナーがPKP機関銃を撃ちまくり、セバスチャン達のBMWに多数の弾を撃ち込む。
攻撃を受けて一度車をUターンさせるヒーラー。
「きゃぁぁぁ!」
「落ち着いて。この車は頑丈よ」
ヒーラーがパニックになっている美代子を落ち着かせていると、セバスチャンが後部座席に移動し、荷台の物を漁る。
そこで良い物を見つけ、それを持って車の天井の窓を開ける。
天井から体を出して持ってきた物を敵車両に向ける。
それは旧ドイツ軍が使っていた汎用機関銃、MG42だった。
使用する弾は7.92モーゼル。
装填レバーを引き、セバスチャンは後方から銃撃している車両へ向けて射撃する。
圧倒的な射撃速度を誇るMG42は数秒で車両を穴だらけにし、中にいた傭兵は全滅した。
もう1台は損害を恐れて撤退するも、セバスチャンの銃撃で中の傭兵ごとボコボコにした。
「うわー。あれは死んだね」
「できれば使いたくなかったです。もう弾切れになりました」
MG42はヒトラーの電動ノコギリと言われるが故に弾の消費が激しく、また熱でバレルが消耗しやすいという欠点がある。
弾も大変貴重で、装填されている弾帯しか弾はなかった。
「でも、撃てて良かったですよね?」
「否定はしません」
車は屋敷の外へ飛び出し、安全な場所を求めて都内を走り回った。
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