第一章学校潜入編 エピソード5
襲撃から一夜明け、翌日の平日に学校へ向かうと、珍しくサバゲーサークルのリーダー伝治が話しかけてきた。
「蓮司、ちょっといいか?」
「何だ?」
「トラブルだ。ついて来い」
おいおい、面倒事に巻き込むなよ。
と思いつつ伝治の後を追うと、2年3組の教室に着いた。
そこで、明らかにヤンキーな男子生徒が机に座って周りのクラスメートを威嚇していた。
「あれは?」
「一応メンバーの代々木だ。先週からあの状態らしい」
「俺が関係しているのか?」
「お前が気にくわないと周りに言いふらしている。仕舞いには脅しで妹を襲うとも言ってた」
「感情を抑えられないのかよ……」
呆れてヤツを見ると、視線が合わさった。あ、目が合った。
俺を見た瞬間、スタスタとこっちへ向かってきた。
そして無言のパンチ。ま、見え見えだからガード。
「テメェ……どの面下げて来たんだ」
「それは伝治に言え。だが、お前は少し頭を冷せ」
拳を弾いて腕を後ろで捻る。こうすれば奴が抵抗すれば痛みを引き出せる。
「くっ……!」
「気に入らないのは理解できるが、だからと言って妹を襲う?短絡的な思考だな、上級生とは思えん」
「うる……せぇ……」
「いいか?次問題を起こせば通報するぞ。お前の家柄関係ナシでだ。覚えてろ」
代々木を突き飛ばし、言うことだけ言って教室を出た。
「伝治、どういうつもりだ。俺に面倒事を押し付けやがって」
「悪かったな。だが、これでヤツを追放できる。少なくともサークルからはな」
「お灸据えるのに俺を使って、奴に釘を刺すのが目的だったのか?」
「お前を気に入ってるんだ。後で良いモンやるから教室に戻れ」
そのまま伝治は去ってしまった。
あの態度、そして今の出来事。一体何が目的だ?
奴がスパイとは思えないが、警戒しておくか。
授業を終え、家に帰宅するとイーグルアイから連絡が入った。
捕まえた男の身元が割れたらしい。
男はやはり、中国側の工作員だった。情報収集と連絡役を務めていた。
作戦が行われた時には電話で中国軍と話していたそうだ。内容は固く口止めされているのか話さなかった。
男は大尉の元に送られ、尋問を受ける。おお、こわ。
連絡を受けていると、イーグルアイからこう言われた。
『悪い知らせだ。中国に部隊の存在が完全に知られた。今、大尉が政府と交渉しているが、水面下で軍が動く筈だ。警戒しておけ』
「分かった。美鈴にも伝えておく。それと、頼みがある。剛力伝治を調査してくれ、念のためだ」
『今度は和菓子で頼む』
「あいよ。後で送るよ」
これで調査結果を待つだけだ。
不安要素は確実に消しておかないと。
そのままイーグルアイの調査結果を待ちながら、高校生活を送っていると、珍しい事があった。
遅刻や欠席しなかった芹香が学校に来なかった。
隣に芹香がいないと、学校に通っている実感が湧かない。
しかし昨日はあんなに元気だったのに、風邪でも引いたか?
……メールや連絡しても反応がない。
しょうがない、念のために芹香の家に行くか。イーグルアイから全校生徒の住所は把握しているから、芹香の家の場所もある。
潜入でなければ、俺が不審者に思えるな。
学校の授業が終わり、サークルに行かずに芹香の家に向かう。
芹香の家は他の住宅に負けず劣らず高級だ。
金持ちの中ではランクは下かもしれないが、それでも一般人では購入できないくらい高い。
ここに来るのは初めてだな。できれば普通の方法で行きたかった。
家の門に手をかけた時、俺は目付きを変えた。
開いている……か。
家の玄関も鍵が開いていて、正確にはピッキングされていた。
中に入ると、中はかなり荒らされていた。
窓も割れていて、泥棒が部屋を荒らしたように見える。
だが、金品には手を付けていない。金庫や芹香の財布も手付かずだ。
強盗に見せかけた誘拐か。
この家には防犯用の警報装置やカメラがあるが、警報装置は電源が切られていて、カメラは粉々に壊されていた。
「やってくれたな……」
俺はイーグルアイとこの事を話す。
「イーグルアイ、芹香の居場所を探せ。何としてでもだ」
『了解。この誘拐はお前を誘う為に起こしたんだ。奴等はお前の行動を読んでるぞ』
「上等だ。仲間を集めてくれ、救出作戦に取り掛かるようにと伝えろ」
イーグルアイに指示を出した後に電話を切り、家を出ようとすると階段に携帯が落ちていた。
小型の子ども携帯……そういえば前に言ってたな。
『その玩具の携帯は何だ?』
『これ?おばあちゃんが私の為にくれた携帯だよ。昔はこれで家族と連絡を取ってたの』
『へぇ。その祖母は?』
『病気で亡くなったの……だから忘れない為に身に付けてる』
『良い祖母だったんだな』
『うん。蓮司君みたいに優しかったから……』
携帯を回収し、電源を点けると写真に1枚最近撮られた写真があった。
隠し撮りなのか少しボヤけてるが、家に侵入する男達が映っていた。
携帯は揉み合いになった時に落としたんだろう。男達は撮られているのに気づいていない。
「やっぱり面白い女だ、芹香」
携帯の写真を俺のスマホに送り、イーグルアイに写真を送った。
必ず助けてやるからな、待ってろよ。
一応警察に匿名で通報させ、家を後にした。
数時間後、イーグルアイから報告が入った。
『写真を解析した結果、男達の身元が割れた。中華マフィアの構成員だった。それこそ前に襲撃した奴等の残党だよ』
「芹香をどこへ運んだ」
『復元した監視カメラで車を特定し、東京の全監視カメラを調べた結果、東京郊外の廃倉庫に連れ込んだのが判明。今もそこにいる』
「敵は?」
『かなりいる。数分前に倉庫に増援が送られた。芹香を見張る訳じゃない、取り返しに来るお前達への対策だ』
「何人いても構わない。芹香を救出する」
『待った。大尉から伝言がある。倉庫に捕らえた男が言っていた別の工作員がいるから捕らえてくれ、だそうだ』
そこにも工作員がいるのか。マフィアを使って、好き放題やっているな。
「分かった。だが最優先は芹香の救出だ」
『警察に任せろと言ってた。潜入任務中のお前が会ったら正体がバレるぞ』
「SATの到着は最低でも10分はかかる。その前に人質の芹香は奴らに殺される。先に助ける方が良い」
『バレる危険性があっても彼女を救う価値があるのか?』
「……少なくとも俺にはある。バレなきゃいいだろ?顔は隠すよ」
目出し帽はそういう時に役に立つ。
『……分かった。私がサポートする。前のメンバーを待機させてる。やり方は任せるよ、ジョーカー』
ああ、俺のやり方で救出し、捕らえる奴を捕らえて他は殲滅する。
俺の手は力強く握られていた。
芹香は顔に被せられた袋を外され、新鮮な空気を吸った。
そして見えた景色は、家ではなく古びた部屋の中。
「すまないね。こんな所へ拉致っちゃって」
目の前にいたチャラチャラした男が芹香へ軽く謝罪した。
男が日本人じゃない事を鉛のある日本語で気づいた。それでもかなり日本語上手い。
芹香は男を警戒しながら目線を向ける。
「安心しな。目的が果たせたら家に返してやる。それまでは大人しくしてろ」
男がヘラヘラしながら芹香に伝えると、男の携帯の着信音が鳴った。
男はすぐに携帯を取り、電話に出る。
「是的,是我。 …… 是的,我去取我的“行李”。 现在我在“运输办公室”等。 …… 是的,我们不会转账,而是等待“交易员”。 回头见(はい、私です。……はい、"荷物"を取りに行きました。今は"発送所"で待機しています。……はい、移送はせず、"業者"を待ちます。では、後程)」
中国語で電話を終えた男は部屋の外にいた仲間を呼び、サインを出すと仲間は頷いてどこかへ向かった。
「お嬢ちゃん、良い餌になってくれよ」
男の言葉に自分が人質として利用される事を知った。
顔には出していないが、芹香は酷く不安になり、焦っている。
隠し撮りしたのでさえ、自分でも驚く程の行動だ。
自分が誘拐されたのを知ってくれる人を思い浮かべ、真っ先にある少年を思った。
「蓮司君……」
いじめから救ってくれたまた彼なら助けてくれると、妄想みたいな話だと思いながらも、深く祈った。
いつの間にか不安は和らいでいた。
同日の深夜。
用意された車で現地へ直行する俺達。
全員普段通りに車内でリラックスする。
俺は助けたい一心で早く救出したいと足を動かしてると、イーグルアイから連絡が入る。
『各員へ通達。廃倉庫のターミナルに複数の敵を確認。待ち構えてるぞ』
「どこから侵入すればいい?」
『出入り口や侵入可能な場所は敵に塞がれてる。正面が逆に良さそうだ』
「大騒ぎになりそうだ。警察の動向を探りながら監視を頼む」
『了解』
目標地点まで数百メートル。
俺達は銃のセーフティを外し、戦闘に備える。
窓から廃倉庫が見えてきた。車が倉庫のターミナル入口まで向かう。
しかし、入口から敵2人がAK-74を乱射し、車に弾を浴びせた。
ドライバーが撃ち殺され、車が道を外れて電信柱に激突した。
「クソ。車から降りて応戦しろ」
敵が撃っている方の反対側から降りて、美鈴とハンターが交戦する。
「お前は先に撤退しろ。ここまでサンキュー」
運転手と助手席の男は隊員ではなく、現地の協力者だ。
戦闘ができないので、先に撤退させておく。
「よし、やるぞ。まずは入口の敵からだ」
マフィアの構成員がAK-74を撃ちまくり、車を穴だらけにする。
その構成員を下がらせる為に全員で射撃する。
構成員の1人が肺を撃たれて倒れ、もう1人は奥へと銃を撃ちながら後退した。
俺達は後退したのを見計らって前進、ハンターがまだ生きている構成員にトドメを刺して、ターミナルへと向かう。
「コンタクト!正面!」
ターミナルから複数の敵が発砲してきて、俺達は近くのブロック塀に隠れた。
セミオートで応戦するも、敵がフルオートで撃ちまくってるせいで隠れざるを得ない。
距離は50メートルちょっとか。塀から出たら間違いなく撃たれる。
「どうするの?思ったより敵の火力が高い」
ハンターがドラグノフで応戦しながら俺に伝える。
「ジョーカー、正面突破は難しいぞ」
ああ、言われなくても分かってるよ。
敵がPKM汎用機関銃を用意して、俺達に向けて銃撃してきた。
マフィアがマシンガンを使ってまで防衛に徹するなんておかしい。人質がいるとはいえ、そこまで戦う義理もない筈。
やはり、工作員の指示によるものか。
『ジョーカー、警視庁に通報が入った。SATが5分で到着する』
悪い知らせどうも、イーグルアイ。
これで早くここから抜け出さないと警察の特殊部隊と鉢合わせになってしまう状況になった。
しかしどこへ抜ければいいのやら……。
「ジョーカー!10時方向に倉庫の非常口」
ラビットが倉庫の別の侵入口を見つけた。
ここから約100メートルの距離にある。非常口には敵はいない。
「よし、スモークを投げろ」
全員でスモークグレネードを投げて、煙幕を張って敵の視界を奪い、煙幕が張られている間に非常口へ移動する。
煙から敵が発砲しているが、あんな豆鉄砲に当たる訳がない。
何とか非常口に着いた俺達はすぐに中へ入った。
『イーグルアイ、侵入した。サポート頼む』
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