第一章学校潜入編 エピソード6

別の侵入口から倉庫へ入った俺達は1列になり、素早く廊下を進む。

まだ外にいると思っている敵を片っ端から片付け、少しずつ制圧していく。

外の敵がこっちに気づくのは時間の問題だ。上手くSATと鉢合わせになってくれると助かるんだが。

そう祈りながら倉庫の保管庫に出ると、油断していた敵と遭遇した。

こっちが先に撃って倒すが、残りの敵に位置を伝えられてしまった。

敵がわらわらと集まり、俺達に向けて発砲する。2階の足場にも敵が来ていた。

「ハンター、上に行って敵を片付けてくれ」

ハンターが隊員2人を連れて階段で2階に上がる。

俺とラビットで乱射している敵を倒しながら進み、先へと進む。

上の敵を倒したハンター達が援護してくれて、敵を倒すのが楽になった。

次々と撃ってM4A1の弾が切れて、G17拳銃で応戦していると、横から敵に奇襲された。

押し倒されて、敵にAKを向けられた。

すぐに拳銃で倒すが、後ろからも敵が来た。

その敵はハンターによって狙撃されて、頭部を撃ち抜かれた。

「ナイスショットだ」

『どうも』

全ての敵を倒した俺達は1階で合流し、保管庫を後にした。

ターミナルの敵がどうなっているか確認すると、入口に武装した隊員が集まっていた。

SATが到着したんだ。連中はSATに釘付けだ。

運が良い。入口に火力を集中させていたから、中は手薄な筈だ。

道中にいる敵は素人同然のマフィアだ。AKだってロクに扱えていない。

徐々に倉庫を制圧し、最後の事務室に着くと、ドアに鍵が掛けられていた。

俺がブリーチャーでノブを破壊し、中へ突入する。

中に入ると、芹香を人質に取っている男と会った。

「武器を捨てろ」

「お前らが、捨てろ!人質がどうなってもいいのか!」

敵が人質を取るのは予想していたので、敵と話ながら横に広がる。

「もうお前の手下はいない。俺達に殺されるより、警察のお世話になった方がマシだぞ」

「本気で言ってるのか!?捕まるくらいなら死ぬ方がマシだ!」

そろそろラビットが狙える位置に着くな。

俺が注意を引くか。

「どうして俺達を狙う?機密文書がそんなに大事だったからか?」

「知らねぇ!知りたいなら、リュウさんに聞けよ!」

リュウ?奴から名前が出てきた。

「だが、ここではなくあの世でな!」

敵が俺に拳銃を向けた。

その瞬間、ラビットが敵の頭を撃ち抜き、俺を救ってくれた。

敵と一緒に芹香も倒れ、俺が芹香を立たせた。

「大丈夫か?」

「は、はい……」

まさか俺が助けに来たとは思っていない芹香は呼吸を整えながら返事した。

目出し帽が案外役に立った。

「もう心配ない。警察が近くまで来ている。外に行けば保護してくれる筈だ」

「わ、分かりました……」

「1人で行けるか?」

「はい、行けます……」

芹香は呆然とした状態で部屋から出る。

SATの方も戦闘を終えて、ここに突入してくるだろう。

「じゃ、俺達は帰るか」

「私、喋らなくてよかったかもね」

「だな」

俺とラビットは芹香に顔を見られてる。ラビットの方は喋ったらバレてたかもな。

とりあえずSATに出会わないようにさっさと退散するか。


芹香は警察で一時的に保護される事になった。

学校には数日後に来れるそうだ。

ちなみに芹香が誘拐された事は警察で伏せている。

まだ芹香は未成年なので報道規制されたようだ。

俺達が介入した事は知らないようだが、第三者が芹香を救助した事は警察が助けた事になっていた。

まあその方が都合が良い。

敵が話したリュウという人物についてはイーグルアイが調査している。

その間、病院にいる芹香のお見舞いに時間を費やしていた。

「昨日は災難だったな。ま、しばらくは休んでおけよ。学校と話して、欠席ではなく出席停止にしておいたから」

「ごめんね。授業のプリントとか、ノートとか色々手間を掛けさせちゃって」

「このぐらいどうって事はない」

芹香の状態は良くなっている。このままいけば、本当に数日で退院できそうだな。

だが、誘拐された事は心の傷として残る。

芹香が俺の手を握ってきた。その手が震えてる。

「……ごめんね、こうしてないと落ち着かなくて……」

「……構わんさ」

やはりトラウマとして残ってるな。心のケアはもっと時間がかかりそうだ。

「でも、あの時に助けてくれた人達に感謝してるの。お礼を言いたかったけど、言えずに保護されたから後悔してる……」

「いつか、言える時が来るさ」

俺は芹香の手を握り返して呟いた。


その日の夜、イーグルアイがリュウについての調査結果を話してくれた。

リュウとは人名で、イーグルアイが中国のデータベースにアクセスして、1人の男を突き止めた。

リュウ・ジョーヴ。元中国軍の将校、今は傭兵として活動している。

イラクにいた中国軍の特殊部隊はリュウが選出した現役の特殊部隊員だと判明した。現役の隊員を引き抜いて派遣したらしい。

リュウは傭兵だが、中国との関係が続いていて、資金援助と人員確保を条件に中国の反乱因子を消していた。

機密文書の運搬もリュウがやっていた。だが、作戦時リュウは出払っていた。

その結果、現地のISは全滅し、回収の命令を受けた隊員も殺された。

リュウは中国政府から責任を問われている。機密文書がCIAに渡り、リュウの立場が危うくなっていた。

だから必死で俺達の事を突き止め、何度も刺客を放った。

それでも被害が少なく、このままではマズイと思ったリュウは俺の親友芹香を誘拐した。

誘拐の件は疑問だらけだった。

まずはどうしてリュウが俺とラビットが潜入している事がバレた?

この事は外に漏らさないよう伏せてあった。しかしヤツは見ず知らずの生徒ではなく、芹香を誘拐した。

つまり、奴らは俺に親しい人間を知っていて、俺が潜入しているのを把握しているのだ。

その事はイーグルアイも疑問に思っていた。

どこで潜入しているのを掴んだのか、今も調査しているそうだ。

可能性としては例のスパイが浮上してくる。

敵となる俺とラビットの正体を知り、中国側で始末するよう情報提供した、という仮説が立てられる。

引き続き調査を継続するよう伝え、通信を終えた。


3日後、教室に芹香が入ってきた。

風邪で休んでいたと思っているクラスメートは普通に挨拶する。

そして俺の元にやって来た。

「おはよう蓮司君」

「おはよ、元気そうだな芹香」

いつも通り軽く話し、ホームルームを受けて、授業を真面目に取り組む。

やはりこれが芹香だ。普段の芹香の姿を見られて良かった。

俺は真実を話さず、そのまま芹香を見守った。

芹香は今も俺の正体に気づいていない。

午後の授業を受けていると、美鈴からメールが来た。

『放課後、校門で待ってる』

一見するとただの誘いだと思うが、俺はそれを別の意味で読み取った。

芹香に妹と帰ると伝えて、放課後1人で学校を出た。

美鈴と合流し、2人で家に向かう。

「芹香は大丈夫?」

「多分な。意外に強いよアイツは。それよりも、何の用だ?」

「今夜、大尉とメンバーが日本に来る。中国の件を終わらせる為に」

その話を聞いて俺は心を震わせた。ようやくか。

「イーグルアイがリュウの居場所を特定。場所は横浜の埠頭よ。今、リュウが部下と高飛びの準備をしているそう。完了予想時刻は深夜」

「逃がすかよ。大尉達は?」

「もうすぐアジトに着くよ。そしたら、夜に横浜へ出発する」

「分かった。俺達も同行するよな」

「うん、というよりどうせジョーカーが行くと言って止まらないし」

分かってるじゃないかラビット。

「帰ったら準備するぞ。芹香の借りを返してやる」

「うん、友達を誘拐した罪を裁いてやるよ」

2人で芹香の借りを返すと誓い、急いでアジトへと向かった。


横浜にある埠頭、時刻は23時。

埠頭に停泊している貨物船に多くの中国人が動いていた。

波止場にあるコンテナを貨物船に載せている最中だ。

中国人の多くは体にスリングで56式小銃を所有している。

56式小銃は中国で開発されたAKで、3点バースト機能が付いている。

船の操舵室にいるリュウは静かに席に座り、煙草を吹かしていた。

船員がリュウに高飛びする理由を訊いた。

「琉桑,你怎么突然回老家了?(リュウさん、どうして本国へ行く事に?)」

リュウは部下に事情を伝えていない。知る必要がないからだ。

しかし何も知らせず、不満で反抗されたら元も子もないので、操舵室にいる船員には話す事にした。

「因为我搞砸了我的使命。 机密文件被美国窃取,雇佣的部队未能摆脱它们。 人质行动也失败了,这里的活动已经不可能了,所以我要回国了(任務をしくじったからだ。機密文書がアメリカに奪われ、雇った部隊の始末も失敗した。人質作戦も失敗し、もうここでの活動は不可能になったから本国へ帰るんだよ)」

リュウは今まで中国政府の命令で、どんな任務も成功してきたが、今回は大失敗を犯してしまった。

本国へ帰っても処罰は免れないが、国内なら隠れられる場所が多いから身を潜めればいい。

どうせなら、ここで連れていく部下を選らんでも構わないと思っていた。

「那个单位是什么?(その部隊って何なんです?)」

船員からそう訊かれ、リュウは噂を伝えるかのように話した。

「这是一个黑暗单位。 它是一个不属于任何地方并通过合同执行任务的单位。 不像雇佣兵,它不是为了钱买的。 一旦签订合同,即使其他人要求,您也不能要求它完成。 真是一门手艺(闇の部隊だ。どこにも所属せず、契約で任務を遂行する部隊だ。傭兵と違うのは、金で買収されない所だ。一度契約すると、他が依頼しても終わるまで依頼できない。かなりの職人気質だ)」

「单位名称是什么?(その部隊の名前は?)」

「黑色行动。 之所以如此命名,是因为他们的工作是一项黑暗的任务。(ブラックオプス。奴らの仕事が闇の任務だからそう名付けられたそうだ)」

ブラックオプスは正体不明の謎の組織だ。

人員、装備、兵器、資金、本拠地などあらゆる情報が不明。

分かっている事はかなり少ない。

兵器を保有しており、メンバーはかなりの精鋭。

依頼人は諜報機関や軍が主だ。たまに他の人間から依頼される事がある。

ブラックオプスと戦った人間は、死ぬか重傷を負わされる。

そして、彼らはどんな依頼も成功する実績がある。

リュウも断片的な情報しか知らされていない。

前に上海でブラックオプスの部隊が活動していた時、当局は事態に気づくのが遅れた。

隠密作戦を成功させ、当局が気づかないように静かに行ったからだ。

「这样的人从现在开始攻击。 我要疯了(そんな奴らがこれから襲ってくるんだ。気が狂いそうだ)」

リュウは頭を抱えて、煙草のニコチンを吸った。

船員は襲撃されると聞いて不安を抱いていた。

そして、外にいるリュウの手下はこれから襲撃されると思わずに作業していた。

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