第一章学校潜入編 エピソード7
『全隊へ、目標がいる船と波止場に複数の熱源を感知。作戦時の障害は今の所はナシ』
「了解、全隊。奴らに俺達の恐ろしさを教えてやれ!」
『了解!』
横浜湾で貨物船に向かって走るボート。
3台のボートにはそれぞれ6人の隊員が搭乗している。
その1台に俺はボートのロープを掴んで、海に落ちないように踏ん張っている。
全速力のボート、そして高い波は乗っているだけで精一杯になる。揺れで落とされる可能性が高いのだ。
『スナイパー班、準備は?』
『こちらハンター。配置完了』
埠頭から数百メートル離れた高速道路の橋の下の鉄骨でハンターと2人の狙撃手が待機している。
監視及び狙撃が彼らの役目だ。
そろそろ船が近くなったな。
俺が合図を出すと、俺達のボートは急減速し、ゆっくりと船に近づく。他のボートは左右へと展開した。
侵入する右舷に人は見えない。
警戒しながらボートを右舷にくっつかせ、ボートを停めた。
「出番だぞ」
俺はラビットに声をかけて、背中を押す。
「はいはい。面倒なのやりますよー」
ラビットは手に特殊なグローブをはめて、ベルトにロープを着けて船に手を着ける。
すると、グローブの表面が吸着し、ラビットはすいすい上へと上がる。
アメリカ軍で試験運用中の吸着グローブだ。侵入や偵察の時に崖や高い場所へ上がるのに使う。
ラビットが登っている間、スナイパー班が援護する。
一番早く登ったラビットが右舷の甲板の柵に着いた。
Five Seven拳銃を構えて周囲を警戒し、敵がいない事を確認して、柵にロープを縛ってから俺達に合図を送った。
ボートにいる俺、大尉、隊員3人はロープでラビットがいる甲板へと上がる。
素早く上がり終えると、全方位に俺達は銃を構えて警戒した。
「ブラボー1だ。シップ通過」
『了解、ドローンでそちらをサポートする』
イーグルアイが小型ドローンで貨物船の敵の動向を監視する。
静かに隊列を組み、後部の操舵室へと向かう為に甲板を通る。
甲板には間隔を開けてコンテナが積まれており、細長い道を進む。
このコンテナに何が積まれてるのか分からないが、よからぬ物なのは間違いない。
大尉が先頭で、前を進んでいると、コンテナの角から敵が現れた。
すぐに排除し、俺達を連れて先へと進んだ。
『ブラボー1、12時方向から警備が接近』
「了解、隠れるぞ」
俺達前から来る敵を奇襲する為に隠れ、敵が来るのを待つ。
大尉がナイフを持つと、角から敵が現れたのを機に敵を掴んでコンテナに押し付け、ナイフを首に刺した。
その時に敵が後ろから現れたが、俺が始末した。
「よくやった」
敵の亡骸を捨てた大尉が俺を誉め、そのまま船室がある建物まで向かう。
扉の前に着くと、突然警報が鳴った。
死体がバレたようだ。
「問題ない。想定の範囲内だ、イーグルアイやれ」
『了解。真っ暗にする』
イーグルアイがそう言った数秒後、貨物船の照明が落とされた。
その後に暗視装置を装着し、俺達は船内へと足を踏み入れた。
船内から敵が騒いでいる声が響いた。
イーグルアイのハッキングが役立っているな。
そのおかげで視界が悪い敵を仕留めるのが楽だった。
たまにAKを乱射しているヤツがいたが、見当違いな方向へ撃っていたので問題なかった。
『船へ向かう敵を確認、攻撃許可を』
『許可する。ハンター、敵を船に乗り込ませるな』
ハンター達が狙撃を開始し、波止場の敵を足止めした。
これで敵は容易に船に接近できない。
とはいえ、これで襲撃がバレた。これまで通り楽にはいかない。
操舵室へと階段を上がりながら敵を倒していると、船内放送が流れた。
『是敌人的攻击! 拿起你的武器并反击!(敵の襲撃だ!武器を取って応戦しろ!)』
放送で不安がっている敵の一喝したようだ。
しかし、この暗闇の前では無意味だろう。
こっちは暗視装置を着けているから丸見えだ。
数分で一番上まで上がり、操舵室の扉の前に配置につく。
扉は鋼鉄製の強化扉で、鍵が掛かっていた。
「どうする?」
「ヒートパットを用意しろ」
隊員が扉に大人の上半身くらいの大きさの爆薬を張り付ける。
真ん中の信管を作動させ、少し離れると隊員がスイッチを押した。
すると、爆薬からシューと焼き切るような音が鳴り、火花が散った。
爆薬の外側が焼き切れると、内側の爆薬が爆発し、扉を吹き飛ばした。
「手榴弾」
ラビットがグレネードを投げ込み、操舵室に爆発を起こしてから突入した。
中に負傷した船員と逃げ出す男がいた。
大尉が男の足を撃って転ばせ、俺が男を捕獲した。
大尉はイーグルアイから貰った写真を見てリュウ本人なのか調べる。
「大当たりだ、リュウ本人だと確認した」
『了解。急いで撤収して』
隊員が拘束したリュウの服を掴み、俺達は操舵室から出ようとする。
すると、外から複数の曳光弾が貫通してきた。
「伏せろ!」
全員が床に伏せて、外の銃撃を避ける。
「イーグルアイ、マシンガンの攻撃に遭っている!位置を知らせてくれ!」
『敵の重機関銃がそちらの南約100メートル先にいる。ボートで移動している』
重機関銃だと?一体何を考えてやがる。
周りに気づかれるなど、奴らは気にしていないのか?
「このままでは殺られる!スナイパー班、狙撃可能か?」
『止まってくれないと無理だ。それに距離がある』
スナイパーの狙撃は無理か。
「とりあえずここを出るぞ。姿勢を低くして移動だ」
体を低くして、操舵室から離れた。
敵の重機関銃の弾が切れるまでひとまず耐えるしかない。
船内の敵は重機関銃で好戦的になっていたが、相変わらず素人のままだった。
すぐに俺達に撃ち殺された。
甲板に出ると、姿を見たボートが重機関銃で攻撃してきた。
コンテナに隠れて銃撃を凌ぐ。
しばらくの間、多くの大口径のライフル弾を避けて隠れていると、銃撃が止んだ。
「弾切れだ!攻撃しろ!」
リュウを取り押さえている隊員以外の俺達は右舷に移動し、後退しているボートを攻撃する。
波や遠いのもあって狙いにくかったが、何とかボートの敵を片付けた。
『ブラボー1、警察がそちらへ接近。到着まで3分』
「了解、火を放て」
俺はM203に焼夷弾を装填すると、波止場や船に向けて発射した。
持ち込んだ焼夷弾が切れるまで発射し、埠頭を火の海にした。
隊員のMGRもあって、火の勢いが高くなって良かった。
「下のボートに乗るぞ」
柵にロープで縛ったボートに乗り込もうとするが、ロープが切れていて、船が遠ざかっていた。
こんな時にロープが切れるなんてな。
「仕方ない。飛び降りろ」
意を決して横浜湾の水の中に飛び込み、泳いでボートに乗り込んだ。
最後尾の隊員が乗り込み、ラビットがボートのエンジンを動かす。
『スナイパー班、撤収する』
『了解。大尉のチームは離脱し、他のチームは大尉のチームを援護しろ』
ずっと周りを周回していたチームのボートが戻ってきた。
俺達の左右を並走し、また襲撃が来るのを予想して備える。
『ホットゾーンを離脱。周囲に敵はいない。作戦成功だ』
「警察は?」
『火災のせいで足止めされている。効果抜群だ!』
「よし、この男から情報を引き出し、中国と取引だ。ヤツは中国の汚れ仕事をやっている。証人として裁判にかけさせよう」
『仲間を襲ったツケを払わせてやれ』
「分かってる。今は帰ろう、それから次の作戦に動く」
もう仲間が外部から攻撃される心配はなくなった。
芹香の借りを返せたし、これ以上にない成功だ。
俺がリラックスすると、大尉が俺に声をかけた。
「ジョーカー、現地の人間に深入りしているな」
芹香の事を言ってるのか?
「問題でもあるのか?」
「いや、それだけ気に入ってるなら構わない。だが忘れるな。任務が終わったら彼女とは会えなくなる可能性が高い」
「……分かってるよ」
「ならいい。俺達は非正規だ、その事を胸に刻んでおけ」
大尉はそれだけ言うと、視線を逸らして反対側を見た。
俺が所属しているブラックオプスは秘密主義、完璧主義な組織だ。
故に個人的な感情を持ってはいけない。
だが、俺はそうは思っていない。
そんなロボットみたいな生き方は心の底から嫌だ。
俺は俺らしく生きて行動する。
組織の中でも上位な俺だが、組織に忠誠を深く誓っていない。
何故なら、俺は自分を縛られるのが嫌いだからだ。
潜入任務は必ずやり遂げるさ、だが。やり方はこっちのやり方でやる。
俺のやり方で、スパイを見つけ出してやる。
それから何日も経った。
俺は学生として学校に休まず行っている。
隣の芹香と仲良くなり、よく2人で過ごす事が多くなった。
いじめっ子の奴らを学校から追い出したと思っている生徒から何故か信頼され、知らずに人気者になっていた。
目立たずに行いたかったが、そのまま任務を行おう。
別にデメリットが多い訳じゃないからな。
「…………」
俺は窓から見える青空を見上げる。
イーグルアイからの報告を思い出した。
『剛力伝治の調査が終わったが、妙なんだ。名前は偽名、戸籍もそうだった。この学校へは偽装工作して入学している。また、国籍も偽装だから日本人じゃない可能性がある。お前の言う通り、怪しいヤツだな。警戒しておけ』
伝治の謎は残ったままか。黒なのか白なのかも不明。
分かっているのは、奴は俺がただの学生じゃないと気づいている事だ。
敵か味方かも分からない、不気味な奴だ。
「蓮司君。そろそろ理科室行くよ」
「ああ。分かった」
だが、それでも俺はこの任務を完了させる。
俺はプロだ。いかなる状況でも、完璧に遂行する。
幸いこの任務の期間は長い。
なら、じっくりスパイを探しながら、この学生の身分を楽しんでやるさ。
第一章_完
大尉、リュウを尋問し中国の機密情報を入手。
情報で中国政府と取引、組織に利益を与えた。
その事を知ったスパイは、ジョーカーの動向を探る事に決めた。
また、伝治はジョーカーを逐一観察する事にした。
神聖学園はいじめがあった事について教育委員会に問われ、再発防止を努める事を条件に不問にされた。
~第二章へ続く……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます