第一章学校潜入編 エピソード4

『中国軍の雇われに襲われた?どういう事?』

「さあな。ただ目的は俺の殺害なのは間違いない」

俺は数時間前にあった事を報告した。

『目撃者は?』

「いない。それどころかニュースにもなっていない。後で処理されたんだろうな。痕跡は残してない」

『そう。それなら良かった。で、中国人の身元は?』

「多分調べても載らないと思うぞ。中国の暗部の人間だからな」

『スパイの可能性は?』

「多分ない。そうだったらもっとヤバかった」

『中国と言えば、前に中国軍の特殊部隊と交戦したんだよな。それ関係か?』

「そうだろうな。中国軍と言ってやったら反応した。関係している可能性が高い」

『調べてみる。それと、大尉からあの機密文書を聞いたんだが』

「CIAに渡す前に調べたのか?」

『目的の物についての情報が少なかったから大尉が調べてくれた』

あの機密文書の中身は何だったんだ?

イーグルアイから聞いた話は不穏な感じがした。

機密文書にはアメリカへ送られる武器のリストが書かれていた。

武器は全て闇ルートから仕入れた足のつかない物。

空輸で東南アジアからアメリカまで工場用金属部品に偽装して運ばれるそうだ。

『これは、アメリカにいるヤバい組織に運んで、テロ活動を支援するつもりみたいね』

「それがどうして中国軍が狙う?」

『武器の仕入れを指示したのが中国政府だ。その証拠を隠滅しに部隊を回したんだと思う』

「黒いな。俺に刺客を送ったのはその報復か」

『実は昨日、任務中の部隊が傭兵に襲われた。全員生きてるけど、2人重傷を負った』

「傭兵の身元は?」

『インド人の傭兵だけど、中国の工作員から雇われたって吐いたわ』

なるほど。中国は俺達が横槍を入れたのを把握しているのか。

「CIAにこの事を訴えたか?」

『シラを切ってる、この事を知ってた可能性が高い』

特殊任務に陰謀や政治的関与は付き物だ。

特にどこかに所属していない俺達にとっては根深い。

「このままだと危険だな。対策はとってるか?」

『勿論。大尉が先導して進めてる。ジョーカー、お前は日本で潜入任務を進めながら別の任務を与える。私の調べによると、指示を出した工作員は中華マフィアに扮している。その方が動けるからな。本部は横浜だが、その近くに支部がある。そこに工作員がいる』

「了解。近いうちに強襲する。美鈴にも伝えておく。武器と隊員を回してくれ。2人ではマフィアの拠点を攻略するのは厳しい」

『既に武器は発送済み。明日、ハンターと一般隊員2名が日本に着く。そこの場所は伝えてある』

ハンターか、ヤツと組むのか。

「分かった。情報が入ったらまた連絡しろよ」

明日の夜、マフィアの拠点を襲撃する。仲間を傷つけたんだ。落とし前はつけさせてもらう。


翌日、芹香と一緒に授業を受けていると、スマホにメールが入る。

『ピーポー通過』

ピーポー、ハンター達が来たか。

時刻は15時ちょっと、16時半に帰宅する。

美鈴にすぐに帰宅するようメールで連絡し、授業に目を向けると、芹香が話しかけてきた。

「あまりスマホ授業中に使わない方がいいよ。先生に目をつけられちゃうから」

「気を付けるさ。お前は真面目に勉強してるんだな」

「良い大学に入りたいから、勉強しないと」

「あまり無茶するなよ。助けがいるなら声を掛けろ」

「うん、英語はお願いするよ。苦手だから」

「任せておけ」

芹香はあれから良い顔になった。

潜入任務では、潜入先の人間との友好関係は築いておかないといけない。

信頼されれば自分が怪しまれる心配はない。

だが、少しは高校生活を謳歌したいものだ。案外楽しいからな。


学校が終わり、美鈴と家に帰ると、中に仲間が待機していた。

「お帰り。学校は楽しい?」

「思ったよりな、ハンター」

出迎えたのはフード付きの服を着た銀髪の白人の少女。瞳は黄金色、大人しそうだがまるで狼のような目だ。

コイツは俺らの1つ年下の隊員、ハンター。猟師の家庭から生まれた。

訳あってこの部隊に所属している。

「隊員も来てる。襲撃するんでしょ?時間は?」

「日付が変わった時に襲撃。それまでに拠点近くで待機する」

「武器はこっちよ」

リビングに行くと、隊員2人が武器の手入れをしていた。

「あなた達の武器は机にあるよ。装備一式もそこだから、準備して」

俺達は一旦部屋で仕事着、戦闘服に着替え、それから自分達の装備を準備した。

ベルト、アーマー、装備ベストを着け、ベストやポーチなどに装備品を取り付ける。

サプレッサー付きのM4A1も手入れし、ブリーチャーもスリングで肩に掛ける。

美鈴も準備を終え、そして全員が戦闘準備を整えた。

「さて、指揮権はジョーカーにあるよ。指示を」

ハンターの装備は軽い。サスペンダーは着けているが、アーマーを着けていない。

武器はSUVドラグノフ狙撃銃。

ロシア製のライフルで、精度の高い狙撃が可能だ。

彼女は固定の4倍スコープに、横のキャンディーサイトを着けている。

銃口にサプレッサーを着け、レーザーも左側に装着されている。

全長が長く、重量のある狙撃銃を彼女はしっかり背中にスリングで背負っている。

腰にはM1911A1拳銃、マチェット。

「車は?」

「そろそろ着く。そのまま現地へ向かうよ」

「目標が見える場所で待機する。車が来たら電気を消して素早く乗り込め」


数分後、車が家の前に停まり、明かりを消して車に乗り込んだ。

車はマフィアの拠点まで飛ばし、30分にも満たない時間で目標近くの路肩で停まった。

拠点は中華料理店、正確にはその上の階の居住区だ。

表向きは従業員用の部屋だが、そこをマフィアの構成員が根城にしてる。

隊員が最新鋭の小型ドローン、ブラック・ホーネット・ナノの改良型を飛ばす。

その操作をオペレーターのイーグルアイに任せる。

『ドローンの映像良好。偵察開始』

ドローンが目標の建物に向かって飛行する。

10×2.5という小さなブラック・ホーネット・ナノはノルウェーが開発した無人偵察機で、前に1つと下に2つのカメラを搭載している。

暗視機能を備えているタイプで、高画質の映像と画像を映し出す事ができる。

改良したのは長持ちする専用のバッテリーを取り付けて、飛行時間を長くした所だ。1時間は飛ばせる。

『偵察完了、料理店には民間人しかいない。2階、3階には複数の人間を確認する。料理人には見えない』

マフィアだろうな。

『数は2階に5人、3階に6人。1人はさっきから電話してる』

「ソイツが例の工作員だ。監視しろ」

『了解。ちなみにマフィアは懐に拳銃がある。3階にはAKが置かれてる』

「奴らに撃たせない。先制攻撃で倒す」

発砲されたら騒ぎに発展するからな。

「侵入できそうな所は?」

『建物の路地裏に非常階段がある。そこから侵入できそうだ』

「了解。1階は店が繁盛しているから音の心配はない。おい、裏手に車を停めろ」

ドライバーに指示し、車を店の路地裏に停めさせる。

じゃ、お仕事開始だ。

車から俺達が降りて、一列で非常階段を上がる。

車は呼ぶまで適当に走らせておく。

2階まで上がり、非常口の前で止まる。

「イーグルアイ、扉の前に敵は?」

『いない。だが、数メートル先に敵影2人を確認。他は部屋の中よ』

2人だけ廊下にいるのか。

『背を向けてるから今なら大丈夫』

なら、やる事は決まった。

隊員がバールで扉をこじ開け、俺達は建物へ侵入する。

廊下にいた構成員が振り向いたが、先に俺が発砲して2人を倒した。

それから宿泊部屋に1つずつ突入し、構成員がいれば迷わず射殺する。

幸いにも奴らに発砲させなかった。

1分で2階に上がり、階段で待機して様子を伺う。

廊下に誰もいない。全員部屋の中か?

「イーグルアイ、敵はどこにいる?」

『敵はそっちの9時方向の奥の部屋に集まっている。電話していた男が呼び集めた模様』

「了解」

イーグルアイからの報告を聞き、俺達は奥の部屋まで素早く、静かに走る。

部屋の扉の前で突入態勢に入り、イーグルアイに指示を出す。

「イーグルアイ、部屋の電気を消せるか?」

『少し待て…………準備完了。指示を出せば電気を消す』

「ナイトビジョンに切り替えろ」

俺達は暗視装置を装着し、暗闇に備える。緑色の視界で扉が鮮明に見える。

「やれ」

指示を出した数秒後、3階の照明が落とされた。

部屋の中から中国語で騒ぐマフィアの構成員の声が聞こえる。

鍵が掛けられていたのでブリーチャーでドアノブを破壊し、蹴破って突入。

横に展開し、俺達はマフィアの構成員に向けてセミオート射撃。

奴らが銃を抜く前に倒した。

真っ先に姿勢を低くして俺達の射撃に巻き込まれなかったヤツが手を挙げて投降してきた。

ハンターが武器を取り上げ、バンドで手首を縛った。

「イーグルアイ、敵を捕らえた。コイツが電話していたヤツか?」

『ああ。間違いない』

ハンターが俺に男を差し出し、俺は男に話しかける。

「お前が工作員だな。米国でのテロ工作について、そして俺達への報復について話してもらう」

「……フフフ、ハハハハハハ……!」

急に男が笑い出した。

「何が可笑しい?」

「もうすぐお前達は死ぬ。あの文書を見なければ死なずに済んだのにな。死が近づいてくるぞ」

俺は最悪の想定を考え、イーグルアイに連絡を取る。

「イーグルアイ、状況は?」

『総員に告ぐ。正体不明の敵がそちらへ接近。1分で到着する』

「コイツ、先に仲間に連絡していたんだ。罠に掛かったな」

ハンター、それは言われなくても分かってる。

流石工作員だ、自分が狙われているのを知って、前もって仲間を呼ぶとはな。

「外で交戦すると目をつけられる。ここでやるぞ。ハンター。廊下に仕掛けてこい」

「了解」

「美鈴はソイツを見てろ。邪魔なら暴力で黙らせろ。他は俺と来い」

美鈴に工作員を任せ、他のメンバーで部屋から出る。

俺と隊員2人で部屋からソファー2つを出して、それらを床に倒して遮蔽物代わりに使う。

ハンターは背中のバッグからワイヤーと何本もの釘で刺さったスチール缶を出して、それを階段から少し離れた場所に壁と壁にワイヤーを張って仕掛けた。

それからハンターがこっちに戻り、ドラグノフを持った。

「即席のIEDよ。引っ掛かれば缶の中の信管が作動してボン!」

「敵を待ち受けようぜ」

美鈴以外の4人で銃を持って敵を待っていると、奥から足音が聞こえた。

遮蔽物に体を隠し、角から顔を覗く。

階段と非常口から合計5人の武装集団が現れた。

AKS-74Uを構えながら陣形を作って接近している。

俺はハンドサインで爆発したら撃つよう命じる。

安全装置を外し、敵が引っ掛かるのを待つ。

敵がゆっくり進み、こっちへと近づく。

2番目の男が足にワイヤーを引っ掛けた。

爆弾が爆発し、1人が即死し、残りは体に釘が刺さって体勢を崩した。

そのタイミングを狙い、4人で一斉に射撃して男3人を片付けた。

敵を全て無力化した俺達は部屋へ戻ると、顔にアザがある男と美鈴が待っていた。

「その傷は?」

「逃げようとしたから銃で殴った」

なら、その傷は仕方ないな。

男を連れて建物から出ると、裏路地に車が待機していた。

男をトランクにぶち込み、俺達も座席に座った。

「イーグルアイ、ショッピング通過」

『了解。男の尋問はハンター達に任せ、ジョーカーとラビットは任務に戻れ。家の近くで降ろす』

「分かった。装備は返却する、通信終了」

イーグルアイとの通信を終えて、一息つく。

「腕は落ちてないようね。安心したよ」

「日本でも訓練ができるからな」

俺の腕に安心したハンターに種明かしすると、首を傾げた。

その言葉を理解するには、学園に来ないとな。

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