第一章学校潜入編 エピソード3

翌日、美鈴と登校していると、美鈴がネットニュースを見せた。

内容は「大物政治家の賄賂発覚!?過去の不倫が掘り返され、大慌て!!」だ。

「匿名のタレコミから発展したんだって。もしかして蓮司、あなた……」

何の事やら、記憶にないな。匿名の奴が暴いたんだろ。

俺はそんな事は知らない。世の中は不思議なもんだなぁ。

学校に着くと、生徒達はあのニュースで騒いでる。

同じ学校の生徒の親がスキャンダルで取り上げられてるんだ、話題にもなる。

先生方はマスコミ対応で忙しく、一限は自習となった。

やはりかとクラスの皆は大騒ぎ。

ここまで騒ぐのは、あの大男とギャルと取り巻きが学校に来ていないからだ。

ま、外には出れないな。マスコミのしつこさは嫌悪感が出る。

このまま自主退学かな。あんな事があって学校に来れる訳がない。

そこへ、芹香が隣の席に座った。

「おはよう、蓮司君」

「おはよう芹香。少し顔色が良くなったな」

「久しぶりに気持ち良く寝れたかな?」

「それは良かった」

その言葉で俺のした事が少しでも報われる。

「ニュース、話題になってるね」

「ああ。少し騒ぎすぎかもしれないが」

「あの人達も学校に来てないし、平和が来た気がする……。何だか夢みたい」

「現実さ。これから奴らに何かされる心配をしなくていい」

そう言うと芹香は苦笑してそうだね、と返事をした。

俺としても奴らの存在は目障りだったから、これでまともに潜入ができそうだ。


二限は数学、計算の時間だ。

計算は任務でもよく使われる。標的の歩行スピード、建物の高さ、広さ、面積、狙撃時の弾道計算などのにも使われる。

なのでこれは簡単に理解できる。苦手なクラスメートが多いのが不思議だ。

三限は化学、これは俺は真面目に取り組んだ。

爆薬の原料や敵の使用する爆弾や化学兵器の特定など、使える幅は多い。

最近は手軽に作れる手製爆弾が出回って厄介だ。

この前の任務では中米の民兵が仕掛けた手製のブービートラップで新入りがぶっ飛んだ。

火薬が多く、中に破片を積めていたから新入りは穴だらけになって死んだ。

その前はえVXガスで死んだ隊員もいた。

兵器を知るにはその兵器に使われた原料を知る必要があるから、化学は真面目に取り組む。

それで三限が終わり、芹香と一緒に食堂で昼飯を食べる。

すっかり芹香は笑顔に溢れ、俺と楽しく話した。

ちなみに美鈴は転校初日からクラスの人気者で、男女問わず常に誰かと一緒にいた。

友達のコミュニティーを築き、スパイを調べるのだろう。

ヤツが仕事しているなら、こっちもそうしないとな。

「ねぇ、蓮司君はどこか入りたい部活はないの?」

「部活?」

そういえば調べた時に出たな、確か幾つもの部活があるんだろ。

「今の所は考えていない」

「なら、明後日私が所属しているサークルに来てよ。多分蓮司君に合うと思うから」

「了解。ちなみに何て名前だ?」

「それはね……」


2日後の放課後、俺は芹香にそのサークルの部室に案内された。

場所は学校の裏庭、広いプレハブの建物の中だ。

入ってみると、予想が的中して頭を抱えた。

「マジかよ、サバゲーのサークルかよ」

「気軽に楽しめるゲームだよ。意外に体使うよ」

「ま、今はバトルフィールドで弾が飛び交ってるな」

俺と芹香がいる先ではサークルの生徒がチームデスマッチをやっていた。

使っているエアガンは銃刀法に引っ掛からない、認可された銃だ。

非殺傷で、当たっても死なない。目に入ったら失明するかもしれないが。

実はエアガンで訓練している軍隊は多く、サバゲーを通して経験を積んだ傭兵やPMCが少なからずいる。

そんな奴らはすぐに死ぬのがオチだが。

芹香が俺を連れてフィールドの周りを歩き、机に座っている上級生に挨拶した。

「先輩、友達を連れて来ました」

「珍しいな。お前が勧誘をするなんて」

身長やガタイが俺より大きい屈強な男が俺を見てくる。

立ち上がると、俺と握手した。

「例の転校生だな?俺は剛力伝治だ」

「白銀蓮司だ、よろしく」

「ここの事は芹香から聞いたか?」

「まあ、それにしても名門校にサバゲーサークルがあるとは思わなかった。珍しい」

「俺が立ち上げたんだ。趣味でもあるが、気分転換に良い」

「何となく分かる。で、ここは緩くやるのか?」

「まあな、だが。新入りには始めに今の射撃技術を他の連中に見せる。来い」

伝治と一緒に来たのは室内射撃場だった。

射撃技術や精度を鍛える為の部屋だ。

「ほれ、これをやる」

伝治に渡されたのはM1911、別称ガバメントと呼ばれる45口径の自動拳銃だ。

エアガンだが、重さや動作は再現されてるな。

スライドを引き、薬室を調べ、マガジンを抜いて問題がないか確かめる。

それを見ていた伝治が俺に質問してくる。

「使い慣れてるな」

「アメリカは銃社会の国だ。ここに来る前はかなり撃ってた」

「そうか。じゃ、俺にその実力を見せてくれ」

ずいぶん期待するじゃないか。

他にもサークルのメンバーがギャラリーとして見に来ている。

なるほど、思ったより真面目にやるんだな。

なら、気を緩めずに普段通り撃つか。

マガジンを装填し、射撃台に立ち、前に構えて15メートル先の的へ射撃した。

途中でダブルタップや近接時の構えで射撃し、弾が切れるまで撃ち続けた。

周りからざわめきが起きる。

的が自動でこっちに向かって来て、結果が分かった。

「ざっとこんなもんか」

ほとんどが赤い中心点に命中し、赤い部分が破けていた。

エアガンとはいえ、日本に来てからも訓練は怠らないようにしないとな。

「凄い、ほぼ真ん中に……」

芹香が驚きで小声で呟く。

「お前、射撃経験が豊富だな」

背後から伝治が詮索してくる。

「しかも聞き齧って撃った訳じゃない。長い訓練を経て精密に弾を的に命中させている。銃を握るのは結構経つのか?」

「まあな、それ以上の詮索はよしてくれ」

俺はガバメントを置き、伝治にこう言った。

「あんたの目にはどう映った?合否を聞きたい」

「……合格だ。明日から放課後に来ると良い。他の仲間も歓迎する」

「そうか。決められた日に参加する訳じゃないらしいから、気が向いた時に行くよ」

ここで潜入任務中でも訓練ができる。

伝治はリアルを追求している男だ、他のメンバーに俺みたいな射撃経験のある人間はいなかったから興味を持ったのだろう。

まだ正体には気づいていないが、俺がただの銃愛好家じゃないのは勘づいている筈だ。

一応念を押しておくか。


それから1週間、学校生活を送りながらスパイを調べた。

しかし目ぼしい成果はない。そもそも学校にスパイがいるなんて普通の人なら信じない。

在籍している学生全員の情報を漁ったが、ちゃんと偽装されていて痕跡はなかった。

これはかなり長期戦になるな。俺の事は転校生としてかなり知られている。

俺と同じく素性を隠しているなら、外部の人間を警戒する。

相手が動かない限り、こっちから動くメリットもない。

美鈴と連携して、スパイが引っ掛かってくれるのを待つしかない。

現状情報が何もないから、スパイのボロを探すしかない。

そう思って、今日は1人で帰りながら考えていた。

芹香はあのサークルへ、美鈴は友達と遊ぶそうだ。

美鈴はクラスでは人気者、1人になれる機会があまりないそうだ。

ま、あの可愛さなら仕方ないか。

歩行者天国の歩道を歩き、しばらくすると背後から気配を感じた。

このトゲみたいな視線、不審者にしては真っ直ぐだな。

後ろに視線を向けると、フードを被った若い男が近づいて背中に何か突きつけた。

……サプレッサーか。ポケットに入れられる程の大きさの拳銃。

何が目的なのかは知らないが、とりあえず大人しく従った方が良いだろう。

背後の男に従い、銃を向けられたまま裏路地へ連れ込まれた。

そこへジャージを着た日系人の男。

「誰だ?」

「…………」

シカトか。それか話す気がないって事か。

目の前の男はジャージの袖からサプレッサーが装着されたマカロフ自動拳銃を出した。

「殺る気か?」

「…………」

相変わらず答えないが、冷徹な目から本気だと分かった。

さて、このまま撃たれる訳にもいかないから、抵抗させてもらう。

突き付けている銃を片手で掴み、こっちに引っ張って引き金を引かせて前の男の脇腹に弾を命中させる。

後ろの男にエルボーを食らわせー、足で地面に倒して奪ったG29C拳銃で撃ち殺す。

銃声はサプレッサーで小さく鳴る。人に聞かれる心配はない。

前の男を見ると、まだ生きていたので手にしている拳銃を蹴って遠くに飛ばした。

「お前……何者だ?どうして俺を狙った」

「……妈的,这小子……!!(クソ、このガキ!!)」

ほう?中国語で話すのか、という事は……。

「中華マフィアの構成員か?」

いや、マフィアが殺しでサプレッサーを使うとは思えない。殺るなら派手にそのまま撃つ。

しかも撃つのは防音性のある建物の中だ。それに銃を使わずとも色んな殺し方で殺す。

「そういえば、前に中国人に会ったな。金を掛けた戦闘装備の男達と」

「…………」

「マフィアなら冷徹な目にはならない。その目は殺しのプロの目か、軍人の目だ」

「…………」

「分かる言葉で言ってやろう、你是中国军人吗?(お前は中国軍の人間だな?)」 

そう言ってやるとピクリと眉をひそめた。

図星か、しかし中国軍がそのまま軍人を送る筈がない。

「雇われだな、誰に雇われた?」

「……我不会和你说话。 你应该拍它(話す事はない。くたばるといい)」

かなり生意気だな、話す気がないならいいや。

「じゃ、とっととくたばれ」

「等一、(ちょっと待……)」

手を上げて制止した気がするが、その時には引き金を引いて頭を撃ち抜いていた。

銃を持ち主に返して、指紋を拭き取った。

その拳銃を手に握らせ、相撃ちになったと偽装する。

監視カメラがなく、人通りがないのはこっちも都合が良い。

皮肉にも自分達が用意した場所で死ぬ事になった。

「帰るか」

俺は聞きたい事を聞く為にその場から立ち去った。

これがスパイの差し金か中国の連中かは分からないが、俺の存在が気に入らないらしいな……。

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