第一章学校潜入編 エピソード2

授業が全て終わり、放課後の時間になった。

芹香のいじめはまだ終わっていない。しばらく側にいよう。

「芹香、これからの予定は?」

「えっ?ないけど……」

「なら妹が来るまで話さないか?この学校には、食堂があるだろ。話し合いの場に使える」

「……どうして私に構うの?」

「初めて会う友人だ。大切にしておきたい」

友人という単語に仰々しく反応する芹香。

「私と……友達?」

「友達の定義について話すなよ。それは人によって違うからだ。俺はお前を友達だと思ってる。これでこの話は終わり、食堂へ案内してくれ」

「……フフフ、場所知らないんだ」

「転校初日、まだ位置を把握してない」

「分かった。一緒に行こう」

芹香の曇った表情が晴れ、元気に俺を食堂まで案内した。

一応周りを警戒するが、杞憂にも奴らが尾行してくる事はなかった。

あれで懲りる連中じゃない、また仕掛けてくる。

油断せずに警戒していると、食堂へと着いた。

全校生徒を収用できる程の広さで、席もその分ある。

食堂の購買にはコーヒーメーカーがあった。

「コーヒーは飲めるか?」

「甘いのだったら……」

「コーヒー牛乳なら甘くて美味い。金を使わないらしいから、俺が作るよ」

俺はコーヒーメーカーで自分と芹香のコーヒーを作った。

芹香にコーヒー牛乳を渡し、空いている席に座った。

「こんなに広い食堂とはな。昼なら満席になるだろ」

「そうだね……」

「今度、2人で食堂へ行こう。今の所信用できるのがお前と妹しかいない」

「妹さんがいるんだね」

「同い年だが血は繋がってない。義理の妹だ」

「そうなんだ……」

さて、軽く雑談した後は本題に入ろう。

「何で、やり返さない?」

「…………」

「いつまでも舐められたままだぞ」

「……あなたみたいに、強くないから」

強い……か。

「強くなくても意地を持て。あんな奴らに好き勝手されたくないだろ。見返してやるんだ、あいつらに」

「ど、どうやって……?」

「反抗しろ。できなきゃ睨め。そうすれば奴らはお前を警戒する。いつもいじめられてた奴が反抗すればムカつくし、少し恐れる」

「恐れる?」

「そうさ。人間の心理さ。いつもとは違うモノを見ると、人は恐れを抱く。だから奴らにお前の違う姿を見せてやるんだ」

「そ、そんな事できないよ」

「できるさ。今まで我慢してきたお前ならできる。あいつらに鬱憤が溜まってるだろ?それを吐き出すんだ、スッキリするぞ」

俺が芹香に話し終えると、芹香は複雑な表情を浮かべた。

まだ迷ってるか。ま、時間をかけて考えていけばいい。

俺がコーヒーを飲んで芹香の返事を待っていると、食堂の入り口からあのギャルとヤンキー男が着た。

「おい、見つけたぞ」

取り巻きと一緒で、取り巻きの1人が俺を見つけ、全員で向かってきた。

「テメェ、さっきはよくやってくれたな?」

「何の話だ?」

「……!俺らのに希望を与えるような真似しやがって、舐めててんのかコラ!」

何だ、そんな事か。

「芹香、男に助けられてチョーシ乗んなよ」

ギャルが芹香を睨んでキツめに脅す。

それに芹香が怯えるが、俺は敢えて助けない。

代わりにこう言った。

「どうするかはお前次第だ。後悔するな」

どんな選択をしようが、それはお前が決めた事だ。俺はその選択に口出ししない。

芹香が俺に目を向けると、握り拳を作った。

さあ、どうする芹香。意地を見せるか、奴らの言いなりになるか?

「……るさい」

芹香が小声で呟く。

「あ?」

ギャルが芹香の呟きを聞く。

「うるさい!私が普通の制服を着るのがそんなに気に入らないの!?耐えているのが面白い?あなた達は幼稚だ!小学生だ!もうあなた達に屈しない!!」

フフフ、良い顔してるじゃないか。やはり芹香はその方が良い。

「お前っ!!」

ギャルが芹香の反抗的な態度を嫌い、殴りかかってくる。

その拳を俺が受け止め、軽く突き飛ばす。

「きゃ!」

派手に転んだな、そんなに力は入れてないぞ。

「見てるだけか?タイタン」

「おもしれぇ。やってやるぞ!」

大男がストレートなパンチを繰り出した。

遅くて拍子抜けだった。

なのでパンチの腕を弾いて、襟首を掴んで顔に3発拳を打ち込んだ。

まだ意識はあるが、戦闘不能だな。大男を突き放して床に倒した。

「な、何だよ……お前……」

「取り巻きは来ないのか?ま、忠犬はお座りしてな」

わざと煽ると、取り巻きの内の2人が引っ掛かって俺に向かって来た。

前の男にボディーブローを食らわし、後から来た男に盾の男を殴らせ、お詫びにひっ叩く。

「うう……」

「痛い……痛いよ……」

もう俺に立ち向かってくる奴らはいなかった。

それを唖然として視ていた芹香。

「お前は意地を見せたんだ。俺はそれに応える、お前はもう強い女だ」

「蓮司君……こんな所誰かに見られたら……」

そっちの心配かよ。ま、大丈夫だ。

「コイツらが人払いしてある筈だ。コイツらもあまり大事にしたくないからな。大方暴力をちらつかせて人を遠ざけただろ、な?」

ギャルが立ち上がったのを見た俺はギャルに質問をぶつけると、ギャルは明らかに怒った顔をしていた。

「転校生が初日で暴力を振るうなんて、先生に言うわよ」

「何て?『集団で女の子をいじめていたら、突然男が暴力を振るったのー』って?言えるのか」

「…………」

言えないだろうな、コイツも保身を考えるなら問題沙汰にはしたくない筈だ。

分かりやすくて助かるよ。

「これでお前らはオモチャを失くしたな。次からは頭を使えよ」

連中そう伝えた俺は芹香を連れて食堂から出ようとする。

背後から男の声が聞こえ、俺は後ろへ回し蹴りを繰り出す。

当たった感触があるが、妙に固い。

「ちょっと、初日には止めてよ。プロじゃなかったの?」

俺と大男の間に美鈴が割り込んでいた。

俺の蹴りと大男の拳を腕と手のひらで受け止めている。

「何しに来たんだ?」

「探してたの。帰るよ、我が家に」

もうそんな時間か。なら帰らないとな。

足を下ろし、妹と芹香を連れて食堂から立ち去る。

奴らは追って来なかった。今日はこれで大丈夫だ?

明日、また仕掛けてくるなら夜に"楔を打ち込む"か。


「あの子、あいつらにいじめられてたの?」

帰り道、芹香を途中で帰した後、2人で歩いていると美鈴が急に話しかけた。

「まあな。だが、芹香はもういじめられない。勇気を得て奴らを恐れない」

「でも報復があるかも」

「だな。その前に手を打つ。オペレーターと通信は可能か?」

美鈴はため息をついて、肯定する。

「あの子にそこまで手厚くするの?」

「ああ。日本で初めて得た友達だからな」


夜、パソコンのチャット機能を使ってオペレーターと会話した。

『数日ぶりだなジョーカー。日本はどうだ?』

「悪くないぞ、お前も来たらどうだイーグルアイ」

『ま、そんな気分だったら行くよ』

イーグルアイというコードネームを持つ部屋着姿の少女。

彼女はイギリス人だが、極度のネット廃人だ。そのせいかシステム系統の技術がピカイチ、ハッキングもお手の物。

各部隊のオペレーターと情報処理を担当している数少ない後方支援要員だ。

『美鈴からある程度聞いたけど、何の用?』

「芹香をいじめていた連中を調べてくれ。取り巻きもだ」

『そんな事か。ちょっと待ってて』

イーグルアイがキーボードを目に見えぬ速さで打ち込み、数十秒後に手を止めた。

『はい、終わり。学園のセキュリティーも甘いね』

「痕跡を残してないよな?」

『当たり前だ、そんなヘマはしない』

流石イーグルアイだ。良い仕事してる。

イーグルアイから調査結果を受け取ったが、誰も助けなかった理由が分かった。

「男は大手企業の社長の息子、ギャルは野党の有名政治家か。道理で見て見ぬフリをする訳だ」

『特に政治家の方がヤバいね。野党で一番影響力のある男で、娘が起こした問題を金で揉み消してる』

「例えば?」

『たぶらかした男を家族ごと消してる。数年前の記事で裏付けた』

何て父親だ。娘の為に手を汚すのか。

『父親にとって、娘は何よりも大切だ。取り巻きは小規模の企業の社長の子どもばかりだ。一通り調べたけど、どうだ?』

「政治家の方、スキャンダルはないか?」

『待って……あ、1つある。週刊誌の一面だけど、不倫で一時騒ぎになったみたい。示談でその場を収めたみたいだけど、今もライバルの政治家が調べてる』

「裏は取れそうか?」

『これ以上は有料だぞ』

フフフ、そう言うと思った。

「なら、日本で発売している最新家庭用ゲーム機を取り寄せる。それでどうだ?」

『……!ソフトはFPSとRPGの2つ、いや3つ』

「分かった。やってくれたら注文する」

イーグルアイは報酬の為に精一杯調べてくれた。

その結果、スキャンダルの裏を取れ、また別のも浮上した。

「それをマスコミや新聞各社に匿名でばら撒け。明日が楽しみだ」

『ふぅ。これでマイルームが豪華になるぞ……フフン』

「またこういう時があるかもしれない。その時は頼む」

『任せろ。報酬があるなら調べ上げる。じゃ、もう眠いから切るぞ』

「大尉によろしく言っといてくれ」

『ああ。じゃあな』

画面が切れ、俺は椅子にもたれかかる。

これから寝て、明日がどうなるか予想しておくか。


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