第一章学校潜入編 エピソード1
あの特殊作戦から1日が経ち、俺とラビットはアメリカ、ロサンゼルスのオフィスで仲間達と出会った。
「来たか。では、ブリーフィングを始めよう」
大尉がそう話すと、ボードを使って説明する。
「前回の作戦ではよく頑張った。予想外の勢力が襲ってきても、俺達は任務を成功させた。俺から賞賛の言葉を送る」
大尉が皆に感謝の言葉を言うが、俺は素直に喜べない。
どうして中国軍の特殊部隊がイラクにいたのか、原因が分からないからだ。
他のメンバーもウッドとシムを殺した特殊部隊の事でモヤモヤしている。
「あの特殊部隊について調査中だ。分かり次第伝えるから、次の任務について話すぞ」
「もう次の任務か?早いな」
「飛び入りの依頼だからな。しかも今度の場所はジャパン、日本だ」
ほう。日本か……。
「日本って、ジョーカーの故郷だよね?」
そう。俺は日本で生まれて、日本である程度育った。
国籍はこの部隊に入った時に処分したが。
「そう。その日本の公安からの依頼だ」
公安委員会が直々に依頼か、簡単じゃなさそうだ。
「東京にある名門国立高校に潜入し、様々な悪どい勢力に個人情報を売り捌いているスパイを捕らえる。それが任務だ」
「スパイだと?」
「ああ。公安でスパイがその高校にいるのを突き止めたが、問題は学校の誰がスパイか特定が難しい事だ」
大尉がその高校について説明してくれた。
2020年に新しく建てられた国立高校『神聖学園』。
あらゆる日本の重要人物達の子どもが通う名門高で、費用もかなりかけられている。
日本の才能を育てる高校として、世界中からメディアで取り上げられている。
そんな高校にスパイがいるとはな。
「しかも潜入となると人数が限られる。そこで、俺は潜入メンバーを2人に任命する。ジョーカーとラビットだ」
俺はやっぱりかと思ったが、ラビットは自分が任命されると思わず驚いていた。
「え!?私?」
「そうだ。ただお前達が16だからじゃない。実力を見込んでいるからだ」
「それに、バディを組んでから付き合いが長い……か」
「そうだ」
なるほど。大尉が任命した理由が理解できた。
「ただ、もう6月に入った。そこで、お前達はアメリカから来た転校生って事にする。あそこは外国人の高校生もいるから問題ないだろう」
「偽装工作は任せな。得意分野だ」
オペレーターの少女が自慢げに、誇らしく言った。
「詳細はまた連絡する。2人はこれから日本へ向かえ。チケットを用意してある」
「了解。どんな任務でもやり遂げる」
「分かりました!彼と任務を遂行します!」
俺とラビットは大尉に宣言した。
まさかラビットと2人で潜入任務か。初めての任務だ。
だが、俺達はプロだ。どんな任務も成功させる。
学校だろうがどこだろうが、潜入してやる。
翌日、国際便で日本へ着いた。
成田空港からバスで学校がある東京へ向かっている途中、ラビットから俺の仮の戸籍をスマホで見せた。
「はい、これからあなたの名前は『白銀蓮司』よ」
白銀蓮司……仮の名でもよく使う名前、覚えておこう。
「ちなみに私は『白銀美鈴』。妹って設定よ」
「妹?お前が?」
「兄妹として私も潜入させる気みたい」
大尉、面白半分で偽装工作を手伝ったな……。
おかげでバディが妹と化した。
「
「学校から数百メートル離れた一軒家よ。かなり高級みたい」
「ま、金持ちが通う高校だから、俺達の家も合わせないと怪しまれる」
「だね。ねえ、私日本語上手い?」
「ああ。使いこなせてる」
ガッツポーズで喜びを見せるラビット、いや美鈴。
これからどうなる事やら……。
数時間後、そのアジトに着いた。
確かに高級な家だ。買うとしたら5000万はかかるんじゃないか?
家に入って荷物を置き、部屋の中を調べる。
ふむ。盗聴器やカメラは仕込まれてないか。
「凄い!お風呂が大きい!あ、キッチンも高いやつ!」
美鈴ははしゃいで家の中を回っていた。
アイツ、仕事で来た事を忘れてないか。
俺は荷物を自室に運び、大尉言って用意させた物を取って組み立てる。
美鈴が俺が組み立てたモノを見て驚く。
「ちょっと、銃を持ち込んだの?」
「大尉に用意させた。流石に非武装はまずいんでね」
組み立てたG17をハリボテのラジカセに隠す。
「……弾は?」
「ラジカセの中。サプレッサーもある」
「銃を使う機会はまだなんじゃない?」
「そうか?でも用意しておくに越した事はないだろ。お前の拳銃Five Sevenも置いといたからな」
美鈴がため息をついて、部屋のベッドに飛び込んだ。
「相変わらず用心深いね。初めて会った時から変わらない」
「お前もお気楽な性格は変わってなくて何よりだ」
「嫌み?」
いや、そんな事は微塵も思っていない。
「夜にオーダーメイドの制服が届くって」
「あの学校、制服は生徒で用意させるってどんな考えでそう決めたんだ?」
神聖学園の制服は生徒個人で用意させる。
オーダーメイドした制服を着た生徒が多くて、選らはれた人間しか通えないという風潮が出来上がってるらしい。
「明日はいよいよ高校に行くよ。今の気持ちは?」
「どうって事はない。プロとして、こなしていくだけだ」
「あなたらしいね。じゃ、食べ物と飲み物、消耗品を見てきまーす」
そう言って美鈴は部屋から出た。
俺は椅子に座り、隠していたG17を手に取る。
「……もう日本に未練なんてない」
昔の事を思い出し、苦虫を噛み潰したように吐き捨てた。
アジトで夜を過ごし、翌日用意してくれた制服を着て学校へ向かった。
10時に行ったから通学している学生はいない。
大尉の計らいで学校側に俺達の事を知らせてある。
校門の前にたどり着き、そこから校舎を見る。
何とも綺麗でデカイ学校だな。これだけで幾ら費用をかけてる?
校門を抜け、昇降口で靴を室内用の靴に履き替え、職員室へと向かう。
すぐに職員室のプレートを見つけて、職員室へ入る。
「例の転校生ね。こっちよ」
机に座っていた女性が俺達に向かって挨拶する。
「ようこそ神聖学園へ。私は蓮司君の担任の松永よ」
「よろしく松永先生」
担任の松永と握手を交わす。美鈴も挨拶して握手する。
「美鈴さんは隣の3組よ。私は2組の担任。一緒に行きましょう」
松永先生が俺達を連れて教室へ案内する。
「あなた達、制服似合ってるわよ」
そうか?
俺は赤と黒のブレザー、美鈴は白と黄色のブレザーの制服だが、似合ってるなら良かった。
「あなた達、前までアメリカにいたのよね?どうだった?」
「別に、それなりに暮らしてた。面白い話はあまりないさ」
「そうそう。そう変わらないと思うな」
先生の質問を軽く返した。
前までアメリカ所か世界中を回ってたなんて言えない。
適当に返して誤魔化そう。
階段を上り、しばらく廊下を歩くと2組のプレートが見えた。
「2階は1年の教室よ。美鈴さんは奥の3組に行って」
「じゃ、またね」
「ああ。またな」
美鈴と別れ、先生が先に教室へ入る。
その前まで教室は騒がしかったが、先生が来るとシーンと静かになった。
あれか、アニメで観た転校生イベントってヤツか。
どんな転校生が来るのか生徒達が噂するというヤツ、現実で起こるとは思わなかった。
先生が拍手して生徒を落ち着かせ、転校生である俺の事を軽く話す。
男だと知ってから男子はガッカリし、女子は大はしゃぎした声が聞こえる。
やはり、小さい頃に観たジャパンアニメは参考になる。
しばらく待機していると、俺の名前が呼ばれた。行くとするか。
俺は教室へと入り、真っ直ぐ教卓へと向かう。
教室の生徒達はひそひそと俺の話をしている。ほとんどが見た目についてだ。
まさか、聞き耳の精度の高さがこんな所で活かされるとは。
「はい、蓮司君。自己紹介」
アニメならボードに名前を書くが、もう先生が俺の名前を書いてくれていた。
俺は生徒達に自己紹介する。
「白銀蓮司だ。前までアメリカにいた。日本に来るのはかなり久しい。分からない事が多いから、教えてくれると助かる。よろしく」
これでいいのか?
「やだ、凄いイケメン」
「長くアメリカにいたにしては、日本語上手いな」
概ね好評か。まずまずといった所だな。
「じゃ、蓮司君。特技を教えてくれない?」
おい、それは初めて聞くぞ。先生からのサプライズか。
特技か……戦闘以外だと……アレがあるな。
「アメリカにいる間に色んな言葉を覚えた。英語や日本語だけじゃなくて、ロシア語、中国語、韓国語、アラビア語、フランス語、コンゴ語、スペイン語など色々話せる」
そう言うと生徒達は大騒ぎ。
「じゃ、2つ紹介して」
2つか。1つはアラビア語にしよう。
「مرحبًا ، هذا رينجي. سعيد بلقائك.(こんにちは、蓮司です。よろしく)」
「うわっ、スゲー、ガチやん」
「凄い、流暢なアラビア語だね」
次は……言ってないあの言葉にするか。
「Buna ziua. Mă bucur că vin la această școală.」
「え、どこの言葉……?」
「分からん」
「聞いた事がない……」
そうか。ルーマニアは日本とあまり縁がないからな。
「今の言葉はルーマニア語だ。『こんにちは。この学校に来て嬉しい』と言ったんだ」
俺が語学の才能があると確信した生徒は賞賛の拍手を送った。
ふむ。これで俺の印象操作は大丈夫だろう。
そう思って生徒の顔を見ていると、1人だけ下を向いている女子生徒がいた。
他の生徒と違って、制服が普通だ。
情報には、一般人も難易度の高い学力試験を合格すればこの高校入れる。
一般試験で合格した一般人、後で調べよう。
「はいはい、これで転校生の紹介は終わり。席は……中央の後ろから2番目の席に座って」
お、あの下を向いていた女子の隣か。
俺はそこまで歩き、他の生徒から挨拶されながら席に座った。
「よろしくな、名前は?」
「……芹香」
「芹香、これからよろしくな」
小さな声で返事して視線を外す芹香。
……あの顔は痛みに耐え、顔に出さないようにしている。
彼女に向けられる視線、10時と2時の方向か。
やれやれ、やはりどの学校でもあるんだな。
今は様子を見て、彼女を監視しよう。
先生が授業を始め、俺は授業に取り組んだ。
科目は国語、現代文だ。
それなりに授業を受けていると、芹香がスマホを見た。
画面を見て青ざめる。個人メールで嫌がらせか。
やはり視線が同じ方向から感じた。屈強なガタイの男とギャルの女、そして取り巻き数人か。
ギャルがメールを送ってるのか。臆病者め。
「芹香、貸せ」
俺は芹香のスマホを取り、『嫌がらせすんな』と返信した。
俺が返信したのを見たギャルは俺を睨み付けた。
『16にもくだらない事すんな、JK』
と返したらさらに睨んできた。これでこっちに注意が向いたな。
「ほれ、これで奴らは俺に矛先を向ける」
「そ、そんな。危ないよ」
心から俺を心配しているのを感じた。大丈夫だよ芹香。
「ああいう奴らは群れる動物と一緒。仲間がいるから調子に乗る。ま、その内俺にイタズラしてくるだろ。その時にお前を忘れるぐらいイラつかせるよ」
さて、奴らがどんなイタズラをするのか楽しみだ。
それにしても、芹香のいじめは他の生徒も知ってるだろうに、誰も助けない。
ま、自ら危険に突っ込む奴なんていないか。
「蓮司君、私の事はいいから。助けなくてもいいから」
芹香のこの言葉、そうやって自分で何とかしようと追い込んで、いつか精神が病むな。
だが、芹香は良い奴だ。俺は助けるよ。
「~であるけど、作者はどう思ったのか?ここを……せっかくだから蓮司君に答えてもらおうか」
よし、じゃ行くか。
席から離れ、前に歩くと急に足をこちらに伸ばしている男子生徒。
卑しい顔から取り巻きだと把握する。ギャルが指示したのか。
俺はそのまま歩き、わざと足を強く踏んだ。
「痛っ!!」
「おっと、下を見てなかった。すまない、大丈夫か?」
俺は男子生徒に謝ってそのまま歩く。後ろから視線を感じたが無視して先生の質問に答えた。
話半分には聞いてたからな。
席に戻ると、あの男子生徒が消しゴムを飛ばしてきた。幼稚だな。
俺はその消しゴムを手で掴み、席に座った。
「…………」
そんな幼稚な事をするからだ。そんな怒った顔すんな。
日本の学生はあまり勤勉ではないのだな。少しショックだ。
「蓮司君……」
「大丈夫だ。何にも問題はない」
だが、芹香のような優しい人間もいるようで安心したのは事実だ。
どの国も、善悪の人間が蔓延っている。
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